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四天王  作者: 原善
第六章 真・四天王降臨
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その30 消せぬ記憶

 丸田が乗る装甲車が真っ直ぐロクに向かって走ってきた。天井部分にある20ミリ機銃がロクに向けられた。ロクは半身になり拳銃を装甲車に構えた。装甲車から発射されるオレンジ色の銃弾。ロクは動くことなくこの銃弾を避けてみせると、天井部分の機銃者に向けて拳銃を発射した。


 装甲車の機銃を操作していたのは羽生だった。羽生は頭部を撃たれ頭から血を流し動かなくなった。


「羽生!?羽生!?くそっ!!」

 丸田は無線に叫んだが応答がない。丸田は感情的になり、そのまま装甲車でロクを跳ねようとアクセルを踏む。

「死ねぇぇー!」


 ロクは微動だせず、運転席の丸田に向かって再度拳銃を発射した。


 ロクの銃撃で左胸の鎖骨近辺に銃弾を受ける丸田。丸田はその銃弾に思わずハンドルを切ってしまう。すると装甲車は大きく曲がり横転し、ヒデのサンドウルフを巻き込み荒野を激しく転がりだす。更にヒデが倒れていた箇所に突っ込んでいった。


 激しい横転で砂埃が荒野を漂う。徐々に砂埃が消え、横転した装甲車とそれに巻き込まれたサンドウルフの姿が月夜の荒野に現れてきた。


ロクは一歩も動く事はなかったが、やがて静かになった荒野を装甲車に向かってゆっくり歩きだした。途中には機銃だった者か、一人荒野に投げ出されているのが分かった。近寄ると目を見開き死んでいるのが分かった。

 

 ロクは徐々に装甲車に近寄る。装甲車横転しながらまだタイヤが回っている。すぐ側にあるヒデのサンドウルフもエアーブースターの装置なのか、微かな空気の流動音が聞こえていた。ロクは拳銃を構える事なく、装甲車の周りを調べ始めた。運転席には装甲車の運転手であろう、頭から血を流しピクリともしない。ロクは中の様子も伺ったが、気配がない。どうやらさっきの機銃の者と運転手だけらしいとロクは確信する。


 ロクは装甲車の反対側を調べ始めた。その時だった。

装甲車の車体に右腕を挟まれ身動きが取れないヒデの姿があった。すぐ側にはエアーの音がするサンドウルフがひっくり返っていた。


「ヒデ・・・」


 ヒデは苦痛の表情で必死に右腕を抜こうとしているが、装甲車の重さにどうする事も出来ない。やがてロクの姿を見つける。


「てめぇ・・・」とヒデ。


 ヒデはロクの顔を見るなり苦痛の表情を隠してしまった。彼なりの最後抵抗だったかもしれない。ヒデはロクを黙って睨んだ。


「助けねぇよな?」とヒデはロクに語った。


「助けて欲しいか?」

「いや・・・せめて最後の介錯しろや!」とヒデ。


「プロジェクトソルジャー第八条・・・ソルジャーは最後まで作戦を諦めない・・・」


「ふん・・・今更・・・何がプロジェクトソルジャーだ・・・?」


 ロクはそんなヒデに愛想がついたのか、ジャガーの停車した所まで戻って行った。するとジャガーのドアを開け、後部座席をゴソゴソと何かを探し始めた。

 ロクはある物を持って再びヒデの傍までやって来る。するとヒデの空いている左手の側に50センチ程のノコギリを放り投げた。驚くヒデ。


「何の真似だ!?こ、これで右腕を切り落とせって事か!?」

 ヒデは再びロクを睨みつける。


「お前・・・?マッドマックスって映画覚えてるか!?」とロク。

「・・・何・・・マックスだぁ!?」

 ヒデは正直思い出せなかった。


「お前の命令で高森教官の部屋に忍び込んで“色んな”ビデオを持ってくるように言われていた・・・」

「そうさ・・・お前は昔から使い走りだからな!」


「そんな中、妻子を殺された主人公が最後犯人を荒野に追い詰める映画だ・・・覚えてるか?」

「覚えてねぇ!」


「主人公は犯人と犯人の車を手錠で繋ぎ、何分後かに車を爆破する装置を付ける・・・」


「ああ・・・あの映画か・・・」

 ヒデはようやく思い出した様子だ。


「主人公は犯人にノコギリを渡し、手を切って時間内に脱出すれば助けてやると言った・・・」

「犯人はそんな事出来る訳ねぇだろ!・・・と叫んでたな?」とヒデ。


「だが確かお前は・・・自分なら切って逃げる・・・と言ってたはずだ。」

「・・・」ヒデは黙っていた。


「旧友を撃つ事はしたくない・・・だから・・・俺はお前の車を撃つ・・・」

「何っ!」

 ロクはすぐ側の反転したサンドウルフを見つめた。

「10分やる・・・そしたら追いかけない・・・いいなヒデ?」

「狂ってやがる・・・」とヒデ。

「ああ・・・そうだな・・・これで手榴の無念を晴らせる!」とロク。


「手榴の無念だと・・・?」とヒデ。

「気がつかなかったか?手榴はお前を想っていた・・・」

「ば、ばかな・・・??」

「お前を連れ戻しに行く際も、率先して名乗り出たのも手榴からだった・・・手榴もお前と逃げたかったかもしれない・・・?」

「な、なぜ俺と・・・?」驚くヒデ。

「戦いたくなかったんだ・・・誰ともな・・・」

「あいつが・・・?」

「一番戦争が嫌いだった・・・だからお前と逃げたかったのさ。戦闘のない楽園にな・・・」

「楽園だと・・・」

「だがそんな手榴もさっきの戦闘で・・・」怒りで握りこぶしを作るロク。

「あいつが・・・?死んだのか?」

「ああ・・・お前も手榴の所へ行け!俺が連れてってやる・・・」


「くそが・・・自ら死も選べねぇか・・・?」必死にもがいていたヒデは、やがて諦め夜空を見上げる。雲ひとつない夜空。無数の星がヒデとロクを照らす。

 ロクは一人ジャガーの方へ向かって歩き始めた。ヒデはそんなロクの背中に叫んだ。


「せめて放置しろ!虫たちに食われ、ウジ虫の餌になった方が楽だ!」とヒデ。

「ウジ虫か・・・そう言えばお前からよくウジ虫と呼ばれていたな・・・?」とロク。

 ロクの目はどこか狂気に満ちていた。ヒデはロクの目を見てそう感じた。奴は本当に車を撃って来る。そう確信した。

 ロクはヒデの方を向いていたがやがてまたジャガーに向かって歩き出した。


 暗闇の荒野にひとり置いていかれるヒデ。ヒデは懸命に右腕を引っ張りだそうとしてたり、装甲車を足で押してみたりするが、装甲車はビクともしない。下敷きになった腕が痺れ麻痺していくのが分かる。やがてヒデはロクが放り投げたノコギリを一度左手で持ってみるが、遠くへ放り投げ返してしまう。

「せめて・・・拳銃があれば・・・」

 ヒデの心の中には既に結末が見えていたのかもしれない。



 ロクはジャガーの車内にいた。既にガトリングバルカンを迫り出し、砲口をヒデのサンドウルフに標準を合わせていた。ロクは車内でヒデとの出会いの頃を思い出していた。


 訓練校時代のヒデはいつもたくさんの仲間に囲まれ、女性隊員からたちも人気があった。ロクたち3期生から見ると憧れの先輩だった。


仲間の信頼も厚く、実戦交じりの訓練ではいつも頼りになっていた。


 しかし、いつの頃からロクはヒデに殴られ続けるようになる。理由は特にない。目が合った。傍に寄った・・・なんて理由もあった。


標的はいつもロク一人だった。


拳銃を耳の側で発砲する事もある。訓練校の裏に4、5人で呼び出されてはいつも殴れていた。子供の頃の二歳差は大きく、ロクはただ殴られ続ける日々が続く。ロクにとって毎日が地獄だった。


 ロクにとってヒデを超えることが唯一の救いだったのだ。



 それを実力で勝ち取ったのは12歳になったロクだった。SCの運転技術でヒデを超えた頃、ロクはヒデの全てを奪ってしまったのかもしれない。ロクはそんな自分に後悔していた。


 そんな時、ヒデが訓練校から脱走した。しかも手榴を人質に取って・・・

しかしロクは仲間に向かって銃を構えれない。やっとの思いで撃った銃弾は手榴に命中していた。ロクの中で何かが弾けてしまった。


 その後、ロクは6年も銃を人に向けれなくなっていた。


『失ったのはヒデだけではない・・・自分も何かを失った・・・』


 そう自分に言い聞かせると、ロクはガトリングバルカンのグリップを握り締め、親指を発射ボタンの上に置いた。ロクの指定した時間はとうに過ぎていた。


「ヒデ・・・」


 キーンがさっき亡くなった際、自分に言った言葉が頭を過ぎる。


『どうして俺らは・・・戦わなければならなかったのかな?』


 ロクは何故か悲しくなり車内で涙をこぼした。右手で握っていたハンドルに頭を強く打ち付けていた。


『死龍・・・俺の精一杯の手向けだ・・・』


 ロクは意を決して、ガトリングバルカンの発射ボタンを押した。

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