その18 ロクVSタケシ
西のゲートから猛スピードで戦場に出てきたのはロクの愛車、ジャガーカストリーだった。カストリーは先に乗ったストームと違ってやや車高も高く。後部車輪はストームよりやや大きくなっている。塗装はやはり黒と黄色の斑模様だった。
ヒデは暗闇を走るジャガーを見つけると立ち上がった。
「奴だ!間違いない!」
「しかしあれは、昨日もおとといのとも違うんじゃねぇのか?」丸田がジャガーの少しの違いに気づいていた。
「奴をやらないと、軍に入れない!丸田出るぞ!」
「タケシにここで待機と言われたぜ!?」
「口実は後からするさ。行くぜ!後部の機銃を頼む!」
「わかった!」
装甲車に急ぎ乗り込む二人。
『タケシ様!西から新手です。雷獣では!?』と嶋の無線。
「やっと出てきたか!?良い演出じゃないかP6!?」
『おい!ロクが来たぞ!』とバズーの無線。
「ロクめ。いつも美味しいとこを・・・」ダブルが口を尖らせた。
『斑です!やはり雷獣かと思われます!』嶋の無線。
「さあ。手合わせと行くか。嶋、石森!他は任せる。手出し無用!奴とは1対1でやりたい。」
タケシは、1台だけ戦線を離れロクの正面に向かった。ロクはそれを察知すると、タケシのストラトスを誘うように別の場所に連れ出した。それに遅れまいと、タケシのストラトスもジャガーに取り付いた。
「これが、ストラトスか?足が速いな!なら・・・」
ロクはジャガーのギアをトップに入れる。
「速いな!雷獣!噂では400まで上げられるはず。フォーミュラータイプのエンジンを搭載してると聞く!しかし・・・舐めるなよ。こっちもだ!だがあのバルカンはなんだ。武器の報告は聞いてないぞ!?」
タケシも負けずにスピードを上げ、ジャガーを追い上げた。
P6指令室。柳沢が司令に叫ぶ。
「丘の装甲車!動きました!」
「動いたか?バズーを当てろ!」と弘士。
「何ーっ!装甲車が?」バズーが無線を受ける。
『はい!今そこに来れば戦況は不利です。』
「わかった。食い止める。ダブル後は頼むぞ。」
『だから邪魔だって!』キーンが無線に割り込む。
「ロクは?」
『奴なら、ストラトスの1台と交戦中だ!』
バズーの無線にダブルが割り込む。
タケシのストラトスがジャガーの後ろに喰らい付く。ジャガーの走行で細かい小石がストラトスに当たる。
「よくついて来れるな?なら・・・これを使ってみるか?」
ロクは桑田に説明を受けた、T字のスティックコントローラに手を掛ける。すると屋根の一部と左右のバルカン砲が上に突起し、前に向いていた砲座が180度回転し、タケシのストラトスに向けられた。
「てぇー!」
ロクの車からバルカンが発射されたが、まだうまく使えないのか、後方のタケシに掠る事も出来ない。
「あらら・・・だから新しい機械嫌いだよ・・・」
「こいつ、乱射か!それとも作戦なのか・・・?」
タケシのストラトスはロクのジャガーの後ろに付いたが、ジャガーのバルカンで真後ろには付けなかった。
「真後ろに付かせない気か!しかし奴は機銃が効かないタイプ。タイヤを狙うしかない!」と
タケシが乗るランチャーストラトスは、車体のボディに機銃が内蔵しており、正面の物しか照準が合わせられない。
「離れないのか・・・しつこいのは嫌いなんだよね!?」
ロクは意を決して、後ろに付いていたタケシに対して急ブレーキをかける。
慌ててタケシはハンドルを切り、ロクの右横にかわした。すると、ロクは再びアクセルを踏み、スピードを上げタケシのストラトスの真横に付けた。
タケシは鉄板の張られた細い隙間の窓から、ジャガーの運転席を見る。ロクもストラトスの座席を見る。一瞬だったが、目を合わす二人。ロクはタケシに一瞬笑ってみせる。するとロクはバルカンを真横に向け、あえてタイヤを狙って発射した。弾丸はストラトスの後輪のタイヤに命中する。
「くそっ!横にバルカンが!?」
タケシのストラトスは車体を揺らしスピードが落ち、ロクの車から離れていった。
バズーは戦車内から、その光景を見ていた。
「あのロクの馬鹿野郎がっ!」
「嶋?聞こえるか?後輪をやられた!」
『平気ですか?』
「辛うじてまだ走れる。このままオメオメと帰れるかよ!雷獣のタイヤを殺るぞ。“三方魚雷”だ!」タケシの負けず嫌いな性格が分かるセリフだった。
“三方魚雷”・・・第二次世界大戦時、飛行機が主力となった頃、わずか3機の雷撃機で駆逐艦などの足の速い艦艇を沈めるために編み出された航空機での戦法の一つだ。
まず1機目の飛行機が艦艇の横側から魚雷を発射、艦艇がその魚雷に水平になるために舵を切った瞬間に、2機目が艦艇の回避航路に魚雷を打ち込む。更に艦艇が二発目の魚雷を避けるために舵を切った瞬間、3機目が艦艇の動きを予想して3番目の魚雷を側面に打ち込むという、各機別々の箇所から攻撃する戦法だった。
ロクのジャガーの周りに3台のストラトスが集まり始めた。
「囲まれたか。まだやるのか?タイヤは破壊したのに。何をする気だ!?」
「仕掛けるぞ!1番!」タケシが嶋を呼び込む。
『おう!』
するとロクのジャガーの側面に嶋のストラトスガ勢いよく体当たりを仕掛けた。
「なんだ!こいつ!?」突然の体当たりに回避するロクのジャガー。
「2番!」タケシは次に石森のストラトスを呼び込む。
『おう!』
間一髪でこれをかわした瞬間、別方向から来た2台目の石森のストラトスがジャガーの側面に突っ込んでくる。
「だから、なんなんだ!?こいつら!」
これも間一髪でかわすジャガー。しかし、ジャガーのすぐ横にいたのはタケシの3台目のストラトスだった。
「もらったぞ!雷獣がぁー!」
「くっ・・・」慌てて再びハンドルを切る。
タケシのストラトスがジャガーの側面に銃撃をしようとした瞬間、中に割って入ってきたのは、バズーのアシカムだった。
「バズー!?」
『何やってんだ!馬鹿野郎がぁー!』無線でバズーがロクを怒鳴る。
「ふん、救われたな雷獣・・・もういい、こっちもタイヤをやられている。バッテリーも僅かだ!使い過ぎた!引き上げるぞ!」タケシが各員に無線を飛ばす。
『ヒデの装甲車が来ています。後は奴らに・・・走れますか?タケシ様?』と嶋の無線。
「なんとかな・・・雷獣・・・噂通りだな・・・しかし弱点はある・・・しかし1対1の勝負なら俺は奴に・・・」
3台のストラトスは戦線を離れて行った。
P6の指令室。
「敵のSC3台、撤退します。」と柳沢。
「山猫より連絡、ワレ追撃する!どうしますか!?」と我妻。
「追うな!まだ装甲車がいるんだろ?風神は撤退!分が悪い。山猫に負傷者の手当てに回れと伝えろ!」と弘士。
「了解!」
「ロクはどうした?」
「1台にダメージを与えた様子です。ストラトス3台を追っています!」
「もう追わすな。バズーはどうか?」
「ジャガーのそばです。装甲車を抑えています!」と柳沢。
「安全圏まで追え。それ以降は追うなと伝えろ。たった3台にこっちのダメージが多きすぎる・・・負傷者の手当てを優先する!」
「タケシの後ろに付く。丸田!後続車を頼むぞ。この場を離れるぞ!」
『分かった。任せろ!』
ヒデの装甲車も、機銃で後方の敵を牽制しながら、タケシらの離脱に合わせてその場を離れて行った。
この戦いはポリス側にダメージを与えた。死者5名、負傷は16名、SCを3台に及んでいた。
P6指令室。
「この、馬鹿野郎がー!!」
バズーはロクの顔を見るなり、右の拳でロクの顔面をぶん殴った。ロクは指令室の後方に大きく飛ばされていた。