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四天王  作者: 原善
第七章 愛は砂漠に・・・
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その2 新たなる決意

 ロクは研究室のある小部屋で献血採取している。担当は高田だった。ロクは冴えない顔をしている。高田はロクの顔を伺いながらロクの太い腕に注射針を刺していた。

「先生・・・?」

 ロクが突然高田に語りかけた。

「な、何・・・?」高田は少し戸惑った。


「俺は本当にミュウなんでしょうか・・・?」

「確立は50パーセントね・・・」

「そうですか・・・」

「前検査を受けたのはいつだった?」

「P4から帰ってからですから・・・2年前でしょうか?」

「その時は・・・?」

「陰性でした・・・」

「そう・・・ミュウはいつ発症し覚醒するか分からないもんね・・・もう一本取るわね?」

 高田は針を刺したまま容器だけ2本目に変える。


「ミュウは短命と聞きます・・・」とロク。

「ここの記録では28歳が最長ね・・・それもまれで9割が25歳以内に死ぬわ・・・」


「なぜ人類が滅ぶんです?」

「このままミュウが増えれば、子供を産む母体自体が無くなってしまうの・・・」

「女性自体って事ですか?」

「そうね・・・20年前もそうだったのよ・・・出産した女性ばかりが半年以内で亡くなるの・・・」

「20年前・・・?」

「はい・・・終わり・・・結果は明日には出るわ・・・ああもう明日ね・・・」

 高田は掛け時計を見ると、時刻は夜12時を過ぎていた。


「司令?怒ってませんでした?」と恐る恐る聞くロク。

「あら?P6の天才軍師も苦手はあるようね?」

「優しい所もありますが・・・司令は恐い兄貴です。」

 ロクがこの部屋に入って初めて笑った。


「怒ってたわ・・・凄く・・・」と高田。ロクの表情が渋くなった。

「やっぱり・・・」


「まあ隠れてこそこそしているダブル君から比べたら軽い方だって笑ってたけどね・・・」

「あいつそんなに手を出してるんですか?」

「あら親友のあんたにはそんな報告はしてなさそうね?」

「その辺は口が固いんですよ・・・」

 頭をかくロク。


「まあ始末書で済むかな・・・また独房に入りたいなら別だけど・・・」

「いえいえ・・・」

「もう、責める相手もいないしね・・・今回は出産の承諾をしなさいよ・・・私からも穏便に済ますよう司令に頼んでおく・・・」

「それとこれとは・・・?」

「そうね・・・愛した女が全裸で水槽・・・私なら考えるわ・・・」

「はぁ・・・」

「ああ・・・見せたい物があるの・・・」

「はい・・・?」



 研究室の端にある机。どうやら高田のデスクらしい。そこのも小さめの水槽が4つ程置いてある。中には緑色の液体と未熟児と思われる赤ん坊。高田はその一つの前で止まった。

「この子見て・・・」

 高田は一つの水槽を指す。まだ人の形がやっとの未熟児。


「ヒデと聖の子よ・・・」

 ロクは驚いた。水槽の中の未熟児は時折動き出していた。


「あの日・・・関根が私の所にこの子を持ってきたの・・・流産したはずなのにこの子は生きていた・・・まだ3ヶ月も満たないのに・・・」



 回想。関根が高田の所に未熟児をタオルに包んで連れて来ていた。

「流産した子よ・・・まだ3ヶ月も満たないわ・・・父親は不明よ・・・まだ脈があるの!?」と関根。

「そう・・・」と高田。

「どうして・・・どうしてこの状態でこの子は生きているの?これがミュウなの?」

「母親は?」

「地下6に預ける・・・上では手が付けれない・・・」

「母親のミュウ検査は?」

「陰性・・・」

「なら父親の事を調べて・・・これ以上ミュウを増やす訳には・・・」

「わかったわ・・・」

「その子はここで預かるわ・・・」



「聖さんはこの子事を知ってるのですか?」とロク。

「彼女には死産として報告したはず・・・今となってこの子の事を彼女に報告しても・・・見たでしょ?彼女?こちらで投入した薬のせいもあるけど、ああやって母体を破壊していくの・・・母親の状態が悪いほど、子供の力が強い・・・今までのデータよ・・・」

「・・・」

「そしてこの子を凌ぐミュウの子が現れた・・・それがあなたたちの子よ・・・ミュウは我々が知らない間に、急速に進化している・・・」

「俺はどうしたらいいでしょうか・・・?」

「分からないわ・・・同情も出来ない・・・ただ自分の宿命を感じたなら・・・この子たちを認めなさい・・・」

「はい・・・」



 ロクは夜明け前の塀の上にいた。北ブロック付近は既に外への外出は解除になっていたが、まだ南、東、西のゲート付近は立ち入り禁止が解除されてない。ロクはいつもの南ブロックではないが塀の上に来たかったのだ。ロクはやや明るくなった東の空を見ていた。まだ3本の塔は収納されておらず、300メートルにも伸びた姿を見せ付けている。


「ここでしたか?」


 聞き慣れた女性の声。ロクが振り返るとオペの松井がいた。薄暗く顔はよく見えなかったが、松井は目を赤くしていた。だいぶ泣いたんだとロクは感じた。

「珍しいな?」

 ロクにとって松井は年上に当たったがロクは先輩風を吹かした。

「さすがに地上から見ると高いですね。東海林さんから聞きましたが、地上から290メートルもあるそうです。」

 松井は四天王システムの3本を見上げて呟いた。


「すいません・・・こんな時に・・・誰かとしゃべってないとなんか不安で・・・指令室内ではみんな気を使ってくれて・・・逆にそれが辛くって・・・こんな時なんで普段通りしてくれた方が楽なんですがね・・・」

「これをキーンから預かった・・・松井に渡してくれって・・・」

 ロクはキーンの拳銃を松井に渡す。


「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」

 気丈に振舞った松井だったが、堪えられなくなり涙を零し始める。


「立派な最後だった・・・奴がポリスを救ったんだ・・・」

 泣き崩れる松井。ロクは掛ける声がなくその場を立ち去ろうとする。そんなロクの背中に松井が叫んだ。


「悲しくないんですか!ロクさん悲しくないんですか!?」


「悲しいさ・・・泣きたいさ・・・キーンは一番の親友だった・・・」とロク。

「泣きたいとき泣けばいいじゃないですか!?」

 松井はやり場のない悲しみをロクにぶつけるしかなかった。

「なつみが死んだ時・・・ロクさん本当に悲しんだんですか!?本当に泣いたんですか!?」


「俺らはプロジェクトソルジャーだ!人前で泣くなと教育された!・・・って建前だけどな・・・」

 強い口調からロクは急に弱い口調になった。

「ロクさん・・・」


「俺はこの戦争に勝って泣く・・・なつみにそう誓ったんだ・・・俺がこの戦争を終わらす!死んでいった仲間の為にもな!」

 ロクはそう言うと、塀の階段を下りていった。

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