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四天王  作者: 原善
第一章 プロジェクトソルジャー
23/209

その23 逆襲と奇襲

 死龍は一人ゲート前で泣いていた。嬉しくて泣いているのでもなく、悲しくて泣いているのでもなく、自分自身がなぜ泣いているのかがよく分かっていない様子だった。


 ゲートが完全に閉まり荒野から吹く風と砂が収まる。するとようやく死龍は涙を拭き始めた。やがて死龍はゲートを後ろにして再び歩き始めていた。



 ロクはジャガーのギアをトップに入れた。スピードメーターはすぐに300キロの部分を指していた。機銃の音が聞こえていたが、ロクは前だけを向いて車を走らせていた。


 ロクはエアーブースターのスイッチを再び起動させると、車内は空気の流動する音が大きくなり、ジャガーの後方を大量の砂煙を巻き起こしていく。ジプシャン軍のバイク隊の何台かがジャガーを追っていたが、その砂煙で転倒したり、他のバイクと接触したりして追うことが不可能となってしまった。ジャガーは更にスピードを上げて荒野を駆け抜けていく。



 P6の取調室。大場とダブルが机を挟み向かい合って座っていた。大場は不機嫌そうな顔をしている。

「もう、あんたに話す事はないぞ・・・」

「あんたの脱走理由が、どうしても気になるんだな・・・これが・・・」目を細めるダブル。

「言った通りだ・・・嫌になった!」と強気の大場。

「スパイは誰なんだ?」

「それは、知らないと言ったはずだ!なんでもかんでも知っているかよ!」

「ここから、情報を持ち出すのは至難の技だ。どうやって情報を持ち出すと思う?」

「ジプシーは地下3階までしか入れないだろ?それ以下に入れるジプシーだっているよな?」

「確かにいるが・・・」

「その中の誰かだよ。スパイは・・・」

「馬鹿を言うな。地下4階に入れるのは、ここで育ったジプシーだけだ。それも数名なんだよ!途中で保護されたジプシーは入れない。もしいるとなれば限られた者だ・・・」



 P6の指令室。弘士、久弥、曽根を初め、何人かがモニターでこの二人の様子を見ている。

「こちらを、混乱させる気では!?」と曽根。

「可能性はある。だが奴が嘘をついてるようには見えない。」と弘士。

「もし本当なら。ロク、キーン、バズー、ダブル、桑田、松井の他10名もいないはず・・・」と曽根。

「しかし、彼らは、1才から3才に保護され、ここで育っている。向こうと接触しようがない!」久弥はその言葉に反論した。

「その前はどうでしょうか?」と曽根。

「まさかな・・・?幼い子供だぞ!?そこまで疑うか?そんな事を子供たちに教育出来るはずはない・・・」と久弥。

「念には念をですよ。全員調べさせます。それでいいですか?前司令?」弘士が重い口を開く。

「わかった・・・」


「敵SC隊確認!」

 指令室に柳沢の声が響いた。

「数は?」弘士が自分の席に戻る。

「数約20。装甲車を含む、いつもの常連です。いつもの北の丘です!また“キャンプ”の様子です!」と柳沢。

「またか・・・四天王の首か・・・?街への警報はいい。もう夕方だろ?今日は、襲っては来ないだろうな。松井!一応バズーを待機させろ!」と弘士。

「了解!」


 桑田の隣には18才くらいの女の隊員がいた。名前は松井。彼女もジプシー出身で、桑田同様に指令室勤務を任されている者だった。その時、柳沢が叫ぶ。


「北西10キロにSC!黒豹です。」


「早っ・・・」

 桑田は耳を疑った。


「ロクのジャガーか?桑田どうなってる?ロクは今日は向こうに“お泊り”じゃないのか?」

「はい!早く帰るかも?とは言ってましたが・・・早過ぎでしょ?まだ日暮れ前ですよ。」


 半分諦め顔の桑田の様子を見て、弘士も悟った。

「ロクに連絡!例の丘に装甲車!迂回しろと!・・・このままだと横っ腹を突かれる可能性がある!」

「了解です!」

「往復600キロ以上。僅か4時間ちょっとかよ・・・」

「こちらP6の桑田。黒豹聞こえますか!?」


 すると桑田の前のモニターに、ロクが映し出された。

『こちら黒豹。聞こえます。どうぞ。』

「早いお帰りで・・・?」と桑田。

『どうした?桑田?』

「あっ・・・えーと・・・例の丘に装甲車です。念のために、迂回ルートをお取り下さい!」


『遅い!今通り過ぎたぞ!あと2分で着く。このままP6に向かう!』

「し、しかし・・・」

『なんとか・・・する!』

「出た出た・・・」呆れる桑田。

『任せろ!』


 そう言うと、ロクは一方的に無線を切ってしまった。

「この自信どっから来るのやら。」



 その頃、ヒデたちはP6を見渡せるリキたちの墓がある丘に来ていた。ヒデと丸田は既に車から降りてP6を見下ろしていた。すると、ひじりが慌ててヒデの所にやって来た。

「ねぇ!?北からなんか来るよ!?」聖が二人に叫ぶ。

「何だ!?」とヒデ。

「タケシか?」

「砂煙は1台だけよ!」


 ヒデは丘から北を双眼鏡で覗く。すると南に走っている、ジャガーの姿を見つける。


「雷獣だ!俺は運がいい・・・丸田!急げ!装甲車で出る!」

「らいじゅう?ライジュウって何よ!?」と聖。

「待てよ。ヒデ?ここで待機だろうが!」丸田がヒデに反論する。

「タケシに先に殺らせるか!奴を倒せば、仲間を楽させれる!リキの仇もな!いいから出せ!」

「あのスピードだ。ここからじゃ間に合わないぞ!」

「体当たりしても奴を潰す!出せ!」


「あたいらは?」聖は自分自身に指を差した。

「お前らじゃ奴は無理だ!ここにいろよ!」

「へいへい・・・」目を細くしヒデを睨む聖。

 ヒデと丸田は装甲車に乗り込み、ジャガーの進路方向へ丘を駆け下りていった。それを見送る聖。



 ロクの車内から、向かって左の丘から装甲車が猛スピードで丘を駆け下りてくるのを見つける。

「体当たりでも仕掛けて来るのか!?懲りないな!俺ばっか付け狙うなよ・・・しょうがない!このカストリーがただの偵察車じゃないのを見せ付けてやる!」

 ロクは再びエアーブースターを起動させると、ギアをローに下げハンドルを左に切り丘の方へと登って行った。



 面を食らったのは装甲車のヒデたちだった。勢いよく雷獣の進路を塞ぐ為に丘を降りてきたのに今、自分たちのいた所に雷獣が向かったのだから。

「丸田!急いで戻るぞ!Uターンだ!」慌てるヒデ。

「無理だヒデ!この傾斜だ!このままUターンしたら、こいつの車高だ!転倒して丘を転げ落ちるぞ!?」


 雷獣は丘に登っているが全くスピードを落とす事無く、丘を上へと上がって行く。ヒデが無線を飛ばした。


「聖!そっちに雷獣が行く。真横からタイヤを狙え!」

『はぁっ?ライジュウって?ち、ちょっと待ってよ。こっちは、なんの準備もしてないわよ!』



「突破すつもりだったが・・・行ってみますか?」

 ジャガーは装甲車と丘の上の間を、砂煙を上げ突破する予定だったが、何を思ったのか更にハンドルを左に切り、丘の一番上を目指した。ジャガーは大量の砂埃を上げ丘の上に到達すると、聖の前で急ブレーキをかけ停止した。


「えっ・・・?」

 唖然とする聖。するとジャガーからロクが降りて来た。ロクは満面の笑みで聖にこう言った。


「どうも~」車越しに聖に手を振るロク。

「こ・・・こいつが・・・雷獣なの?」突然の訪問者に動きが止まる聖。


 日は西の山脈に沈み始めていた。赤く染まろうとしている空の下、ロクと聖は丘の上で向き合っていた。


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