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四天王  作者: 原善
第一章 プロジェクトソルジャー
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その15 ロクの嫁?

「なつみ・・・俺のスタイルは知ってるよな?」


 ロクは、桑田に怒っていた。さっきよりも、冷たい言い方に変わっていた。いつものロクはここまで怒らない。本気で怒っている。そう桑田は思っていた。ロクは怒ると黙るタイプ。桑田は知っていた。


「す、すいません・・・」慌てて謝る桑田。

「まあ、後で見に行く・・・」


 素っ気無い言葉に、桑田はますますロクが怒っていたのを察する。

「わ、私は、一度指令室に戻ります。ここで・・・」

「それと桑田?後でストームも整備してくれないか?」

「ストーム?」

「今日、俺が乗った試作SCだ。ダブルのブラックカラーにしてやってくれ。」

「ダブルさんが乗る予定だったんですか?」

「そうだ。勝手に俺があの塗装にしたけどな。頼んだぞ。」


 ロクはそう言うと、長い廊下を歩き始めた。

「あっ・・・手紙ですが・・・」

「ちゃんと、読んでおくよ。」


 ロクは桑田に背を向けながら右手を上げ、軽く左右に振った。ロクは再びいつものロクに戻っていた。桑田はロクの姿が見えなくなるまでロクを見つめている。

「プロジェクトソルジャー・・・か・・・?」



 ロクは廊下を歩いていると、銃を持った兵が2名付いた部屋の前を通る。部屋のドアは開いていて、中には直美が食事を取っていた。妹と弟は毛布を掛け、そばの長椅子で寝ていた。ロクは、兵に挨拶をするとその部屋に入って行った。


「ここの食事はどうだい?」

 直美は少し驚いて、途中だった食事を止めた。

「うーん。まあまあかな・・・」

「それは、良かった。魚ばっかりで俺は嫌だけどな・・・」

「父はまだなの?もう何時間ここで待たせる気?」

「君の父に呼ばれている。これから会うが、基本的には俺の担当ではないんでね・・・」

「そう。父になにかあったら、私が承知しないから!」

「おお、怖い怖い・・・」

「それ!父の口癖よね!?」直美はロクにおちょくられたのを感じる。


 ロクはわざと直美の父親の口癖を使ってみた。

「ふふふ・・・気づいたか?」

 ロクはそう言うと、笑いながら再び廊下に出て歩き始めた。

「あいつ・・・何か、気に入らないわ!!」ムッとする直美。



 狭い部屋にダブルと大場の2人がいる。中央に机。互いに向かい合って座っている。二人とも不機嫌そうだ。部屋の天井の角にはカメラが設置してある。すると、ドアがノックする音が聞こえ、ロクが部屋に入って来る。


「よっ!」

「おっ?」


 ロクは、ダブルの肩をポンと叩くとダブルの座っている後ろに立った。

「ほんと、いいとこばかり持っていくな。お前は・・・」


 ダブルはそう言うと、部屋から出て行った。代わりにダブルが座っていたイスにロクが座った。


「ご指名、ありがとうございます!」

「さっきの彼に、注射を打たれそうになったんでね。自白剤を打たれるなら、あんたになら話すって言ったんだ。」

「自白剤なんて、ありませんよ・・・脱走を認めたんだから、あんたも素直に吐けば済むことでしょ?」

「こっちにも意地がある!」腕を組み直す大場。

「もう!頑固だな・・・」目を細めるロクだった。



 ポリス内の指令室。いつになく人が多い。弘士やおやじさんと呼ばれている弘士の祖父久弥、バズーやキーンはもちろん、柳沢や我妻がこのロクと大場のやり取りを、大きいモニター3つを使って見ていた。指令室には、普段20名くらいの配置だが、その倍の40名くらいがこの取調べを見に来ていたのだ。そこへ、先程ロクを呼びに行っていた桑田も帰って来た。


「さて、どうする?ロク?」と弘士。



「そう言えば、言っていた保護の条件とは・・・?」とロク。

「俺の命はいい。子供たちの命だけは守って欲しい。これは必ず守ってくれよ!?」

「既にあんたら家族は、他のジプシーとは隔離して暮らしてもらう事が決まっている。」

「ポリスにしては早い対応だな。街以外にか?それで平気なのか?」

「さあな~まあ最善は尽くすよ!でもジプシャンのあんたへの対応の方が早いんじゃねぇか?正直、今朝は驚いたよ。よほどあんたを連れて帰りたいみたいだな?」

「くくくくっ、俺も、驚いたさ!」バカ笑いをする大場。

「・・・それだけか?条件?」

「ああ?そうだな、もっと希望を聞いてくれるんだったら。まだ頼みはあるんだが・・・」


「何だい?出来る範囲だけだぜ!?」

「そうだな・・・?そうだ!うちの娘を嫁に貰ってはくれないか?」

「はあ!?」驚くロク。



「えっ!?」

 指令室にいた桑田は驚いた。


「おおーっ!」

 桑田だけじゃない。このやり取りをモニターで見ていた指令室いた者たちは一斉に声をあげた。

「どうした?交渉人!?押されてるぞ!」

「桑田!凄いライバル出現だな!?」

「こりゃ、桑田も女の部分を頑張らないとな!?」

「ロクが嫁をもらうのか?どんな娘なんだ?」

「このおっさんの娘!?そんなにいい女か?」

「その娘?今どこに居るんだ!?」

「そいつ見に行こうぜ!」

 桑田は指令室の最前列から、無言で後ろの野次を飛ばした男たちに向かって鬼の表情で睨み返した。一瞬で黙る外野たち。


「珍しくロクが、押されてるな?」

「さあ、どう出る!?ロク!」

 キーンとバズーもこの会話をモニターで見ていた。



「いい女だろ?」

「雨音ちゃんかい・・・?」とぼけるロク。

「馬鹿!そうじゃない。上の直美の方だよ。歳もあんたとそう変わらんだろ?料理もうまいし、銃の腕もいい。気は強くじゃじゃ馬だが、なーに、あんたならうまく捌けるさ。・・・というか、俺があんたみたいな息子が欲しいなー!」

「お、俺を息子にか?な、なんでだよ!?」

「さあな。こんな荒んだ時代には、やけに優しいしな・・・」

「あ、ありがとう・・・ございます・・・」妙に照れるロク。

「で?どうだ?直美の件?」

 ここぞとばかり大場は机に身を乗り出した。



 指令室がロクの回答に全員がモニターを見つめ、部屋全体が静まり返っていた。特に桑田は動揺を隠せない。

「えっ・・・?えっ?」



「悪いな。俺には惚れてる女がいるんだ!」ロクが呟いた。



 ロクのその一声に指令室は沸きに沸いていた。

「ロク、痺れるぜぇ!」

「か、かっこええわー!」

「ピーピー!」

「桑田良かったなー!」

「これ、お前へのプロポーズじゃないの?」


 指令室か沸く中、同じオペの我妻だけがなぜか不機嫌だった。

「・・・」


 指令室の男たちは、一斉に桑田を冷やかし始めた。

「もうー!私じゃありませんったら!」と言いながらも、目が点になりながら顔を真っ赤にする桑田。



「そうか、残念だな。いい息子になれそうだったのにな。で?ジプシャンの何から聞きたい?」と大場。

「今のジプシャンの兵力!・・・かな!?」

「SCは800台。バイク部隊は200台。小型サンドシップ1隻、中型が2隻、そして大型の船がまもなく完成する。兵は3000人かな?」

「なぜ、軍を脱走した?」

「戦争が嫌になった。人間関係。まあ何もかもだな・・・」

「ジプシャンは脱走兵は銃殺と聞く?そこまで危険を冒してまで脱走?あんな子供まで連れてかい?それにあの足の遅いトラック・・・正気の脱走作戦とは思えんな・・・?」

「だから風の強い日を選んだのさ!確かに正気の作戦ではない!だがそこまでやらなければならなかったんだ。」

「下手したら、家族全員が死ぬとこだったんだぜ?それでもかよ?」

「そうだな、あんたから見たら無謀だな。今の総帥には呆れてな。俺は昔の総帥の片腕だった。死んじまったがいい男だったぞ。」


 

 その言葉を神妙な顔つきで見守る弘士と久弥。

「前総帥か・・・?」と久弥。

「土井一族の事か?」と顔をしかめる弘士。



「トップが代わってジプシャンも変わった。なにか血も涙もないっていうか・・・殺戮と強奪。弱い奴らが泣くのはもう見たくないんでね・・・」

「それが・・・理由?」

「それと・・・俺はあんたが四天王だと思っている!」



 大場の言葉に驚くキーンとバズー。

「おっ?やるなぁ、このおっさん!」とバズー。

「言えるが、あまりにもしゃべり過ぎじゃないか?どう思います司令?」

「スパイの可能性はあるだろうな?」と弘士。



「おいおい、勝手にそっちで決めないでくれよ・・・」両手を挙げて呆れるロク。

「昨日の帰りの道、あの包囲網を無傷で突破したのは、とても偶然とは思えないしな!若いのにその風格、度胸・・・あんたはその若さで幾つもの修羅場は潜ってきたはず・・・違うかい?」

「だからあれは、車の性能が・・・」目が泳ぐロク。すると突然大場が真顔になった。


「いいか、よく聞け。その四天王だから話しておく!間もなくP5(ピーファイブ)は陥落する!」

「なっ・・・」驚きで声にならないロクがいた。

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