その12 高橋の過去
「過去ってなんだ?高橋技師長の過去って事か?」ロクは陽に詰め寄る。
「高橋技師長だけではありません。一部プロジェクトソルジャーも消えてるんです!」
「消えてる?消されたって事か?プロジェクトソルジャーもか・・・?」ロクは驚いた。
「四天王では、ロクさんにバズーさんがないんです・・・」
「お、俺もかよ・・・?」軽く落胆するロク。
「私もでした・・・故意的に消された感じでした。」
「バズーもそうだけど・・・お、俺みたいに外で拾われたのは、そういう扱いなのかもしれないな・・・」動揺するロク。ロクは自分に言い聞かせた。
「ただ、技師長はポリスの出です。ポリスの出であれば核戦争前のデータは皆あります。それがないなんて、怪しいと思いませんか?」
「技師長が・・・?」
「ポリスであれば、多賀城の陸上自衛隊員のはずです。その過去を消してるというのは変だと思いませんか?」
「そ、そうだな・・・確かに・・・」
「また調べてみます。詳しい事があったら報告します・・・」
立ち去ろうとする陽にロクは呼び止めた。
「なぜ俺に話した?お前は俺も疑っていたんだろ?」
陽は足を止め、振り向きもせず背中で答える。
「最初はロクさんも疑いました・・・でも私のデータも消えていたのがわかって何か気づいたんです・・・」
「な、何をというのだ?」
「我々全てがポリスに騙されているのではないかと・・・?」
「ポリスが・・・俺たちをか・・・?」
「司令には、勿論喋ってません。頼れるのはロクさんだけかと思って・・・失礼します・・・」
陽はそう言うと一人廊下を再び歩き始めた。一人残されたロクはやり場のない怒りを廊下の壁に拳でぶつけた。
翌日の夜明け。ポリスの指令室は慌ただしく動いた。
「距離不明!」と柳沢。
「気象レーダーでは竜巻は発生しにくいです。」とルナ。
そこへ当番だったか曽根参謀が目をこすりながら眠い顔で司令席に座る。
「どうした、敵か!?」
するとルナが黒のファイルを持って雛壇を掛け上がって来る。
「砂煙です!竜巻ではありません!」とルナ。
「敵サンドシップだろ?なにを騒いでるんだ!?」
「ここから今見えてる砂煙は、まだ250キロも離れてると思われるからです・・・」
「バ・・・バカな・・・」曽根は声を失った。
地下三階駐車場。陽が自分のロータスに乗り込んでいる。エンジンを掛け、ハンドル内のスイッチを押すとルナがフロントガラスに映し出された。
「外の様子は?」寝起きなのか、不機嫌な様子の陽。
『はい、快晴です。気温31度。無風です。』
「無風?この時期にしては珍しいな?しかも朝の6時で30度超え・・・今日も暑くなりそうだな?」
『風があったら、肉眼で見えなかったでしょうね?』冷静なルナ。
「なんか、板に付いてきたしゃべりだな?」
『す、すいません・・・』
「その謝り方も・・・誰かにそっくりだ・・・黒豹隊出るぞ!」
『了解!シャフト上げます!』ルナの無線が切れる車内。
「さあ、容易に近寄れるかな・・・?」
ポリス地下指令室。
「どうだ?」曽根が柳沢の背後にいた。なにか計算中の柳沢。
「排気量は先日の敵シップの5倍以上です!レヴィア一隻あたりの二十倍にあたります!」
「二十倍だと・・・」声を枯らす曽根。
「質量は先日の敵シップを遥かに超えるのは確かです!」
「黒豹隊、北ゲートより出ます!」ルナが叫ぶ。
地下三階大型整備室。アシカムを修理している高橋とスミ。そこに今起きたのか、ロクがやって来る。それに気づく高橋たち。
「ここに来るなんて珍しいな?」汗を拭う高橋。
「アシカム・・・随分シンプルになりましたね?武器少し無くなっていませんか?」
大幅に容姿が変わったアシカムを見て驚くロク。
「ああ、バズーには怒られそうだな・・・」苦笑いの高橋。
「技師長たちは寝てないのですか?」
「ああ、ほとんどのメカニックはおとといの戦闘からな・・・」
「で?バズー当人は?」
「ああ、さっきまで居たが・・・その辺で寝てるよ。」
「そうですか・・・技師長、レヴィアの事ですが・・・」
ロクは渋々重い口を開いた。
「うん・・・動けるようにはする。しかしここで出来る修理ではもう限界だな・・・精密にやるなら、P7へ持って行った方がいいだろう。だが今のままでは、海に入るのも至難なのが数隻・・・」
「壁にしたいんです!レヴィアを・・・」ロクは戸惑いながらも胸の内を話した。
「壁・・・?レヴィアをか?」高橋は手を止めロクを見つめる。
「海に入れない、ソーラーキャノンも使いない・・・だけどあの敵のシップの足を止めなければならない・・・今のレヴィア艦隊が出来る最大の役割かと・・・?それが艦隊司令としての決断です・・・」ロクは下を向きながら高橋に語った。
「せっかく整備した艦隊を、わざわざ敵に沈めさせるつもりか!?」大声で怒ってみせる高橋。
「はい・・・」ロクは高橋に真剣に向き合った。
「そうだな・・・今の俺達に出来るたった唯一の作戦だな・・・」高橋はロクにニヤリと笑って返す。
「へへへ・・・ところで、技師長は陸上自衛隊の時は何部隊でしたっけ?」
「俺か?何だよ急に?・・・俺は第56対戦車部隊の班長だった・・・聞いた事あるだろ?15名がチームになり、仲間を犠牲にしてまでも敵戦車を壊滅する部隊だ・・・」
ロクは思い出していた。今から5年程前、酔っていた高橋が地下の車庫で暴れている事件があった。高橋はある作戦で右足に大怪我を追って、リハビリをしていた頃だった。
「お前らに何が分かるって言うんだ!?」
高橋は同僚の胸ぐらを掴み、大声を上げている。幼いロクたちは車庫の端で、その様子を恐る恐る見ていた。
「SC にも乗れない!仲間を犠牲にしてこうやって生き残った・・・女房や子供と死別した俺にはな、何も残ってない・・・」
整備室の片隅でイビキをかいて寝ている高橋。そこに幼いロクが毛布を持ってくる。ロクは高橋を起こすことなく、そっと毛布を高橋にかけてやる。それに気づいたか、高橋もその場からの起き上がった。
「おやじ!いつまでもそんなとこで寝てると流行り病になるぞ!」
その声に機敏に反応し、起き上がる高橋。しかしロクの顔を見るなり、再び床に横になってしまう。
「誰がオヤジだ!お前みたいな息子を持った覚えなどないわ!」
呆れるロクを横目に、高橋は目を閉じた。ロクはそっと毛布を掛け直し、その場から立ち去ろうとした。
「小僧!なんか用か?」高橋は目を瞑りながらロクに語った。
「頼んでいた拳銃、出来てるって聞いて・・・」
「ああ、机の引出しだ!一番上だぞ!持っていけ!」高橋は背中を向けたままロクに指示する。ロクも言われたまま机の引出しを開けた。
「ああ!これかぁ~スゲーやー!」歓喜のロクを背中に、高橋は眠りながら笑っていた。ロクの手にした拳銃は後のワイルドマーガレット。ロクは拳銃を片手に構えて見せた。
「そう言えばおやじ!?」
「なんだ?」高橋は不機嫌そうに起き上がる。
「新しい車輌を自ら作るって聞いてるけど?」
「相変わらず耳が早いじゃないか・・・?」
「ああ、ソラーパネルを装甲にする新型を作る。俺が乗るつもりだった。だがこの様だ・・・」
高橋は自らの右足を擦って見せた。
「小僧?お前はみんなからロクと呼ばれてるらしいな?」
「はい・・・拳銃を六丁持つんでロクです。まだ番号の方がピンと来ますが!」
「数字の六は縁起が悪い。仲間たちは、きっとお前が早死にするからそう付けたんだろうな~?」
「そうなんですか?あ、あいつら・・・」
ロクは自分が騙されていたのを初めて気づく。
「なあ?小僧?」
「はあ・・・」直立するロク。
「俺の車が完成したら、お前にやる!乗りこなしてみろ!」
「新車を!俺にですか!?」
「ああ、テスト走行は早死に野郎に丁度いい!」
「ど、どういう意味ですか!!」喜びから一転、怒るロク。
「まあ、うまく出来たらの話だよ・・・」
寂しげな表情をして、遠くを見つめる高橋。
「名前は?車の名前です?」ロクの目は輝きを増した。
「もう決めているんだ!」高橋が薄笑みを浮かべる。
「えっ?」
「ジャガー・・・ってな・・・」不敵に笑う高橋。