その3 終焉
剣の鈍い音が聞こえた。機銃の音が消えブリッチ内は静寂となる。ロクとダブルは交差した状態で止まっている。鬼の表情だったロクは我に返った。
「ダ、ダブル??お前・・・??」
いつもの表情に戻ったロクは、ダブルの胸に切り込んでいた剣を抜いた。
「お、お前・・・わざと弾道を・・・?」とロク。
ロクの横に倒れるダブル。
「お兄ちゃん!?」突然、ポポがダブルに近寄った。
「お兄ちゃん??お前?ダブルの妹か!?」ロクはダブルを抱えながらポポを見つめた。ポポもダブルに近寄る。
「や、やっぱ・・・ロ、ロク・・・つえぇーな~」ロクに抱えながら天井を見つめるダブル。ダブルはいつの間にか素に戻っている。
「お前・・・??わざと最初から・・・??」とロク。
「ああ、撃てる訳ないだろ・・・お、お前は血は繋がっていないがほ、本当の兄弟だろ・・・?」とダブル。
「お、おのれ!貴様裏切ったな!」その会話を聞いていた寛子が腰の拳銃を抜いて二人に狙いを付け、銃弾を発射する。
ロクはソードライフルで銃弾を叩き落とすと、そのままソードライフルを寛子に投げつけた。剣先が寛子の喉元に突き刺さる。
「ぐわ・・・ごぉ・・・どごぉ・・・」立ったまま悶絶する寛子。
「これは他の四天王たちの分だ!?」ロクが寛子に叫ぶ。
寛子はそのまま後ろに倒れ、動かなくなった。他の女子兵たちも急ぎ拳銃をロクに構えた。ロクはダブルの機銃を奪うと、周りの女子兵士に発砲する。銃弾は全て、彼女たちの構えていた拳銃を払い落とした。その際窓際にあった機器類にも銃弾が命中。機械系統が稲妻を帯いて火を吹き出して来る。慌てる少女兵士たち。
「ここから逃げる者は、追わん!抵抗するなら容赦なく撃つ!」
ロクの言葉に皆顔を合わせてブリッチを逃げ出していく少女兵士たち。火災は誘爆を起こし燃え広がる。ブリッチにはロクとダブル、そしてポポだけが残っていた。
「や、やっぱ・・・ロクには勝てない・・・機銃相手に・・・やっぱ凄いよロク・・・やっぱ・・・ははは・・・」ダブルはロクの腕の中で呟いた。
「な、なぜあんな真似を!?」ロクは自分を責めていた。
「幼い頃、母と私を人質に取られたのです・・・」横に居たポポが語り始めた。
「ポポ・・・すまんかった・・・」ダブルがポポの手を握り絞める。
「だからこの人・・・ポリスにスパイに・・・本意じゃないのです・・・」泣き崩れるポポ。
「なつみは・・・なんでなつみは・・・?」ダブルに問うロク。
「あ、あれは・・・芝居だ・・・あいつを信用させるためにな。」
「芝居・・・バカだよお前・・・」
「ポポ・・・は、早くソーラーキャノンを止めるんだ・・・」ダブルはポポに大筒を止めるよう指示する。
「は、はい・・・」
ポポは急いで窓際の機械を操作し始める。しかし装置は所々火を吹いてる。
「だ、駄目・・・もうコントロールが出来ない・・・発射しちゃう・・・?」ポポが悲痛な叫びをあげる。
「そうか・・・ロク・・・?俺はジプシャンに属していたが・・・本当の家族はお前たちだ・・・」
「ああ・・・ああ分かってるだからもう・・・」
ダブルがロクの手を握った。
「最後の願いだ・・・ポポを街に連れていってくれ・・・」
「ああ!わかった!もうしゃべるな!」
「ああ・・・向こうに逝ったらキキに謝っておくな・・・」笑うダブル。
「バカを言うな!必ず・・・」
「それとなつみの事だ・・・」
「なに!?」
「それは・・・」ダブルはロクの耳元で何か囁く。
「ま、まさか!?」目を見開き驚くロク。
「あ、後は任せたぞ・・・ロク・・・」ロクの腕の中で涙を流すダブル。
「ダブル!!お前も・・・お前もそのセリフかよ・・・?最後に聞かせろよ?お前の本名・・・?」涙を流すロク。
「名前か・・・?昔過ぎて・・・忘れたわ・・・」ゆっくり目を閉じるダブル。
「ダブル!」
「お兄ちゃん!」ポポも泣き崩れた。
ロクはダブルをそっと床に置くと、ダブルの機銃でブリッジの窓ガラスを破壊した。ポポはロクの行動に唖然となる。するとロクは寛子の喉元に突き刺さったままの、ソードライフルを引き抜いた。ソード部分を折ったロクは、急ぎライフルモードに変形する。
「ロ、ロクさん・・・?何を!?」ポポがロクに問う。
「もう奴を止めるのは、あいつだけだ・・・」
すると割れた窓から、ライフルを構えた。ライフルスコープから見える、ジプシャン軍の大筒。ロクは大筒の下部の方を必死に覗いていた。そこにはくの字になったジャガーがこちらを向いて停止している。ジャガーは大筒を支える柱に衝突していたのだ。
「半径20メートルは・・・骨も残らない・・・」
ジャガーの後部座席に狙いを付けるロク。大筒は巨大なる轟音を荒野に響かせていた。
「お前・・・いい子だった・・・」
そう言うとロクはジャガーを狙撃。ジャガーは瞬く間に巨大な爆発を起こす。その爆発は衝突した柱も含めて、大筒本体にも及んだ。
しかし大筒は街に向けて巨大なる閃光を放ってしまった。閃光はP6の街を直撃する。街は黒煙と炎を上げ爆発する。残っていた二本の塔も崩れ落ちる。だがジャガーの爆発により、亀裂を生じていた大筒は発射と同時に自ら爆発する。閃光は途切れ、ジプシャンの大型艦の前部は、激しい誘爆に遭い爆発を起こしてしまう。
「ま、街が・・・!?」ロクは激しい爆発を窓から見ている。
その爆発は後部にあった高いブリッチ部分にも飛び火する。ブリッチは巨大な爆風と炎に包まれる。
「危ない!!」ポポは窓際にいたロクを庇い、ロクに覆い被さった。
ブリッチは炎の海と化した。
静寂が続いた。何かが燃える音と、時折爆音だけが響いていた。ロクは目が覚め、自分の上に誰かが居るのに気づいた。それは傷ついた煤だらけのポポだった。
「おい!?しっかりしろ!」ロクはポポを抱き起こす。するとポポの背中にはたくさんのガラスや鉄片が突き刺さっていた。大量の血がポポの背中から流れる。ロクの呼び掛けに目を開くポポ。ポポは既に虫の息だった。
「お前・・・?なぜ俺を庇った!?」とロク。
「お、お兄ちゃんが家族って言うなら・・・私にとっても家族だよ・・・」涙を流すポポ。
「ポポ!しっかりしろ!」ロクは泣きながらポポを抱き締めた。
「これでいいんだよ・・・バカな人類の結末・・・どちらも滅べばいい・・・」そう言うとポポは笑顔のまま、静かに目を閉じていく。
「ポポ!?・・・何でだ?何でこんな結末に・・・何で俺よりも若い奴等が死ななければいけない・・・?」
西の空に日が沈み始めていた。荒野に動く物は何もなかった。