その7 合同葬儀
「どういう事だ!?」五十嵐は叫んだレーダー員の席まで降りていく。
「東、南もです・・・西の本隊まで・・・何があったんだ?」
「猶予でも与えるって事か・・・ジプシャンめ!!」
五十嵐は机を拳で叩きつけた。
「チャンスじゃないですか?今こそ脱出を・・・」と陽。
「ここのプラントを放棄はしない・・・我々は最後まで戦う・・・」と五十嵐。
「五十嵐司令・・・」
陽はこれ以上は無理だと感じた。
「諦めろ・・・ここの兵は皆死ぬ気なんだ・・・」とボブ。
「そういう考え・・・好きじゃないの・・・」
「陽・・・」
「帰るわ・・・」と陽。
「明日の朝にしろ!車だってまだ修理が・・・」
「タイヤだけ頂戴・・・あとバッテリーと・・・私が直す・・・」
ボブは同期の陽の性格を知っていた。
『一度言い出したら聞かない・・・』
「そんな所はロクさんに似ているな・・・」とボブ。
「あんな馬鹿と一緒にしないで・・・」
そう言うと陽は指令室から出て行ってしまう。見つめる五十嵐とボブ。
「司令・・・?」と五十嵐の顔を見るボブ。
「いいんだ・・・」と五十嵐。
P6南ブロック付近塀の上。ロクはまた塀の上に来ていた。すると階段を上がってくる足音。振り返るとダブルだった。
「何だ?また逮捕しに来たか?」とロク。
以前ここでダブルに逮捕された事を根に持った言い方だった。
「なんだまた何かしたのかよ?」とダブル。
互いに笑い出す。ダブルはロクと反対側の塀の手摺りに寄り掛かった。
「何か用か?」とロク。ダブルがここに来るのは珍しい。
「なんか直美とデートしたって聞いてな?」
「スミの奴・・・」と小声のロク。
「ロクにしては珍しいなと思ってさ!」
「デートじゃねぇし・・・」
「そうか・・・ポリス兵も苛立ってたぜ・・・ロクの野郎いつもいい所を・・・って。」
「それ絶対お前だ?」
笑顔の二人。しかしなぜか会話が続かない。
「お前が本気なら俺は降りてもいいぜ・・・俺にはあの子はちょっとじゃじゃ馬過ぎる・・・」
真顔のダブルにロクは吹いた。
「何の話かな??ダブルく?ん?」
ロクの言葉が凄く優しい。これは凄く怒っているロクを示す。ダブルは直感した。
「い、いや・・・なつみが死んで新しい恋をしろって言ったのは俺だしな・・・」
「お前と違って最初に決めた事をそうそう変えれない・・・不器用なんだなこれだけは・・・」
「うん・・・それがロクだな・・・」
ダブルはなぜか安心した表情になる。
「ったく・・・お前も“ほどほど”にな?」とロク。
「ああ?・・・ああ・・・」
翌朝、P6東ブロックのポリスの合同葬儀会場。たくさんの兵が整列をしている。その前には弘士を筆頭に曽根やロク、ダブルの姿がある。指令室からは松井、ルナ、東海林などがいた。
「敬礼!!」
ある兵の一声で全ての兵が敬礼をする。兵たちの視線の先には50近くの布をかけられた遺体が並べられている。おとといの戦闘で亡くなった者たちだった。遺体はひとりひとり棺に入れられていく。中には子供なのか小さい遺体が目立った。彼らが棺にいる際はすすり泣く声が会場に響いた。
整列された一番端に訓練生か、10歳くらいの子供らが並ばされ、仲間が棺に入るのを涙ながらに見守っている。その生徒たちの横には、白軍服の高森の姿があった。高森は泣いている生徒を見つけるとすぐそばに近づき、ひとりひとりを殴り付けている。
「人前で泣くんじゃねぇ!!」静かな会場に高森の声だけが響いた。
ロクは昔の自分たちを思い出していた。ロクは思わず列を離れ高森の傍に歩いていった。
「ロク・・・?」呼び止めようとするダブル。
すると訓練生を殴りつける高森の手を押さえつけた。
「ロクか・・・?離せ!」と高森。
「教官・・・」
「こいつらには明日のP6を背負ってもらう・・・だから殴るんだ・・・」
「仲間が・・・死んだんです・・・今日だけ・・・本日だけは・・・泣かせてやっては貰えませんでしょうか?教官?」
ロクの目には涙が光っていた。式では今まさにキーンと死龍が棺に入れられようとしていた。高森は殴っていた右手を下ろすと訓練生たちに背を向けた。
「仲間が死んだんだ!我慢する事はない!悲しかったら大声で泣いてやれ!!」ロクは幼い訓練生に叫んだ。
ロクの声で、訓練生たちは声を出し泣き始めた。会場は訓練生のすすり泣く声が広がっていく。
式が終わったのかロクはいつもの場所に来ていた。そこにまたあいつ。
「よう!」とダブル。
「今度は何だ?」ボヤくロク。
「陽が戻ってきてないそうだ・・・」
「昨日戻ってきたんじゃないのか?」
「山口だけな・・・話によるとP5に何か知らせると言ってたらしい・・・」
「P5にか?1台で?無茶するな??」
「行くか?お前と俺なら片道一時間掛かるまい!」と笑顔のダブル。
「おいおい・・・」呆れ顔のロク。
P5南ゲート付近。陽のロータスは整備され陽が運転席にいる。運転席側の外にはボブがいた。
「考えておきなさいよ?」と陽。
「なんだよ!」と不機嫌なボブ。
「残り少ない同期の言葉よ。生きてなんぼでしょ?P6へ避難して!」
「命・・・?惜しくねぇ・・・」
「ほんと・・・ここはバカばっか!!」
陽は車のエンジンを掛けるとゲートギリギリまで車を近づけた。ボブの顔を見たくない様子だ。ボブは陽の車を追いかける。
「外に敵は居ない・・・全軍南に下がっている。海岸線を南下しろ!」
「ふん・・・中央突破してやる!北上した敵の正体も暴いてやるわ!」
「じ、冗談だろ?」慌てるボブ。
「嘘よ!」
ゲートが上に開き始める。陽はボブに挨拶もしないで車を走らせた。見守るボブ。陽は窓から右手を出し親指を立てた。
P5より南へ30キロ付近。大広のバイク隊をはじめ、SCが数多く並べられている。先日タケシとP6を襲った新鋭艦も荒野にその姿を現していた。
どこぞやの戦艦のブリッチ。広いブリッチには若い女性兵が多く。その中央に寛子が座っていた。寛子の横には犬飼が立ち、その前には大広が跪いている。
「この度は、弘子様直々にお越しなさるとは・・・この大広感激であります・・・」
下をむいたまま顔を上げない大広。かなり緊張している様子だ。
「いつまで経ってもP5陥落報告をせぬ貴様に変わってやろうというのだ!ありがたく思え!」
「ははっ!しかしなぜ総帥自らこちらへ・・・?」
「雷獣だ・・・」と寛子。
「雷獣ですと・・・?」顔を上げる大広。
「奴が単独で基地3つを潰してくれた・・・これ以上好きにはさせん・・・」
「基地3つですか・・・?」
「先日もスコーピオが沈んだ・・・我々はP6を甘く見ていたのかもしれん・・・」
「それはどうでしょう?」大広の後ろから声が聞こえる。
「ツヨシ・・・」寛子は驚いた。
そこに居たのは両角を率いたツヨシが立っていた。