その28 なつみとなおみ
レヴィアブリッチ。桜井が艦長席に座るロクに向かって叫ぶ。
「出発しますよ。艦長!」と桜井。
「艦長って・・・お、俺かい?」
桜井の突然の言葉にロクは動揺する。
「はい、おやじさんに帰りの指揮はロクさんにやらせろって。」
「か、艦長をか?で、出来るわけないだろ?俺は陸戦歩兵部隊の・・・」
「ふふふ、嘘ですよ!ただそこに座っててくれれば、後は我々がしますから・・・」
「そ、そうだよな・・・?」ホッとするロク。
「左がレーダー員の国友、右が通信兵の三島です!」桜井が二人のクルーを紹介する。
「国友です!」
「三島です!ロクさんを乗せれて光栄です!」
「ああ・・・頼む・・・」顔が益々強張るロク。
「ふふふ、この人結構人見知りなんだよ!」笑いながら二人に紹介する桜井。
諦め半分で今朝おやじさんが座っていた、後方の指揮席に腰掛けるロク。ブリッチが慌ただしくなった。
「アンカー切り離せ。レヴィア1番艦潜水準備!」
「進路クリアー!ブリッチタラップ上げます!」と三島。
1番艦のブリッチの階段が上がり、ブリッチは密閉される。桜井は艦内用の無線のプレーストックボタンを押し放送を始める。
「本艦はこれより、潜水航行を取る!各員配置につけ!」
『艦内異常なし!左右バランス良好!』スピーカーが鳴る。
「潜水します!」桜井が操縦管を引く。
レヴィアはP7のすぐ側で海に潜り始めた。30メートル程海底に潜ったあと停止する。
「180度反転。取り舵一杯!」
レヴィアはその場で艦首を反対側に向け始めた。
「進路P6。微速前進0、5ノット!」
「P7より無線。ロクさん宛てです!」と三島。
「こっちに繋げ!」
ロクの座っていた席のスピーカーより久弥の声が聞こえた。
『ロクか?弘士に志願兵を頼むと伝えてくれよ。』
「はあ?」
『至急、兵らは海兵としてものになるまで鍛えると・・・』
「了解です!」
『任せたぞ。ロク・・・』
P6の街外れ。ある建物から大場の家族が現れた。そこへ待ち受けていたのは桑田だった。
「大場さんですよね?」と桑田が笑顔で近寄る。
「そうだが・・・」と大場。
「家まで案内を任されました。桑田と言います。」
「よろしく。先日は・・・」
「よろしく・・・」と直美。
「家はこちらになります。行きましょう!」
「はい。」
桑田は先頭を歩きながら、後ろの直美に話しかける。
「ダブルさんが喜ぶ訳が分かりました。」
「えっ?」突然に驚く直美。
「綺麗な人って言ってましたけど、直美さんですよね?」
「あいつ・・・そんな事言ってたの?」目が険しくなる直美。
「はい!」
「なんか鼻に付くのよね。あの背の低いの・・・そしてもう一人の奴・・・」
「だ、だ、誰ですか?」嫌な予感の桑田。
「ロクだっけ?あいつの名前?」軽く握り拳の直美。
「ああ、ロ、ロ、ロクさんですか?ま、まぁ変わりもんで屁理屈屋で頑固ですけどね・・・ははは・・・ははは・・・はぁ・・・」何か気まずい直美との間の空気。
「あいつの事、よく知ってるの?」今度は直美が質問する。
「私、ロクさん専属のメカニックなんです。っていうか、子供の頃からいつも一緒で兄貴なんですよ。ダブルさんもみんなです!」
「そうなんだ・・・そう言えば、あいつ四天王なの?」
「しっ!・・・ここでは四天王って禁句です。四天王狩りはポリスの中でもあるんですよ。ジプシャンはどうも街にスパイを侵入させているようで・・・」
桑田は直美の四天王の言葉に敏感に反応し辺りを警戒した。
「そ、そうなんだ。」口を手で覆う直美。
「ど、どうしてロクさんが四天王だと?」
「父がね・・・保護された帰り、車の中であいつに向かって四天王じゃないかって聞いたら、最初はハイって言ったんだよ。」
「あ、あいつ・・・」次は桑田が握り拳を作る。
「えっ!?どうしたの?」
「いえ、べ、別に・・・そ、それで?あいつ・・・いえロクさんなんて言ったんですか?」
「四天王さまが直々にジプシーの保護に来ますかー?って言ってたかな?」
「そ、そうですよね。そ、その通りですよ・・・」何か誤魔化そうとしているなつみ。
「四天王様って言うくらいだからやっぱり違うのかな?でも変な奴だよね?あいつら・・・?」
「た、確かに変わってます。でも・・・」
「で、でも・・・?」ここはすぐ突っ込む直美。
「優しいですよ~ん!ロクさん・・・」
既に自分の世界に入り、一人照れるなつみに対し、直美は冷ややかな視線だった。
「ふーん、そうなんだ・・・桑田さんでしたよね?桑田さんはポリスの“人”なの?」
「い、いえ・・・私、ジプシーの出で・・・」
「そうなんだ。なんだ同じだね。私、ポリス嫌いなんだ。逃げてるばっかだもんね!」
「す、すいません・・・」
「なんで桑田さんが謝るの?私はポリスが嫌いと言っただけで・・・」なぜかなつみの態度に恐縮する直美。
「ここで育ったんです・・・ポリスに助けられたと言うか、育てられたというか・・・」
「そうか・・・ごめん・・・そうだよね?ここで育ったらここが故郷
だもんね・・・?」
「い、いえ・・・」再度頭を下げる桑田。
「ねぇ?なつみちゃんはいくつなの?」と直美。
「15です。もうすぐ16ですが・・・」
「15?なんだ~!一緒じゃん!」
「そうなんですか。全然年上に見えました。嫁がどうのこうのって言ってたんで・・・」
直美が険しい顔でなつみを覗き込む。
「な、何よ?嫁ぇー?い、いきなり、何の話よ?」今度は両手が拳の直美。
「い、いえ、こっちの話です・・・」気まずくなった桑田。
そこに大場が慌てて二人の会話に割り込んでくる。
「そ、その話は、冗談だよ・・・」と大場。
「えっ?お父さんまで・・・ちょっと、何なの二人して・・・」怒る直美。
「そ、そうなんだ・・・冗談でしたか・・・あっ、ここが大場さんたちの新しい家になります。」
そこは街から少し離れた所にあった家であった。他のジプシーが入れない軍施設内に10軒くらいの家が立ち並んでいる。家の近くには機関銃を持った兵が3名程見える。
「給食センターは向こうになります。学校はあっちです。しばらくは大場さんたちは、監視と護衛の兵が付きますので・・・御用があれば兵に申して下さい。」
「学校がまだこの世にあったとは・・・」
「読み書きは必要ですからね!私も最近読み書きが出来るようになったんですよ!」
「時代って奴だな・・・?わかった・・・ありがとう。」桑田に礼を言う大場。
「よかったら、学校と給食センター案内しますよ。直美さん、みんなで一緒に行ってみない?」と桑田。
「うん。行こう行こう!お父さんいいよね?」
「ああ、行っておいで!」
桑田は直美の弟と妹を連れて、別の施設に向かった。
P6指令室。柳沢が監視中に異変が起こった。
「西から敵SC・・・た、大群です!」と蒼くなる柳沢。
「街に警報だ!風神出せ。バズー、ダブルも呼べ!」と弘士。
「了解!」と我妻。
「柳沢、正確な数を出せ。松井、レヴィアはどうか?」
「現在、こちらに向かっています!」
「各ブロック外壁砲座用意!予備兵は各ゲートだ!」
「数150!車両不明!新型です!」と柳沢。
「150・・・ジプシャンの本隊なのか!?」弘士は驚く。