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四天王  作者: 原善
第一章 プロジェクトソルジャー
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その24 神の区域

『どうした聖!?奴はどこに行った!?』無線で叫ぶヒデ。

「ここにいるの・・・」聖はロクの様子を伺いながらヒデに答える。

『はぁ?』

「奴は・・・奴はここよ・・・この丘の上にいるの・・・」

『どういう事だ!?分かるように言え!』無線の中でも混乱するヒデ。


 ヒデとの無線をする時も、聖はロクを見つめていた。ロクはいつものハット、ポンチョ。口のスカーフはなく顔を晒している。ロクは笑顔のまま聖を見つめていた。


「奴だ!奴が来たぞ!」

「雷獣だー!」

「銃を持てぇー!」


 急ブレーキの音か、ヒデの無線を聞いていたのか、聖の周りにライフルや銃を持った仲間が集まり始めた。皆、ロクとジャガーを見ては度肝を抜かれた。

「ひ、ひとりかよ・・・!?」

「雷獣・・・!?」驚く聖の仲間たち。



 P6指令室。

「く、黒豹!丘の上に停止してます!」驚く柳沢。

「えっ!?」

「どういう事だ!?く・わ・た?」

 弘士は少しキレ気味に桑田を怒鳴る。

「ロ、ロクさん・・・?」心配そうな桑田。



 ヒデの仲間は聖を中心に左右に展開し始めた。その数はおよそ25人。女性や老人の姿もある。


「動くな!」


 その声に、皆が停止した。ロクはピクリとも動かず、聖を見つめ笑顔のままだった。すると聖が皆を制止すようにと、無言で左手を挙げ“動くな”の合図を出した。すると、聖は意を決して口を開いた。

「動くなだと?それはこっちのセリフだ!こっちはこの人数だぞ。そっちこそ手を上げろ!」

「数は関係ないぜ。なんだ俺はそっちから“らいじゅう”って呼ばれてんのか?」

「四天王か!?」

「さあな・・・」その質問は素っ気なく答えるロク。

「こ、これは、なんの真似だ!?」そのロクの態度にやや躊躇する聖。

「あんたがリーダーか?なら話が分かりそうだな?あの装甲車がここに来るまで2分は掛かるだろう。それまでに考えてくれ!」

「何をだ!?」

「あんたらを保護する!」

「ふ、ふざけるな!」


 ロクの言葉に、聖は一瞬、言葉を失った。

「俺は、無駄な血を流したくないだけだ。」

「な、何を言ってるんだ?お前!?」ロクの意外な言葉に驚く聖。


 聖は言葉が詰まった。時折ジャガーが作り出した砂埃が丘の上まで巻き上がってくる。その都度、10メートル程しか離れていないロクの顔が見えなくなる事があった。

「それが嫌なら、ここからすぐ立ち去ってくれ!」とロク。

「お、お前は、弟の仇だ!」

「かたき?」

「よくも弟を・・・」憎しみの顔に変わる聖。

「おとといの炎上した車か?」

「そ、そうだ!」

「そうか・・・すまなかった・・・」

「なっ・・・どうして?どうしてそっちが謝んのよ!?」


 否定されると思った聖だったが、ロクが素直に謝罪したのを見て驚いた。

「さっきの件、時間がない・・・どうする?」


 すると聖の右にいた男が少しずつ横に移動して、ロクにライフルを向けようとした時だった。一発の銃声が聞こえた。よく見るとロクのポンチョの内側から発射されたのだろう、ポンチョには穴が開き、煙がロクの体を漂っていた。聖が右の男を見ると利き手を押さえて蹲っている男がいた。


「動くなと言ったはずだ!」聖を睨むロク。

「ちぃ・・・」


 驚いたのは、ロクは銃を撃つときも聖の目を見たまま銃を撃っていたのだ。そして今も聖の目を見ている。その異様な光景に誰もが動けなくなった。

その時、先程よりも濃い砂煙が再び丘の上を包みこんだ。視界が悪くなり、互いの顔が見えなくなるほどだった。


「今だ!撃て!」

 聖の後ろで、誰かが叫んだ。

「ま、待って!」


 聖は仲間を制止しようといした。しかし、仲間たちは一斉にロクのいた方向に、銃口を向けた。砂煙がロクの姿を隠そうとしていた。その瞬間だった。何発かの銃声が続いて響いた。20発は鳴ったであろうか。その後銃声は消え、風の音しか聞こえなくなった。すると風が強く吹き、再び視界が開けて来た。聖はロクの立っている姿を確認した。よく見るとロクのポンチョに銃弾の穴がたくさん開いているのを確認した。


『殺ったのか?』聖は心の中で叫ぶ。


 しかし更に視界が開け周りをよく見ると、すぐ側にいた銃やライフルを持った仲間たちだけが、腕や指、手の甲を押さえてしゃがみ込んでいた。撃たれていたのは自分の仲間たちだったのだ。ロクはポンチョから銃を出す事なく、20名近くの仲間を撃っていたのだ。


「先に抜いたのは・・・そっちだぜ・・・」


 唖然とする聖。すると、装甲車のエンジン音が丘の下から聞こえて来た。


「時間だ。立ち去るんだ。いいな?」

 するとロクは、慌ててジャガーに乗り込んでその場を急発進する。


「レ、レベルが違いすぎる・・・」


 聖は急に恐くなって、その場に跪いた。そこへヒデらが乗った装甲車が丘の上に到着し、聖の側に停止した。ドアが開きヒデが慌てた様子で出てきた。


「どうした!?聖!?」

 聖は、しゃがんだまま動くこともなく、正面を向き、他の仲間は手を押さえていた。ヒデは聖や仲間の様子が尋常でない事を察した。

「お前ら・・・何があったんだ?」



 P6指令室。

「黒豹、動きました。こちらに向かっています!」と柳沢。

「ロクの奴・・・桑田!?無線は?」弘士が桑田に問う。

「応答なし!切ってると思われます・・・」

「桑田、一度任務を離れ、ロクをここ連れて来い。」

「わ、わかりました!」



 丘の上のヒデは、静まり返っていた。

「どうしたんだ?奴に何されたんだ?」

「ここを・・・ここを撤退しろと・・・」

「なんだと!?」


 そこへ、丸田が駆けつけて来た。

「指を折った者が一人。後は打撲程度だ・・・驚く事に、血一滴流れてないよ・・・」

「ぜ、全員撃たれていないのか・・・?」驚くヒデ。

「化け物よ・・・奴は・・・」

「説明しろ聖!」

「一人で乗り込んで、銃を構える事なくポンチョの下から銃やライフルを持った者の銃だけを撃ち抜いた・・」

「馬鹿な・・・」とヒデ。

「この人数で勝てなかった。しかも向こうは銃だけを・・・砂の中に入って視界が見えないのによ!相手にならない。奴の腕は神の区域よ・・・」

「嘘だろ・・・」丸田も驚く。

「リキの死を責めたら、反論どころか謝罪したのよ・・・おまけに私たち全員を保護してやるって・・・私たちが戦っている相手ってなんなの?ねぇ!?」

「ポリスだろ・・・」素っ気ないヒデの返答。


 聖はヒデのポンチョを掴むと急に涙を流し始める。

「ねえ?なんで奴らと戦わなければならないのよ。ポリスは間違っているからじゃないの?」

「それは・・・」

「もう争いはやめようよ!わかんないよ。ポリスもジプシャンも!あれが四天王なら、あんなのがあと3人もいるのよ?勝ち目なんて到底ないわよ・・・」

「やめてどうするんだ。」

「ポリスに投降するの。このままだと、うちら全滅する。あんなのが相手じゃ絶対・・・」

「恐くなったか?雷獣に?」

「うん。あいつは身を呈して私たちを説得に来たの・・・しかも殺さずに生かしてくれた・・・あれがジプシャンならどうなってた?全員殺されてたよ!」

「投降したいなら勝手にしろ!俺は止めはしないぜ!」


 二人の気まずい会話に丸田が割って入った。

「ヒデ・・・言い過ぎだ。聖もそんなこと言うなよ。聖も銃を向けられたからだろ?怖くなっただけだよな?このタケシの作戦まで待てよ。」

「俺は止めはしない・・・逃げたら銃殺だ!」とヒデ。


 そう言うとヒデは二人の前から立ち去って行った。

「おいヒデ!!聖もよく考えろ。な?な?」

「勝手にするわよ・・・」

聖もヒデの反対方向に歩き始める。



 ロクがP6に帰ってきた。北ゲートの修理が終わっていたのか、ロクは北ゲートをオペの我妻に誘導され街に入った。しかしそこは、軍ブロックの一つでジプシーは一人たりともいない。銃を持った兵が、倉庫や大きな建物の前にいるだけの所だった。


 ロクはある建物の前に停車すると、車内からエレベーターの操作をし、扉が開くのを待っていた。するとロクのジャガーの助手席をノックする者がいた。ロクが窓を覗き込むと、軍服だけのキーンの姿があった。ロクは助手席側の窓を開ける。


「どうした?キーン?」とロク。

「ロク!内部でヤバイ事になっている!」深刻な顔のキーン。

「何っ!?」


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