その40 運命と宿命
ロクは暗い階段を一人で昇っていく。薄暗い階段にロクの足音だけが響く。ロクは何かを呟いていた。
「運命に向き合えだ?何をどうしろと・・・?」
「あの人の言葉を信じ、あの人の教えだけを守ってきた・・・それがこの結果だ・・・それで俺に戦争を止めろって・・・運命に向き合えって・・・」
ロクはある扉を開くと、誰もいない廊下に座り込んだ。
「親父さん・・・俺たちは何を信じればいい・・・?」
「おい!ロク?」
聞き慣れた声が廊下に響く。すると突然ロクは胸ぐらを掴まれ、無理矢理立ち上がらせられる。ロクの目の前にはバズーがいた。
「こんなとこで何してんだ?戦闘中だろう!?」バズーは力任せにロクを揺さぶった。
「お、おい・・・」嫌がるロク。
「まるで殺気がない!あの大筒に魂を抜かれたか?」
「は、離せよ・・・」
「しっかりしろ!行くぞ!」バズーはロクを掴んだまま廊下を引き摺る。
「おいおい・・・どこへ・・・」覇気のないロク。
バズーが連れてきたのは、同じ階のポリス兵専用の食堂だった。
「おーい!誰かいないか!?飯食わせてくれ!」とバズー。ロクは無理矢理ある席に座らされた。戦闘中か、誰もテーブルに居ない。
「腹が減っては戦はできねぇーぞ!そうだろ?ハハハ!」ロクの肩を豪快に叩くバズー。
「あのな?バズー・・・」何か言いかけるロク。すると・・・
「ご注文は?」メイド姿の直美が二人のテーブルにやって来る。
「あ、あの・・・で、出来るもんをに、二人前で・・・大盛りで・・・」何故か急にドモるバズー。
「二人とも戦闘中じゃないの?」と直美。
「待機中だ!そっちこそ避難しないのかよ?」とロク。
「こっちも厨房で戦争なのよ!」
「そうかい・・・それでなバズー・・・」
「そ、そう言う事だ!急いでくれよ!直美ちゃん!」とバズー。
「お任せなり~!」厨房に戻る直美。
「お、お前な・・・あの娘にちゃんって・・・ああどうでもいいや・・・あのなバズー・・・?」
「お、俺な・・・この戦争が終わったら、あの娘に告白しようと思ってる!」急に真顔になるバズー。
「あ、あの・・・とても言いづらいんだが俺たちはな・・・」ロクが説得する。
「俺たちはプロジェクトソルジャーだ!それが何だ!?」急に立ち上がり大声のバズー。
「い、嫌そう意味じゃなくってだな・・・俺の言いたいのはそこじゃなくてな?俺たちはさ・・・」
「俺たちだって恋はしたい!そうだろロク!?」
「人の話聞けよ・・・」頭を抱えるロク。
「この間、あの娘の料理を食った・・・背中に電撃が走った!」
「そっち!?そっちなの!?」突っ込むロク。
「あんな旨い料理、毎日食いたいんだ!どう思うロク!?」と真剣なバズー。
「ど、どうと聞かれてもな・・・?そう言えば戦況は!?」話をごまかすロク。
「ああ、敵の大型艦がこっちに向かってる。陽らがなんとか停めようと必死だ!お前なあ!前からそうだが、インカムくらい付けろよ!」
「あ、ああ・・・あれを付けると、銃を撃つ時に五感が狂う・・・それで敵は?」とロク。
「幸いにも雨雲が出てきた。向こうは伝家の宝刀が使えないって訳だ!」
「太陽光が充電出来ないのか・・・?だから奴等、街に直接攻撃を仕掛けて・・・」
「お待ち~」直美が巨大な皿にてんこ盛りの料理を二人前運んでくる。驚くロクと固まるバズー。
「おいおい鯨の餌か・・・?」とロク。するとバズーが立ち上がった。
「あ、あの・・・な、直美さん・・・戦争が終わったら、じ、自分と結婚して下さい!」突然の告白。
「おいおい・・・いきなりですか?さっき終わったらって・・・」再び頭を抱えるロク。
「うーん・・・考えておくわ!」平然とした直美。
「やったぁー!」なぜか派手に喜ぶバズー。
「おいおい、今の結婚するって意味じゃないぜ・・・?」とロク。
「いいのよ!戦争が終わったら・・・って事でしょ?平和な時代になったら私だって結婚を考えるわよ~彼、嫌いなタイプじゃないしね・・・」わざと恥ずかしそうな仕草をする直美。
「やったぁー!」有頂天のバズー。
「おいおい・・・いいのかそんな簡単に約束して!?」ロクは直美に問う。
「父が死ぬ前によく言ってたわ。強い男に惚れろって・・・これも運命かな・・・?」指を口に近づけあえてバズーを悩殺するポーズの直美。
「やったぁー!!」もう誰も止めれないバズー。
「運命ねぇ?なあ?運命と宿命ってどう違うんだよ?」と直美に問うロク。
「ふーん。あんたいつも変なとこで悩んでるね!?うーん・・・宿命は変える事が出来ない・・・けど運命は変える事が出来る・・・違う?」と直美。
「宿命は変えれない?運命は変えれる・・・?」ロクはさっきの久弥の言葉に照らし合わせてみた。
「さあーて、そうと決まれば早速戦争を終えますよ~ねぇロク君?」
バズーは皿にあった食料をおにぎりのように丸めると、自分のカバンの中にそのまま放り込んだ。
「終えるって・・・おいおい・・・それ持って行くんかい?」
その姿に呆れるロク。するとバズーはまだ食べてもいないロクの首根っこを掴むと、急ぎエレベーターの方に向かった。
「行くぞロク!?じゃあ行ってきますね!直美ちゃ~ん!」嬉しそうなバズー。
「頑張ってね~!」と手を振る直美。
ロクは無理矢理エレベーターに乗り込まされた。
「あのな?バズー?さっき言わなかったけど・・・」ロクが嬉しそうなバズーに話し掛ける。しかし一変してバズーの表情が暗い。
「おい?どうしたんだ・・・?」
「いや・・・それで?」とバズー。
「ああ・・・さっき親父さんが亡くなった。最後に言われたんだが・・・」
「俺らがミュウとでも言われたか?」寂しげな表情で語るバズー。
「なっ!?・・・なんだ知ってたか?」バズーの意外な答えにロクは驚いた。
「あのな?キーンもダブルも知ってたさ!薄々だがな!知らなかったのお前くらいだぞ!」とバズー。
「さ、先に言えよ・・・」渋い表情のロク。
「怪我してもやたらと早く治る。お前の腹の傷もそう!この間の俺の目の怪我もこの通りだ!能力はポリス兵を遥かに凌ぐ・・・お前の事だ。もうとっくに知ってたと思っていた・・・なつみがよく言ってた。ロクは人が気がつかない所をよく見つけるけど、人が分かるような事は、全然気がつかないって・・・」
「お前らな。まるで俺が鈍いみたいに・・・」とロク。
「ははは!それと実はな!先日俺も死龍みたいに吐血した・・・」
「何だと!?笑えない・・・誰かに言ったか?」
「いや・・・お前が初めてだ・・・」突然真剣な顔になるバズー。
「バズー・・・お前それであの子に!?」ロクはさっきのバズーの行動をやっと理解した。
「いいじゃねえか?人生で一回くらい・・・なんかそんな気分だったしな?あの娘の飯・・・いつも電撃が走った!」笑顔のバズー。
「だから・・・そ、そこなの・・・?」と呆れるロク。
エレベーターの扉が開く。そこには修理を終えたアシカムがあった。だがよく見ると戦車の代名詞である砲塔が消えている。
「おいおい、どこをどう修理してんだか!?逆に減ってないかよ?ん・・・?」すると何か不審に思うロク。
「おい!?」すると思わずロクはバズーの容姿を見る。グレーの戦闘服の所々が煤けている。
「お前!この汚れ・・・火薬だろ!?」ロクがいきなりバズーの制服を掴んだ。