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四天王  作者: 原善
第七章 愛は砂漠に・・・
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その35 被爆した街

久弥に向けらた複数の銃。久弥は自分の置かれている状況にようやく気づき真山の胸ぐらから手を離した。


「加藤、やめておけ!こいつらは俺の命令しか聞かん・・・」と真山。すると突然他の兵が叫ぶ。

「ま、真山さん!」

「ん?」

「連隊長の乗られたヘリが霞目基地を発った後、消息不明!」

「フッ・・・とうとうここも主が無くなったか・・・?離せ加藤、今からここでは俺が事実上軍のトップだ!」と真山。

久弥はその声に渋々手を放した。


「この街にいた市民や隊員たちは?」と久弥。

「この光のドーム内は安全だ・・・そろそろ電磁波を解除するぞ!電力を下げる!次の攻撃もあり得る!」真山は他の兵に声を掛ける。兵は銃を収めると各々席に着いた。

「真山!答えろ!」久弥は真山に詰め寄る。

「恐らく・・・光のドームの外は地獄絵だ・・・」

「なっ・・・」久弥はその言葉に外に飛び出そうとした。


「加藤!行くならこれを持って行け!」そう言うと真山は防護服と防塵マスク、見慣れない小さな計器を久弥に渡した。

「なんだこの機械は!?」

「放射線を計るもんだ!外は危険だぞ!」

「か、家族を捜して来る・・・」真顔で外に向かう久弥。



10時45分・多賀城駐屯地正面ゲート。久弥を乗せたトラックが駐屯地を出ようとした。体を張って呼び止める入口の兵士。

「まだ外は危険です!地下に戻って下さい!外出許可は出ていません!」と門兵。

「止めるな!街の人々を助けに行く!」そう言うと久弥は制止をきかず、トラックのアクセルを再び踏み込んだ。



10時50分・多賀城駐屯地地下コントロール室。真山宛に無線が入る。

『そこの指揮官はいるか!?』

「多賀城駐屯地第38連隊大尉の真山です!連隊長はヘリの移動中に消息不明に・・・」

『真山君か・・・?総理の片桐だ・・・』

「総理!」

『エスシステムは無事に動いたようだな?』

「はい!しかもこちらは雨です!この厚い雲であれば衛星写真からも逃れられます!」

『すぐ各方面の部隊をそちらに派遣する!なんとか持ちこたえてくれ!!』

「はい!総理はいつこちらへ!?」

『私はまだここを・・・』

「それではお待ちしております!」真山は総理の口調を理解していた。



10時55分・仙台市宮城野区近辺。先程まで電磁バリアを張られていた所と核ミサイルの被害が出ている境目に久弥のトラックは停まった。久弥は防護服を身に付けて雨の中を前へと歩き出す。


トラックを降りた久弥は、その光景に絶句する。街は一変していた。


燃え盛る炎。何かが爛れる強烈な臭い。たくさんの煙にその熱風で舞い上がる熱風。電磁バリアの境目にいたのは、人なのか何なのかが区別が出来ないほど爛れた遺体が無数に転がっている。

「人が・・・人型で燃えている・・・!?」


『原爆を落とされた直後に広島入りをした父の話が頭を過った。ほとんどの遺体は黒焦げとなり道端に散乱した。特に乳児の遺体は悲惨だった。人間の人型すら残っていないほど黒焦げとなっていた。防護服のまま歩かなければ、熱風で近くを歩く事も出来ない状態だった。途中の七北田川には水を求めたのか頭だけを水面に突っ込んだ遺体が数千体と並ぶ。


私はそのまま仙台市内方面を道無き道を進んだ。途中、足元が熱いと感じて下を見てみると、まだ煮えたぎる人間のハラワタだった。そこに生きている者は誰も居なかったのじゃ・・・』


「おーい!!・・・誰か返事してくれ!!」

ある広い空き地、元学校だったのか子供達の遺体がたくさんあった。集団でいたのか?そこは大きな肉から何百本の手のような物が空へ向かって伸びている。一部の肉はまだ火が付いている。

『私は直ぐ様、たくさんの子供たちが体育座りしている映像がオーバーラップした・・・』


「子供たちの手か!?こんなにたくさん・・・校庭に集団避難中だっか?・・・許してくれ・・・許してな・・・?なぜこんな事に・・・?子供たちに何の罪があるというのだ?」

近くの川には、水を求めてきた人々の遺体が無数に流れ、川の水面が見えなくなっているほど覆い尽くしていた。田んぼの泥さえ顔を突っ込む者もたくさんいた。


そんな中、たくさんの生存者もいた。

「み、水を・・・水を・・・」

皮膚が垂れて眼球が飛び出し、顔の前をその眼球がブラブラと揺れている者たちが街の中を這いずりまわっている。


『わしの顔を見てはたくさんの者たちが助けを求めて来た。最初の内

は、すぐそばの川の水を手ですくって飲ませたんじゃ。だが水を飲ませた途端にその者たちはすぐ息絶えたんじゃ・・・だから途中で水をやるのは止めたんじゃ・・・だが次々と人々は私の元にやってくる。』


「水を飲んだら死にますよ!!死ぬんですよ!!」

『しかし人々は、わしの足にしがみつき離そうとしない。その力は半端なく、終いにはわしは殴り付けてでもその者たちを離し始めた・・・』

「許してくれ・・・許して・・・」


久弥は街の変わりように熱風の街に膝まづく。遠くにヘリの音が聞こえるが、燃え上がる煙で空は何も見えない。冷たい雨は更に強くなって行くが、火の勢いは強まるばかりだった。人が燃え、建物が燃え、大地も空も燃えている。


『暫く私は歩き続けた。希望はなかったが、前へ前へと歩くしかなかったのだ。仙台市内に近づくに連れ、被害は悪化していた。すると持っていた計器が、突然音を立て鳴り始めたのじゃ。』


久弥が見たのは放射能測定装置だった。計器の針はかなり高い箇所を指している。

「こ、これ以上は危険だ・・・」

久弥は元来た道を戻って行く。



11時05分・東京上空。国会議事堂上空に一本の飛行機雲が上空から降り注ごうとしていた。

「そ、総理!」慌てて片桐総理に駆け寄る秘書。

「どうしたのじゃ!?」

次の瞬間、眩い閃光と巨大な轟音が周囲を包む。



『悲しみと惨劇のあまり、どこをどう戻ったのかは覚えていない・・・変わり果てた街の様子に正気を失っていたかもしれない。しかし気がついたら私はあの真山のいた地下に戻っていたんじゃ・・・コントロール室は再び混乱していた・・・』


「官邸!官邸!聞こえるか!?」

「横田基地応答なし!」

「防衛庁同じく!」

「総理官邸の緊急対策本部未だ返答なし!」

「練馬東部方面隊応答なし!」

「立川!立川!?聞こえるか!?」

「横須賀から救助信号確認!」

「市ヶ谷同じく救助信号有り!」

「厚木!厚木航空基地!応答せよ!」

「館山航空基地よりスクランブル発進した模様です!」


「ど、どうした!?なぜ中央はどこも応答がなくなった!館山航空部隊の無線をこちらに回せ!偵察機は出しているはずだ!」真山が焦る。

「1105・・・・東京近郊に・・・核がと言う報告が・・・」ある兵が声を殺して報告する。


「ば、ばかな・・・北にそれほどの核が・・・?」絶句する真山。

「首都が・・・日本の首都が・・・?」久弥は力尽き、その場に倒れてしまう。

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