その31 命の意味
5年前。ロクと手榴はヒデの追撃命令を下された直後だった。
「相手はヒデらしいぞ!」12歳のロクが車庫にいた。
「う、うん・・・」何か乗り気がない15歳の手榴。
シャフトの扉が開き、二人を乗せたジープ型のSCがシャフト内に入る。
上へと移動中、ロクは自分の拳銃に弾を込めたり弾倉をチェックしている。
「なんで今更脱走なんだよ!?」独り言のロク。
手榴は運転席側でハンドルを強く握り締めた。すると突然SCに無線が入る。
『逃走中の者は、武器倉庫より拳銃を10丁、銃弾を数百発、バズーカの火器系を5個を持って逃走。やむを得ない場合は射殺も許可する!繰り返す・・・』
「おいおい・・・バズーカは余計だな?しかし仲間相手に射殺かよ?俺ならなんとかするのに!」ボヤくロク。
「殺るんだったら私が仕留めるわ!あんたは後方待機で!」と怒りの手榴。
「おいおい本気か!?手榴?」
「本気よ!」シャフト内の壁を見つめる手榴。
「タンク班は南のルート、ホーリー班は北に向かったらしいぞ?うちらはどうするんだ?」
「あいつの行動なんてお見通しよ!あいつは山を越えるわ!」
「山をか?」
「戦いたくないのよ・・・あいつも・・・」どこか寂しげな手榴。
「あいつもって?手榴もかよ!?」
「山を越えたらポリスもジプシャンもない・・・昔誰かがそこに行くんだって言ってたわ・・・いいわね?逃げたい奴は・・・」
「手榴・・・まさかヒデの事を・・・?」
「君?何でも分かるのね?そうよ!好きだったわ・・・悪い?」初めてロクを見つめる手榴。
「悪いとか言うんじゃないけど・・・」口ごもるロク。
「逃げれるなら私も逃げたいもの・・・こんな戦争からね・・・?」
「手榴・・・」
現在。ジャガーから伸びた銃弾がオレンジの線となって荒野に消えていく。次の瞬間巨大な爆風と爆音が暗闇の荒野に響いた。特に爆風は距離を置くジャガーの所にまで、砂埃となって目に見える程だ。爆発したところには火の気がなく逆にエアーブースターの爆発力が凄いのをロクは感じていた。
砂埃が消え視界が開けてくると、さっきまであった装甲車の姿が綺麗に消えていたのが分かった。
「爆発したら・・・骨も残らない・・・確かだな・・・」
ロクは一人呟くと、ジャガーのエンジンを掛けた。するとP6方面からダブルのジャガーと思われる赤いライトのSCと、数台のSCがロクの側にやって来る。ダブルのジャガーはロクのカストリーの真横に並べて停車した。ダブルは助手席の窓を開けると、ロクに声を掛けてきた。
「どうしたロク?何の爆発だ!?」
ロクは笑いながらダブルに答えた。
「何でもないさ・・・悪いな・・・忙しい所・・・」
笑っているがロクの表情に覇気がないのを感じたダブルは、車を降りて爆発箇所を歩いて廻り始めた。
「装甲車か・・・?それともう一台・・・ん?誰かの遺体・・・うう・・・見る影もないな・・・夢に出そうだ・・・これじゃあ遺体の判別も出来ないな・・・」
ダブルがロクのジャガーの横に戻ってくると、運転席のロク目線に顔を下げた。
「バズーが行方不明だ・・・それと陽も・・・まさか今のミンチじゃないよな?」とダブル。
「不明って・・・?アシカムは爆発したんじゃないのか?生きてるのか?」驚くロク。
「さあな?アシカムにはバズーは居なかった。またすぐ近くで陽のロータスが置き去りだった。」
「爆発に巻き込まれたか!?」
「今、総出で捜してるよ・・・それと早く報告会に出ろよ。桜井たちが捜してるぞ!」
「今行く・・・ああダブル?」
「何だ?」
「ちょっと付き合え!」
「あ?」
2台のジャガーは赤いライトを点け、丘の上にいた。すると荒野に横たわった聖を見つける。
「ひじりさんか!?」ダブルは驚いた。
髪が半分以上抜け落ち、残った髪の毛も白髪になっていたからだ。
「おい、しっかりしろ!?」ダブルが意識を確認するが応答がない。
「連れて返る。運ぶの手伝ってくれ!」とロク。
「ああ・・・しかしどう言う事だ?ヒデともう一人いたろ!?」
「ヒデはさっきのだ、もう一人は不明・・・逃げられたかな?」
「そうか・・・」
ダブルとロクに両脇を抱えられ聖はカストリーの助手席に乗らされた。聖はジャガーが走り出した頃に意識を取り戻した。
「ここは・・・?」と聖。
「P6に戻る・・・」
「ヒデは?」
「あんたが俺の車に乗っている・・・そういう事だ・・・」
聖はその言葉に静かに泣き始めた。
「降ろして・・・もうポリスには戻れない・・・」
「そう言うと思ったさ・・・だがな・・・」
ロクは咄嗟に車を止めた。
「俺はたくさんのミュウの最後を見てきた・・・最後は気が触れて死ぬ奴ばかりだ・・・」
「・・・・・・」
「特に酷かったのは、自分の喉を掻きむしって死んだ奴もいた・・・あんた?そんな激痛に耐えれるか?」
「荒野で死にたいの・・・生まれた所だもん。」
「まだ生き残る可能性はあるんだ!そう信じろ!命を粗末にすんな!ヒデの為にもな・・・」
聖は大声を出して再び泣き始める。ジャガーは再び暗い荒野を走りだした。
「あの子は?」と泣きながら聖が問う。
「誰だ?」
「あんたの妹よ・・・」
「・・・タケシが襲撃の際に戦死した・・・」
「・・・ロク・・・実はね・・・あの子を・・・」
「!!」聖の言葉に驚くロク。
P6指令室。弘士を中心にまだ指令室は総動員でいた。
「7番から10番艦はP7へ移動予定ですが・・・」
「何が問題だ!?」と弘士。
「艦底部分を傷ついた艦が多く・・・P7への海路は無理かと・・・」
「ふうー・・・検討する・・・街のドックでは限界がある・・・応急処置だけでいい!急げ!次は!?」
「はい・・・街の被害ですが・・・例の敵新兵器の影響で受けた穴ですが・・・」
「至急重機を使って埋め戻せ!次は・・・?」
「ヒデ捜索は難航しており・・・」と我妻。
「それも次に回す・・・次は?」
「4つの塔の収納ですが・・・夕方になった為、電力が少なく・・・」と東海林。
「風力発電を回せないか?出来れば収納したい・・・あんな高い塔を見たら、ジプシーたちが不安になる・・・」と弘士。
「時間が掛かりますが・・・やってみます・・・」
「頼む・・・次は・・・?」
「敵兵の遺体ですが・・・思った程数が多く・・・手が回らないのが現状です。朝になれば傷みが早く・・・出来れば今夜中に埋めたいのですが・・・?」
「ポリスが優先だ。街の男手も借りよう・・・守備隊が落ち着いたらそちらに回す。次は・・・」
「外の兵たちが街内に戻りたいと連絡が来てます。」と我妻。
「4ゲート以外の通用門を使わせろ。塔の周りには立ち入り禁止だ。それは継続する!」
するとルナのデスクの表示灯が音を立て点滅する。ルナは会議の輪から離れインカムを付けた。
「はい、こちら指令室ルナです。」
『こちら黒豹・・・いや第一艦隊のロクだ・・・』とロクの声。
「ロクさん?・・・いや艦隊司令・・・?みんな捜してますよ?さっきの件、終わったんですか?」少し小声のルナ。
『ああ・・・逃亡中のミュウを確保。ゲートは通れるのか?』
「まだ解除になっていません・・・通用門を使って街にお入り下さい。」
『分かった・・・そこはみんな無事か?』
「一応です・・・ただ・・・」
『ただ・・・?どうした?』
「バズーさんも、陽さんも行方不明・・・それと松井さんが・・・」
『松井?松井がどうしたんだ?・・・泣きたいのはこっちもだよ!ああ高田女医を待機させてくれ。北と東の通用門から入る。』
「了解・・・」
ロクは無線を切ると北ゲートと東ゲートの間辺りに設置されてる通用門に向かった。通用門は車1台分の幅のトンネルのような門で、ロクのジャガーはそこの前に到着すると門は自動的に開き、ジャガーはその中へと入っていく。
ジャガーが辿りついたのは東ブロックのある軍事施設だった。建物の前では高田とスタッフが3名が待ちわびていた。ロクはその横に車を止めると、高田たちが助手席の聖を運び出していく。
「この子だけなの?」と高田。
「はい・・・」
「ヒデは?」
「死にました・・・」とロク。
「そう・・・どっちみち今日刑が執行されていた訳だし・・・」
高田たちが聖をストレッチャーに乗せ運ぼうとする。ロクは高田だけを呼び止めた。
「女医!?」
「その呼ばれ方、好きじゃない・・・先に運んでて!」
高田は部下に聖の搬送を頼むと、ロクの方へ戻って行った。高田はロクの冷たい目を見つめ何かに気がついた。
「何か話し?」
「彼女が逃亡してる最中・・・妙な施設を見たと・・・」
「ええ・・・知ってるわ。私も人質だったんだから・・・それで?」
「その施設で・・・なぜかなつみを見たと言っています・・・」
「ふふふ・・・」
ロクの言葉に高田は薄笑みを浮かべた。