その20 女四天王・死龍
ロクが車内にいる。再びエレベーターシャフトを上に上がろうとしていた。ロクは運転席にて、車内の異変に気づく。ある場所に見覚えのあるスイッチが増えているのだ。
「あの、おっさん!またこんないらんもんを俺の車に取り付けやがって・・・で?今度はなんだよ?」
車内を見渡すロク。すると後部座席に目が止まった。暫くすると車内でロクは、少しイラついていた。するとハンドル内のボタンを押し、指令室を呼び出した。フロントガラスに桑田の映像が映し出される。
『こちら、指令室桑田です!』
「桑田?なんか俺に、報告はないのか・・・?」
ロクの怒っている口調に桑田は慄く。
『す、すいません・・・技師長が・・・私もさっき知らされたばかりで・・・』
桑田は、急に小声になった。
「俺のメカニックとしては失格だな?」
『す、すいません・・・』言葉が詰まる桑田。
「技師長は?」
『今、ストームの整備かと・・・?』
「まあいい。どうせ俺はあの人のモルモットだからな。」
『ブースターの使い方はストームと同じ。使用中の注意も同じ・・・ひびが入れば半径20メートルは・・・』
「骨も残らない・・・か?」
口元だけは笑って見せるロク。
『はい・・・それで、明日の帰還時刻ですが・・・?』恐る恐る桑田はロクに問う。
「夕方には戻る。あのタケシはまた来るぞ。そんな気がする。ダブルやキーンにもそう伝えておいてくれよ!」
『ひ、日帰りですか?り、了解です。でも帰りは夜になりますね?そう伝えます。夜の走行でバッテリー切らさないで気をつけて下さい・・・』
「なんとかする!」
『出た出た・・・』笑いを堪える桑田。
「よし!黒豹出る!」
するとシャフトが止まり、前方の扉が開きロクのジャガーはジプシーが賑わう街へと走り出す。
ポリス指令室。弘士の席に、祖父の久弥が呼ばれていた。
「相談とは・・・?」と久弥。
「ロクの件ですが・・・」腕を組み、深刻な弘士の表情。
「うむ・・・」何かを察した久弥。
ジプシャン軍本部。ヒデと丸田が控えている部屋にタケシが入って来る。
「ヒデと言ったな。他に仲間は?」とタケシ。
「今は山側のキャンプにいます。」
「明日から、俺の隊に所属してもらう。その前に、してもらいたいことがある・・・」
「はぁ?」
「全ての仲間を連れ、今朝の場所に待機して欲しい。そこで今夜からキャンプを張ってくれ。なるべく派手にな。」
「仲間とですか?今朝のところですか?」丸田と顔を見合わせるヒデ。
「そうだ、頼んだぞ。」
そう言うとタケシは部屋を出て行った。
「どういう事だ?ヒデ?」と丸田。
「奴は、動く・・・」
「はあ!?」
「行くぞ!丸田!」
「おいおい・・・どこに行くんだよ?」
「キャンプに決まってんだろ!これから面白くなるぞ!」ニヤリと笑うヒデ。
ポリス指令室。ある広い会議室。
「ロクを偵察隊から外す?」と久弥。
「銃が撃てない者を、最前線に置くというのは・・・参謀たちも同意見です。」
冷静な口調の弘士に久弥は反論した。
「その為の偵察隊だろうが?」
「しかし、こうも周りから反発があれば、私としても外す方向で考えなければなりません。」
「どこに、ロクを配置するんだ?」久弥が身を乗り出す。
「P7(ピーセブン)かと・・・?」
「ロクに車を降りろと言うのか?しかもあのロクをあそこに?無理な話だろ?」
「我々もロクを頼り過ぎてます。それも彼にはプレッシャーになっているかと・・・?」
「本人がなんと言うか・・・」久弥は下を向いた。
「P7の教育係りで以前の様に、新しい者を育てて貰うのはどうでしょうか?決して悪い話ではないかと・・・ポリスの我々より、ジプシーの志願兵をまとめてもらうには適任かと思います。」
「その教育係りの仕事は、わしの最後の仕事だと思っていたんじゃがのう・・・」久弥が渋い顔で弘士を伺った。
その頃、ロクは街を飛び出し、P5へと北に向かって走り出していた。P5はP6の約300キロ北、現青森の三沢市近辺に位置する。この間には、いくつかのジプシャン基地が存在する。ロクはそれを避けるために、山脈寄りのルートを迂回して北に向かう。世に言うポリス道だ。
「ガトリングバルカンとブースターのおかげで、なんかケツのバランスが悪いな・・・重心が寄ってるのか?さてさて、テスト走行なしでうまくP5まで辿り着けるかな?」
ロクは車内でひとり呟いていた。ジャガーは果てない荒野を北へと突き進んで行く。
ポリス内のある整備室。高橋が何人かでジャガーストームを整備している。屋根の部分にはロクのカストリーと同じ、2門のガトリングバルカン砲が取り付けられようとしていた。そこへ桑田が作業着に着替え高橋の元へやって来る。
「すいません。すぐ手伝います!」桑田は急ぎ手袋を着け始める。
「奴はP5へ行ったのか?」高橋は作業を続けながら桑田に問う。
「はい・・・だいぶ怒ってましたよ。ロクさん・・・」
「だろうな・・・」
「自分はモルモットだと・・・」
「まだまだ甘ちゃんだよ。奴は・・・俺に試されてるだけでもありがたいと思え!そう言っとけ!」
高橋は、桑田を向く事もなく、足を引きずりながらストームにバルカンを取り付ける。桑田もそれに加わる。
「技師長はロクさんと組んで長いですよね?なぜ、ロクさんは銃を撃てなくなったのか知ってますか?」
「お前?それは聞いていないのか?」と高橋。
「人の心の闇の部分です。恐くてとても聞けませんよ・・・」
「だろうな・・・」
「何か知ってるんですか?」
「P5の死龍だよ・・・」
「えっ?女四天王の・・・死龍?」桑田の表情が強張った。