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四天王  作者: 原善
第一章 プロジェクトソルジャー
22/209

その22 ロクと死龍

 ロクの顔に笑顔が溢れていた。その笑顔に呆れたのは死龍だけだったのかもしれない。


「もう・・・こっちが、拍子抜けしちゃうじゃない!」

『無事でなによりだ・・・で?どこから入ればいい?』と映像無線のロク。

「いつもの所よ。ゲートはギリしか開けないからね!?」

『了解!今回はバルカンを積んでいる。10センチ、いや20センチ高く上げてくれないか?』

「あら、珍しい事?いつから自分のスタイル変えたのかしら?」

『上司命令だよ・・・頼むぞ!』不服な様子のロク。


 無線が切れ、死龍は五十嵐司令の顔を見る。

「上に迎えに行きます。司令、後の指示をお願い出来ますか?」

「わかった!」と五十嵐。

「では行きます!」


 死龍はそう言うと、指令室を司令に任せ慌てて出て行ってしまった。五十嵐はその死龍の後ろ姿を見ていた。

「まるで、恋人に逢いに行くみたいだな・・・?よし!ロクの位置を確認しろ!敵も来るぞ!守備隊も援護しろよ!」



 死龍がエレベーターに乗っている。扉が開き、P5の地上と思われる所に出てきた。P6と違い街はなく、大きな倉庫や、コンテナが目立っていた。コンテナ等は爆破されたような物が多い。死龍はその殺風景な地上を全力で走っていた。



 P5指令室。

「黒豹、軌道に入ります!」ある兵が叫ぶ。

「よし!来るぞ!ゲートを開けろ!」と五十嵐。 



 P5のゲートが開く。P6の左右に開くゲートと違い、P5のそのゲートは上に向かって開き始めた。しかしゲートは人の身長も行かない程だけ開き、そこで止まってしまった。ロクのジャガーの車高に合わせたのであろう、その高さは他の車やバイクでは入れない高さであった。


 ロクのジャガーは何台かのバイクに追われているが、真っ直ぐにゲートに合わせスピードを落とすこともなく、P5のゲートに向かっていた。するとジャガーの屋根に迫り出していたガトリングバルカンが収納される。


 その光景をゲート内から見守る死龍たち。

「来たか!?機銃用意!ボブ!死神を入れるなよ!」死龍が他の兵に叫ぶ。


 死龍は、少し開いたゲートの裏にいた。開いたゲートの向こうにジャガーの車体が見えてきた。

「来るぞ!各員構え!」

 死龍と共にいたボブが叫んだ。ゲートの裏にいた数名が、開いたゲートに向かって銃を構えた。 


 ジャガーが、スピードを上げゲートに突っ込んでくる。すると、後ろに追いかけてきたバイク隊もスピードを上げる。

 

 しかし、ゲート高さを感じたのか追うのを途中で諦め、ゲート前で左右に別れ始めた。ジャガーは少し開いたゲートをギリギリで潜り、P5の進入に成功した。


すぐゲートが下がり始め、ジャガーは死龍たちがいる所で急ブレーキをかけ急停止した。 死龍らはジャガーの側に集まると、ロクもジャガーから降りて来た。


「やあ!」と笑顔のロク。

「久しぶりね。ロク・・・どうしたのその顔?」

 死龍はロクの顔の傷を気遣った。今朝バズーに殴られた傷だ。

「ちょっとな・・・」照れるロク。

 見詰め合う二人。二人しか分からない時間だった。 



 P5指令室。

「それで、ダンとトリプルは?」慌てるロク。

「未だ連絡なし。5日程前に、敵の前線の様子を見に行ったきり・・・その話が本当なら、間違いないな。」と死龍。


 一人気を落としていたのは、先程死龍たちと地上にいた15歳程のボブという少年だった。

「残念ですね・・・」

 指令室で三人は、人を避けるように話し合っていた。三人とも黙り込み、次の言葉が出てこない。


「それを、確認したかった・・・」とロク。

「それを確認にわざわざここまで?」驚く死龍。

「死龍やボブの安否もだよ・・・なら向こうに戻る。」

「えっ?もうか?急ぐのか?」


 ロクの言葉に、寂しげな表情を見せる死龍。

「今日中に帰ると言って来てる。」

「夜か、朝にしろ。今出るのは危険だ!」


 死龍の言葉にボブも大きく首を振った。

「P6が心配だ。今朝、ストラトスの襲撃があった。」

「何?タケシか!?」

「わからないが、ランチャーストラトスは奴以外乗る奴がいるのか?ボブ?」

「ストラトスは3台あるが・・・」死龍が首を傾げる。

「タケシたちはいつも3台で行動します!そうか・・・どうりでここ何日かは静かだったのか?」とボブ。

「タケシだけではない。敵サンドシップもいない・・・」


 二人の言葉に、戦況が苦しいのを察するロク。

「どうなんだ?こっちの様子は?」

「決して良くない。死神だけなら問題はなかったがな。ただ本隊がいない今なら反撃の余地はある・・・」


「そうか、間もなくP6はレヴィア全艦が完成する予定だ。それとここで開発した太陽光利用した武器もだ。それが出来るまでだ。それまでP5は耐えてほしい。」

「レヴィアか・・・懐かしいな。1番艦はまだ・・・?」

「ああ、まだおやじさんが乗っているよ。現役を退いても未だ元気だよ!」

「よろしくと伝えてくれ。なんとかP5は、現状を耐え切ってみせると・・・」

「わかった。伝えるよ。五十嵐司令にも宜しくと伝えてくれ。ボブ!こうなった今、死龍やここを頼んだぞ!」

「任せてください。ロクさん!」


 ロクは急ぎ指令室を出て行く。ロクに慌てて敬礼する兵士たち。死龍は慌ててロクを追い掛けて行った。

「ロク、上まで送るわ。ボブ!ゲート頼むわよ!」

「了解!」とボブ。



 ロクと死龍は同じエレベーターに乗り込んだ。

「ロク?また背が伸びたんじゃない?」と死龍。

「そうか?死龍が小さくなったんじゃないか?」ロクは自分の手で死龍と自分の背を比べてみた。

「失礼しちゃう!」

「ふふ・・・」笑うロク。

「もう!」怒って見せる死龍。


「指令室勤務は慣れたのか?」

「ここの指令に任されるようになったわよ。五十嵐司令は、ほとんど整備室でメカ相手だもん。」

「悪いな・・・」

「謝らないで。これでいいと思い始めてるんだから。」

「・・・すまん。」

「だーかーら!」

「ふっ!」

「うふふ・・・」


 二人は目を合わせて笑い始めた。死龍自身、こう笑ったのは久々だったように感じていた。

「俺がこっちに来るか?」とロク。

「私じゃ、あてにならない?」

「そうじゃないが・・・」

「気持ちはうれしいけど、P6にはロクが必要でしょ?」

「俺の居場所なんてないよ・・・」

 ロクの寂しそうな表情に死龍は掛ける言葉がなかった。



 P5の地上。既にロクはジャガーに乗り込んでいる。見送りに来ていたのは死龍だけだった。

「こちらからの定期便は予定通りよ。」

「敵もかなり位置を上がっている。無理しなくていいぞ!」

「P5にも意地があるのよ!予定に変更はないわ。水、食料・・・不足なのは変わらないし、兵士たちに腹一杯食べさせたいしね。」

「水もか?」

「もう90日も雨が振ってないわ。地下水も不安定よ・・・だからこそ、そんな時にP6から補給される海洋深水を取りに行かないとね。」

「そうか・・・深刻だな?仕方ないな・・・なら俺は行くぞ!」

「うん・・・ゲートを上げて!」


 死龍はゲート上の兵に大声を上げる。するとゲートが上がり始める。すると、ジャガーはエンジンが掛かり、ロクはアクセルを踏み空吹かしを始めた。ロクは窓から死龍の顔を見る。


「またな?」とロク

「うん・・・」死龍が頷いた。


 ゲートがジャガーの車高で合わせて止まると、ジャガーは急発進してP5のゲートを潜って出て行った。ゲートはジャガーが出るとすぐ閉まり始めた。死龍はジャガーが見えなくなるまで、その姿を見続けていた。するとその仮面の下から死龍は涙をこぼしていた。大粒の涙が右の目から流れ落ちてくる。


「あ、あれ?・・・私なんで泣いてるんだろう!?」

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