その17 夜明けの襲撃
ヒデはタケシの質問に答えられなかった。今まで何度も、この丘からP6を見てきて、一度もそんな疑問を持った事がなかったからだ。
「わ、わかりません・・・」
「核戦争前には、この辺りは自衛隊と呼ばれた軍の施設が何箇所か存在した。苦竹、松島、多賀城、そして塩釜の海保・・・P6は旧陸上自衛隊多賀城駐屯地の跡だ・・・そこに各国は3発の核ミサイルを落としたと言われている・・・」タケシは腕を組んだまま、街を見下ろしている。
「核ミサイル・・・世界が滅んだ兵器・・・」ヒデはタケシの横顔を食い入るように見つめた。
「しかし、見ろ!あの街並みは核戦争前の建物だ!なぜあの丸の中だけ建物が破壊出来なかったか?なぜ3発もの核の爆風を凌いだんだ!?」
「さ、さあ・・・検討もつきません・・・」
「何かあるんだよ!あの地下にな!神が住んでると噂をする者もいる!それを確認するのさ!」
「ほ、本当に3台だけで・・・?」ヒデは準備を始めたタケシに問う。
「姉貴への意地もある。部下たちは休暇を取らせたいしな。それより本音は“雷獣”だな。手合わせしたい!」
「タケシ様は根っからの戦争屋でな!強い奴がいると聞いただけで、こうやって飛び出すんだよ!」嶋が自分のストラトスに乗り込む。
「我々はどうしたら?」呆然とするヒデたち。
「ここで見てろ!」
そう言うと、タケシら3人は自らのSCに乗り込んだ。タケシのSCは車のボディにやたらと鉄板のような物を貼り付けている。特に車窓の所は僅かな隙間を残し、全て窓を鉄板を貼り付けていた。3台とも1人乗り用で、後ろのタイヤが大きいラリータイプであった。すると3台は丘を駆け下りると、真っ直ぐP6に向かってスピードを上げた。
「どうする?ヒデ?」丸田がヒデに問う。
「どうせなら見学させて頂きますか・・・すとらとすのタケシを・・・それと四天王をな!」
ヒデは、丘の上にどっしり腰を降ろした。太陽は東から昇ろうとしていた。
P6指令室が慌ただしくなった。
「先程のSC3台!こっちに来ます!」と柳沢。
「我妻!東ゲートから、風神第一部隊出せ!」弘士が叫ぶ。
「了解。キーンさん!風神マルイチ部隊、お願いします!」
『了解!風神マルイチ出るぞ!』
「正気の攻撃か・・・?夜明け前だぞ!?」弘士は眉間を細める。
P6の東ゲートが開く。キーンは屋根ありのラリータイプのSCを乗りゲート内に控えた。先頭に立ってP6から出てきたSCは10台程。各車ジープ系のSCで、後部座席には機銃が設けられ、運転手と機銃者がペアで乗るタイプだ。その中、キーンが無線を飛ばした。
「屋根つきの新顔だ。データがない。各車、左右に展開しろ!正面に立つなよ。マルイチ隊!奴らを囲めよ!」
「たった10台か?寂しい出迎えだな。嶋、石森!雑魚は任すぞ!」街に向かうタケシが、車内から戦況を見極めていた。
『了解!』
「ふん!マニュアル通りか・・・気に入らねぇな!」
屋根つきは機銃が正面にしか向かない。よって正面に立たないのが、この当時のSC戦のセオリーだった。しかしタケシのストラトス部隊はあえて左右に展開したポリスの10台の中央部分に入って来る。
「なぜだ?装甲に自信があるのか?気をつけろ。各車仲間を撃つなよ!」北ゲート側で待機していたキーンが指示を飛ばす。
『任せて下さい!キーンさん。なーに、たかが3台です!』
タケシのストラトスは急加速を駆けると、10台の中央に入り車体にスピンを駆け、回転しながら一斉に銃撃を仕掛けた。ポリスの先発隊の10台も機銃で応戦するが、一瞬の内に大半のポリスのSCを走行不能とした。
「き、機銃が効かないのか!?指令室へ!俺が出るぞ!」キーンの第二部隊が投入されつつある。
P6指令室。各員が小まめに動いている。
「柳沢、戦況は?」と弘士。
「風神押されてます!第一部隊6台が走行不能!風神の第二部隊も投入します!」
「機銃が効いてないようです!」と我妻。
「タイヤを狙うように言え!なぜそれが出来ん!それと後方の丘の上の装甲車は?」
「まだ動きはありません!」と柳沢。
「わからん、なぜ動かん?圧倒的なのに・・・」弘士は丘の上の装甲車を警戒していた。
その頃、キーンのSCが単独でタケシのストラトスに、接近戦を仕掛けていた。
「こいつ・・・まあまあやるな!しかし!何か足りん!」キーンのハンドル捌きに対抗して、車体をぶつけてみせるタケシ。
「こいつ、装甲の厚さで分からなかったが・・・ランチャーストラトス!?ま、まさか?」キーンがタケシとの接近戦で、タケシの乗る車種に気がついた。
P6指令室。
「風神より、連絡!敵はランチャーストラトスの車種と確認!」と我妻。
「ストラトス?ストラトスのタケシか?」と弘士。
「P3をたった3台で撃破したという、ジプシャン最強ののチームストラトスか・・・?」指令室内に緊張が走る。
「ダブルの山猫隊の援軍を出す。桑田!ロクのカストリーは出れるのか?」
「走れます!が、まだバルカンの最終調整が・・・」と桑田。
「ロクを呼べ!」
「はい!」席を離れる桑田。
「バズーは?」
「北ゲートが開かないため、南に回ってます!」と我妻。
「遅い・・・後手に回ったな・・・」
「山猫の20台、東ゲートより出ます!」柳沢が叫ぶ。
「頼む・・・各車、敵の動きを良く見ろ!」
キーンが出た東ゲートから、ダブルの隊が出てくる。ダブルの隊も20台、車種はラリー系、屋根付きのものが多い。
『タケシ様。東より再び敵の援軍です!』と嶋の無線。
「雑魚が・・・何台だしても同じことだ!それより雷獣はどうした?雷獣を出して来い!こいつらじゃ話にならん!」
『斑模様は、まだ見当たりません!』と石森の無線。
「もったいぶるじゃないかP6・・・」不敵に笑うタケシ。
大場とロクが控えていた部屋に、桑田が突然入ってくる。ロクが後ろを振り返る。
「ノックぐらいしろよ、桑田!」桑田に対し、叱ってみせるロク。
「す、すいません、緊急です!北からストラトスが・・・」
「ストラトス!?」驚くロク。
「ストラトスのタケシか!?」大場の顔色が変わる。
「ロクさんもカストリーで・・・」
「まだカストリーは整備中だろ?」
「出れる事は出れますよ!完了してます!」
「わかった・・・あんた、そんなこんなだ!また後でな!」大場に挨拶するロク。
「タケシなのか?」と大場。
「そうらしいな・・・あんたが引き込んだらしいな?狙いは・・・アンタか?」
「ふっ・・・かもな・・・」ニヤリとする大場。
廊下を車庫へと急ぐ、ロクと桑田。
「急に起こされたけど、今何時だ?」歩きながら腰に拳銃を装備するロク。
「え、えーと、そろそろ夜明け前ですね!」
「なぜ、敵は夜に移動して来たんだ・・・?SCの戦闘で夜はタブーだろ!?それで、戦況は?」
「キーンさんは劣勢。ダブルさんも出てます!」
「バズーは?」
「南のゲートにまわっていて、遅れています!」
「武器がない俺にどうしろと言うんだ?そもそも俺は・・・」
「わかってます!なのでロクさんは、スタンバイという事ですから・・・」
「待機って・・・俺も出るぞ!」
「ですから・・・ロクさんは待機ですよぉ!」
「仲間を見捨てる奴がどこに居るんだよ!?」
「また命令違反・・・はい!そうですよね!それがロクさんかと!命令無視はいつもの事ですね!?」薄笑みを浮かべる桑田。
そうこうしていると、二人は格納庫に着いた。そこにはストームと同じカラーをしたSCが置いてあった。外見は同じだが、後ろのタイヤがストームよりも大きく作られている。最大の違いは、ドアの上の屋根の左右の部分に2門のガドリングバルカン砲が付いている。ロクはその砲を見ると落胆した。
「あらら、想像以上に酷いな。美的センスもない・・・重苦しいな?」
「説明しますよ!このギアの後ろのT字のスティックコントローラーを押し込むと屋根からバルカンが飛び出ます。で、スティックを回すと、砲座は360度回転します。角度は少し押し付けるような感じで倒して下さい。自分の車体には打ち込まないようにはセッティングはしてます。どうせタイヤしか狙わないロク仕様に砲筒の角度を通常より深くするのにはかなり苦労しましたよ。」
「助かる・・・」
「このT字の右横が発射ボタンです。弾は2000発積んでますが、普通に撃ってたら1分も持ちませんよ。運転中は大変かと思います。狙いと操作、それと運転ですから。本来は助手席の担当ですからね・・・」
「後は実戦で・・・うん、この間の箇所もよく直ってる!さすが桑田ってとこだな!?」
「そりゃどうも・・・そう言えば、なぜこの間は戦闘に・・・」ロクの言葉に少し照れる桑田。
「偵察帰りにたまたまだよ。結果的にダブルを救う事になったがな・・・」
「さてはダブルさん?またあのセリフですか?」ニヤリとする桑田。
「ああ・・・またロクの奴、いつも美味しいところを・・・ってな・・・」ニヤリと返すロク。
「出た出た・・・」更に笑いを堪える桑田。
「さあーて、こっちも行きますか・・・?」
ロクがジャガーのエンジンを掛ける。車庫内に響き渡る轟音。傍にいた桑田は思わず耳を塞ぐ。
「シャフト呼びますよ!?」と桑田。
「ああ!」
その頃、ダブルとタケシも接近戦を展開していた。対決は1対1だったが、タケシは既に逃げの態勢に入っていた。そこへバズーの高速戦車が駆けつける。
「遅いぞ!バズー!」
『すまん・・・さあ暴れさせてもらう!』と意気込むバズー。
バズーが乗る高速戦車はアシカムと呼ばれていた。戦車と言われているが砲台がなく、いくつかの機銃が見える程。丸み先端、全長は12メートル、高さは3メートル程と高く、通常の戦車を凌ぐスピードでこの戦闘に割って入って来た。
『敵の高速戦車です!』と嶋。
『雷獣が出ないなら、戻りましょう!奴相手では分が悪い。P6にも挨拶になったはずです!』と石森。
「奴は足が遅い。まだだ!この戦車を利用するぞ!こいつらを追い込め!もうちょっと遊ぼうや!」余裕のタケシ。
バズーのアシカムが入った事で、形勢を逆転したかったポリス側だったが、アシカムの足の遅さが仇となった。
「邪魔なんだよ!バズー!」ダブルが無線に叫ぶ。
『す、すまん!』無線で謝るバズー。
『あいつら・・・バズーの足の遅いのを利用しているぞ。バズーを盾として利用してる・・・』とキーン。
「ストラトスが・・・!たった3台で・・・」
『しかもあの装甲で足が早すぎるぜ!それとなんてパワーなんだ!』
成す術のないポリスSC隊。
P6ポリス指令室。
「風神隊、負傷多数!」我妻が叫んだ。
「何してるんだ?うちの連中は?たった3台に!山猫の2次部隊を投入するぞ!」
「・・・はぁ?いえ・・・は、はい・・・司令!ロクさんが出ると言っております!」我妻が叫ぶ。
「黒豹隊か?ロクたちはまだ待機だと言え!」と弘士。
「いえ!ロクさんのカストリーだけです!」
「機銃の取付けは終わっているのか?しかもガトリングバルカンは試作機だろうが!?」
「はい!桑田が大丈夫と言ってます!」
「・・・目には目か・・・よしロクを出せ!」一瞬考え込む弘士。
P6を見下ろす丘のヒデと丸田。
「圧倒だな・・・」とヒデ。
「た、たった3台で50台を相手してるのか・・・凄いな・・・」目を丸くする丸田。
「奴はその数を利用している。数が多い程ければ多い程、ポリスは不利だな・・・完全にタケシの思う壺だ・・・んっ?あれは!?」
その時、ヒデはポリスの西ゲートから1台のSCが出てくるのを発見する。
「や、奴だ・・・斑の雷獣だ!つ、遂に出てきたか!?」
薄暗い荒野を赤いライトを付け、爆進する斑模様の車があった。