その6 死神VSニセ雷獣
ジプシャン軍P5前線基地。大広の元に伝令が駆け寄る。
「南で30キロにて雷獣の目撃です!真っ直ぐこちらに向かっています!」
「来ましたね・・・定期便にしては久しぶりですね?」と大広。
「それと寛子様の船は明日夕方到着との事・・・」
「ではその前に雷獣狩りと行かせて貰いますよ・・・」
陽のロータスは既にP5圏内に入っている。日は傾き、既に西の空は変わりつつある。陽は用心しながらライトも点けず運転していた。
「敵のあの船・・・かなり足が遅いな・・・?今日は何処ぞやでキャンプだな?しかし明日にはP5圏内に入ってしまう・・・せめてどんな船か確認しなければ偵察の意味がない・・・」
陽は横目で後方となった高い砂塵を見つめていた。
「砂塵を見るだけならSCもかなりの数、船も2隻以上・・・ジプシャンの本隊なら容易に近寄れないな?一体何台のSCを繰り出してるんだ!?」
その瞬間、陽のロータスは銃撃に遭う。
「バ、バイク・・・?死神か!?」
慌ててハンドルを切り回避運動を行うロータス。
「こんな南まで・・・P5に行かせない気ね・・・?」
陽はロータスの機銃を出すと、何台かを撃ち抜いた。
ジプシャン軍P5前線基地。大広がいる指令室に無線が入る。
『雷獣は真っ直ぐP5へ向かっております!』
無線を自ら持ちプレストークボタンを押す大広。
「討ち取って下さい!」
『しかし・・・塗装は雷獣ですが・・・車種は以前と違うとの事・・・』
「どういう事ですか・・・?」
P5指令室。司令席にはボブの姿があった。ひとりのレーダー員がボブに叫ぶ。
「南10キロで敵バイク隊に囲まれてるSCあり!データにはありません!」
「こんな時期に・・・P6の定期便にしては早いな・・・数は?」とボブ。
「一台です!」
「ロクさんなら援軍は出さない!このまま待機だ!」
「はい!」
「五十嵐司令を呼べ!」とボブ。
陽のロータスはバイク隊の手榴弾攻撃を受けている。直撃を食らったのか、左後輪が既に外れており車体を荒野にぶつけながら走行している。時折火花が散る。陽もそれを少しでも軽減しようと体重を右一杯に傾けている。
「P5まで持つか・・・?」
するとフロントガラスに女性のオペレーターが映し出される。
『こちらP5・・・聞こえますか?』
「こちらP6黒豹!」
『黒豹?定期便ではなさそうね?しかも女・・・?』
「何よ!そっちこそ!?ボブは!?」
『ちょっと待って!そっちは?』
「同期の陽って言えば分かるわ!急いで!」
画面が変わりボブが映し出された。
『おいおい・・・懐かしいな・・・いつから黒豹だよ?』とボブ。
「迎えに来るの来ないの!?」
『ロクさんなら助けを出すと怒る・・・』
「車輪が一つないの!ハンドルも左に切れない!」
『今、援軍を出すよ!なんとか耐えろ!』
「了解!」
P5指令室。ボブが指揮している中、司令の五十嵐が入ってくる。
「黒豹?ロクか?」と司令。
「いえ・・・黒豹は間違いないですが陽という俺の同期でSOSです。SCを出動させます。」
「任せる!・・・南ゲートに守備兵を配置せよ!」と司令。
陽のロータスはバイクから逃げの姿勢で荒野を飛ばす。
「荒野の死神・・・噂通りだな・・・どこまでも追いかけて来る・・・P4の頃と訳が違うか・・・」
陽はさっきのボブの言葉が引っ掛かった。
「あいつは助けを出さない言い方だったな・・・ふーんいつもこんな場を行き来してんのか!?まさに雷獣・・・」
陽は拳銃を取り出すと、窓を開け敵バイクを撃ちまくる。転倒するバイク隊。
ジプシャン軍P5前線基地。
「雷獣ではないという事ですか?」大広は焦っていた。
『塗装は同じですが、ドライバーは女!』と無線の声。
「またも弄ぶのですか!?雷獣!!」
『車は後輪が脱落!』
「絶対にP5に奴を行かせてはなりません・・・」
大広は無意識に中指を立て無線機の方に向けながらしゃべっている。
陽のロータス。敵のバイク隊はさっきの2倍以上に膨れ上がっている。
「ったく・・・男って生き物は・・・女なんだから少しは手加減してよね・・・」
拳銃の弾も使い果たした様子の陽。覚悟を決めてP5へアクセルを更に踏んだ。後輪タイヤがない分、車体が擦れどこぞやから煙が巻き上がっている。
するとP5方面からSCが5台来るのが分かった。陽は味方の援軍だと思い、夕闇近い荒野で必死にハイビームで居場所を知らせた。
『お待ち?』軽い応対の無線。すぐボブだと分かった。
「遅い・・・こっちはね!火噴いてんのよ!!」
『ロクさんは一人で来るんだけどな?』とボブ。
「チィッ!!」陽はその言葉に舌打ちで返す。
『怒るなよ・・・』
「ったく・・・男って生き物は・・・私は奴じゃねぇぞ!」
するとボブ隊が陽の周りの敵バイク隊を迎撃し始める。
『姫?参りますよ!』と得意げのボブ。
「はいはい・・・ありがとさん・・・」と陽。
6台のSCはP5へ向かって走り出していた。
P5指令室。陽とボブ、それに五十嵐司令がいる。
「嘘だ!死龍さんや、キーンさんまでもが・・・」大声のボブ。
「事実よ・・・昨日の敵戦艦と刺し違えて・・・」と陽。
「それを伝えにわざわざ来たのか?」と司令。
「いいえ、敵古川基地方面からこちらに敵の本隊らしき部隊が向かっています。明日にはここの圏内に到着するでしょう・・・」
「既に砂塵は観測している。かなり高く舞い上がってるからな・・・」と司令。
「ご存知でしたか・・・」
「いよいよ敵も総攻めで来たか・・・?」と司令。
「な、なーに死龍さんの仇を討てます。P5の意地見せますよ!!」
張り切るボブとは裏腹に声が震えているボブ。
「・・・ったく、男って・・・すぐ死ねばなんでもかんでも済むと思ってない?」と陽。
「うるさいな!もう俺は腹括ってるんだよ!」と逆上するボブ。
「司令!?まだ虹が2隻・・・ジプシーも前回の定期便で全員こちらに移動してます。ポリス兵だけなら、一か八かP6に移りませんか?」
五十嵐は陽の提案に驚いた。
「おいおい逃げろっていうのか?」とボブ。
「あんたは黙ってて!・・・先程も申したようにP6は四天王システムという、核戦争前の防御システムを作動させています。レヴィア艦隊もまだ壊滅ではありません。ここを放棄してP6で一緒に戦いませんか?あの数・・・とてもここが持ち堪えれるとは思いません・・・」
「しかし・・・ここの地下プラントや製鉄所を失うのはP6にとって負けに等しい・・・」
「プラントがなんです!向こうでまた作ればいいじゃないですか?300名の命を無駄にするんですか?」
「護衛のSCもわずか20台しかない・・・君もここまで来て分かっただろ?とても虹2隻でP6には行けないだろう・・・」と司令。
「可能性がなんです!現に2隻は戻っています!」と反論の陽。
「それは親父さんや現司令の意見か?それとも君個人の意見か?」
「それは・・・」陽は急に黙ってしまった。
「司令!」
雛壇の前方の方から女性の声が聞こえる。
「なんだ!?」
「て、敵バイク部隊が撤退してます・・・」
「何だと・・・?」驚く五十嵐。
「死神・・・」唇を噛む陽。