その19 儚い夢
殴られたロクは床に倒れこんだ。バズーは更にロクに馬乗りになり殴り付けようとした。近くにいたキーンが慌てて割って入った。
「どうしたんだ?バズー!?ロクが何をしたんだ?」
指令室が騒がしくなった。大男のバズーを止めるのはキーンだけでは足りず、我妻や柳沢の姿もあった。ダブルは指令室の端で冷静にその様子を見つめるだけであった。また桑田はその様子を見て、涙目になっていた。
「二人とも!いい加減にしろっ!」
弘士の一言で、バズーも冷静となる。
「どうしたんだ!?バズー!?」と弘士。
「こいつ!ストラトスのタケシを仕留められたのに、タイヤだけを狙って、わざと逃がしやがった!」
「どういう事だロク?」弘士がロクに問う。
「それは・・・」
ロクは口からの血を拭きながら弘士の前に立ち上がった。すると桑田がその雰囲気に我慢出来ず、涙目のまま割って入る。
「わ、悪いのは私です!ロ、ロクさんは悪くないです。バルカンの調整が甘く・・・説明不足でした。メカニックのわ、私の責任です!」
「また、銃が引けなっかだけだろ?そうだろ?ロク?」バズーが再びロクに詰め寄った。
「バズーさん?取り付けて、すぐ実戦なんて・・・無理に決まってるじゃないですか!?」
「やめろ!桑田!俺が悪かったんだ。車体を頂きたかった。ストラトスの構造も知りたかったしな。それでタイヤだけを・・・相手をナメていたよ。相手があのタケシって事もすっかり忘れていたしな・・・」
「ロクさん・・・?」と桑田。
「すまん。みんな・・・」指令室にいたみんなに頭を下げるロク。
「謝るなら!部下を亡くしたダブルとキーンに謝れ!」と不機嫌なバズー。
「俺はいい・・・」とキーン。
ロクは指令室の端にいたダブルの方を向くと深々と頭を下げた。
「ダブル・・・すまん・・・」
「もういい・・・」
ダブルはそう言うと、指令室を出て行った。
「バズー?なぜロクが撃ったSCがタケシだと?」と弘士。
「あっ・・・いや・・・なんとなくだ・・・勘だよ。奴の戦いぶりを見て・・・どっちにしろ、ストラトスだろ?逃がしたのには変わりないだろうが!」
「バズーさん見損ないました。慣れない武器持たされて戦ったロクさんの身になって下さい。ロクさんは戦闘チームじゃないです!偵察隊じゃないですか?」頭に血がのぼった様子の桑田。
「もういい。桑田・・・すまなかったバズー!キーン!」再び頭を下げるロク。
「わかりゃーいいんだよ・・・」とバズー。
「気にするな。ロク!」優しく笑うキーン。
「ちゃんと仕留めていたら最後だってああじゃなかったはずだ!俺が出なければ死んでたぜ!」
「そうだな・・・すまないバズー・・・」
弘士は指令室の雛壇の上でその様子を見ていたが、やがて自分の席に着いた。すると弘士はロクを自分の席に呼びつけた。
「ロク!ちょっと!」
「はい・・・」
ロクは殴られた顔を押さえながら、弘士のとこに上がっていった。他の者たちも各々自分の席に戻って行ったが、桑田だけはロクと弘士の方をじっと見ていた。
「顔は大丈夫か?」と弘士。
「バズーが本気だったら。この程度ですみませんよ・・・自分が甘かったんですから・・・」
唇の血を拭きながらも笑って見せるロク。
「そうだな・・・午後からP5だったよな?山口にでも行かせるか?」
「まだ山口では無理ですよ・・・予定通り自分が行きます。死龍の事も気になりますし・・・あのおっさんの話も確認したく・・・」
「大場の話を鵜呑みにするなよ!」
「しかし、嘘を言ってるようには見えません・・・」
「それとバズーの言う通り、本当にストラトスのタケシだったのか?」
「わかりません・・・何度か後ろを取られましたが、撃ってこなかったんですよ。」
「なぜだ?」
「こちらの装甲が厚いのを知っていたのか?それで無駄弾を使わなかったのか?何か弄ばれた感じはしました。」
「そうか。・・・それとバルカンの件は、高橋技師長を責めないでほしい。」
「別に、俺は怒ってなんかは・・・」
「俺が頼んだ。お前の最近のデータからも付けた方がいいと思ってな。まして最近のP5のジプシャンの包囲網を非武装で行かせたくはないのでな。」
「わかりますが・・・自分は・・・」
「わかってるつもりだ。ただお前の腕を、偵察隊だけで終わらせたくはないんだ。戦況も見ての通り不利だしな。」
「すいません・・・」
「謝るな・・・では昼まで待機だ。帰ったらまた別件で話がある。時間をくれないか?」
「了解!」敬礼をして弘士の席から離れるロク。
ジプシャン軍本部。土井総帥の前にはタケシ、嶋、石森の他、ヒデと丸田の姿があった。
「P6にやられたと聞く・・・?」と寛子。
「挨拶に行っただけだ・・・」とタケシ。
「例の雷獣という奴か?」
「そうだ・・・」唇を噛み締めるタケシ。
「こちらはタイヤの破損。向こうは、死傷者を出させています!負けたわけでは・・・」
嶋がタケシをかばう様に言い訳する。
「様はないな・・・」と寛子。
「このままでは、済まない!雷獣が!」
「明日には、前線に戻る予定のはずだ!指示通りにP5を先に陥落させるんだ。いいな!」
「了解・・・」
タケシは納得がいかず下を向いている。ヒデは自分たちの明日の身を案じていた。
「北か・・・」
P6の医務室。ロクがベットに横たわっている。すぐ側に桑田がロクの顔にタオルを当てている。そこに40代くらいの白衣の女が入ってくる。髪は長く大人の女性を感じる容姿は、桑田と正反対な感じさえもする。
「また、喧嘩したの?ロク?」と白衣の女性。
「聞いて下さいよ。関根さん、バズーさんがいきなりですよ。殴ってきたの・・・」
「もうよせ、桑田・・・」
「だってぇー。」
「まあまあ、昔からあんたたち仲がいいんだから・・・心配ないわよ。なつみ。本人たちが一番わかってるはずよ。」
関根と呼ばれた女性は棚から何やら取り出した。
「仲間思いなんだよ、バズーは・・・だからああやって熱くなる。」とロク。
「私、バズーさんの無神経なとこ嫌いです。」凄い剣幕の桑田。
「大事な兄さんの一人だろ?」
「殴られて、そんな脳天気なロクさんも嫌いです!」舌を出す桑田。
「はいはい・・・」
関根が桑田にシップを持ってくる。
「なつみ、ロクの顔にシップを貼っておきなさい。」
「はーい!」
「それと、昨日ロクが保護してきた、ジプシーの家族の結果が出てる。全員健康!遺伝子にも怪しいところなし!・・・と言いたいところだけど、誰一人本当の家族ではなかったわ。」
「と、言うと?」
「子供たちは、皆彼の血を引かない。子供たちも皆、別々の遺伝子よ。まあ今となっては珍しくない家族構成だけどね・・・」
「そうですか。やっぱり家族を装ったスパイでしょうか?」
「そう考えるのが筋かな?私には軍事的な事は分からないわよ!」
「桑田、後でこの資料を指令室に持って行ってくれ。」
「了解です!」小さく敬礼をする桑田。
「それにしても、ロクがここに来るのいつ以来かしら?」
「覚えてないですよ。」
「確か、左の鎖骨の所!貫通してしばらく復帰出来なかった12の時じゃない?偉くなってからは、怪我もしなくなったしね!」
「関根さん。よく覚えたますよね?」
「覚えてるわ。あれから私が、ロクの心のケアまでしてあげたんだもん。よくここで添い寝してあげたわよね・・・」
桑田は自分の頬に手を当てる。
「な、なんか・・・爆弾発言です・・・」
「あら、ロクは私みたいなおばさん、もう相手にしてくれないわ。そうでしょロク?」
「そ、そんな事ないですよ・・・」照れるロク。
「うれしいわ・・・親子くらい離れてるのに・・・」
「け、結婚しないんですか?せ、関根さんは?」
ロクと関根の怪しい雰囲気に桑田が慌てて口を挟んだ。
「これでもしてたのよ・・・子供もいたしね。ジプシャンの襲撃で旦那と子供と離れてしまって・・・生きていればなつみくらいかな。女の子だけど・・・」
「いつか、会えますよ。」精一杯に笑顔になる桑田。
「そうだといいわね・・・」
寂しい表情で関根は二人の側を離れ、自分の仕事に戻って行った。
「・・・それでですよ。ロクさん!」真顔でロクに詰め寄る桑田。
「な、なんだ?怖い顔して?」顔が強張るロク。
「あ、あの・・・尋問の際、ロクさんの惚れてる人って?」目を合わさない桑田。
「ふっ・・・なんだ聞いてたのか?」ロクは笑顔に戻った。
「指令室は朝5時なのに、満員札止めでしたよ。しかもポリスの人たち賭けとかしてるし・・・最低ですよ!」
「ああでも言わなきゃ、あの大場って人諦めなさそうだろ?」
「そ、そうですよね・・・な、なーんだ・・・あはは・・・」
桑田は照れて、ロクに背中を向けた。
「それに、俺たちプロジェクトソルジャーは恋愛禁止だぞ。お前も知ってるだろうが?」
「分かってます。でも・・・戦争が終わったら・・・ソルジャーでなくなったら・・・ロクさんも隊長とかじゃなくなったら・・・恋愛してもいいんですよね?」
「女って、よくそんな先の事まで考えるよな?生まれた頃から、ドンパチしてたんだぜ・・・俺らが生きている内に、果たしてこの戦争が終わるのかな?」
「どうして双方が戦ってるんですか?同じ人間じゃないですか!?」桑田は口を尖らせてロクに問う。
「さぁ?どうしてかな?その答えを見つける為に、俺たちは戦ってんのかな・・・?」
「戦争の終わりか・・・来ますよ。必ず・・・」
桑田は低い天井を見上げた。