その29 ラスト・ゲーム
闇の荒野に響くエンジン音。ロクとヒデは同時にキーを回していた。観客は聖のみ。二人しか分からない6年目の決着戦だった・・・
「・・・ったく!狂ってやがる・・・」
ヒデは一人車内で呟く。
「しかし・・・あの頃と一緒だ・・・ふっ・・・馬鹿げてる・・・」
するとフロントガラスにロクの顔が投影される。ヒデは驚いた。
「な、なんだ・・・?」
『エアーブースターは勘で覚えるんだな?』とロク。
「こんなもん使わなくたって、マシンだけでお前に勝てるさ!」
『そうかな・・・?』余裕の笑みのロクの映像。
「で?どういうルールだ!?拳銃だけか?」
『そうだな・・・まあ少し走ろうや!』
「ちっ・・・」
ヒデは思わず舌打ちをする。ロクに主導権を握られ少しイラついていた。
するとジャガーが先に走れ出した。慌ててヒデも追いかける。2台はP6方向に向かっていた。
P6指令室。
「ん!?」柳沢が異変に気づく。
「おい!?ルナ!?ロクさん今何してるんだよ!?」と柳沢。
「何って・・・救助活動でしょ!?」とルナ。
「なんか友軍のSCと外走ってるんだけどな・・・?」
「そんなはずは・・・呼び出してみるわ・・・」
ジャガーとサンドウルフは夜の砂浜を猛スピードで併走している。波が砂浜に上がると大きな水飛沫をあげていた。 2台は時折激しくぶつかっては離れて走り続けた。
「雷獣とは・・・よく言ったもんだな!?連いて行くだけで一杯だ・・・なんてパワーだ・・・」
ヒデはそう言うとハンドルを思いっきり左に切り、車体を左脇のジャガーにぶつける。
横にいたロクもヒデの攻撃を避けることなく、右に接触させる。砂浜の先の海からはちょうど半月の月が昇り始めていた。
「そんなもんか!サンドウルフ!!」ロクが叫ぶ。
2台は時折火花を散らし内陸方面と戻ってきた。するとロクのフロントガラスにルナの顔が投影される。
『ロ、ロクさん・・・?どうしましたか?』
「お、俺を・・・外でロクと呼ぶな・・・!」
『し、失礼しました・・・』
ルナはロクの言葉に無線を躊躇しようとした。
『あ、あの・・・?艦隊司令・・・今何を・・・?』
「後で報告する!俺の最高の時間だ・・・邪魔すんなっ!!」
『ひ、ひ、ひゃい(はい)・・・』
ロクはルナの顔を一度も見ることもなく無線を切る。すると次に投影されたのはヒデの顔だった。
『随分余裕じゃねぇか!?ロク!?戦闘中にデートでも申し込んでんのか!?』
「ああ・・・悪いかよ!?」
ロクは再びヒデのSCに体当たりをかける。
P6指令室。半べそのルナに柳沢が問う。
「何だって?」
「お、怒られた・・・何にもしてないのに・・・」とルナ。
「はぁ??」と柳沢。
月夜の荒野。2台は全速力で併走し火花すら出すほど激しく接触する。互いのドアは激しく損傷している。ヒデもだいぶ勘が戻ってきたのか、ロクのジャガーを圧倒する場面が続く。
「ロク!?」叫ぶヒデ。
『なんだ!?』と無線のロク。
「馬鹿みたいに飛ばすからバッテリーも半分になったぞ・・・」
『そろそろ・・・・・・やりますか?』
「ならデットレースだ!」
互いにスピードを下げる2台。するとロクのジャガーはその場に停車してしまう。ヒデはそのまま走り抜けてその先でUターンして来た。互いに向かい合う2台。ヒデのSCもジャガーの正面で停止した。
『デットレースか?懐かしいな・・・』とヒデ。
「いい演出だろ?」
『そう言えばお前はこれで俺に勝った事がなかったな?』
「もう逃げやしないぞ!」
『それはどうかな?お前は逃げてばかりじゃないか!?』
「もう逃げやしない・・・」ロクは自分に言い聞かせた。
互いにアクセルを空ぶかしする。爆音が暗い荒野に響く。
「お前は逃げるさ・・・」とヒデ。
『前のマシーンならな・・・今ではこっちの車高が低い。パワーも上だ!』と無線のロク。
「所詮はマシーンの力か!?魂で来い!!ロク!!」
『ああ・・・!』
ロクはハンドルを強く握り締める。正面を向きヒデのサンドウルフを睨む。ロクはギアを入れるとアクセルを踏み始める。ヒデもロクに向かって走り始めた。
『お前はいつも逃げるさ・・・』とヒデ。
「逃げるかっ!」とロク。
2台は互いに正面から突き進んだ。譲らない2台。既に距離は互いの顔が見える位置まで来ていた。
「逃げるさ・・・」とヒデ。
「もう逃げない!」とロク。
2台は激突寸前だった。しかし先にハンドルを切ったのはヒデのSCだった。ヒデのSCは車高の低いジャガーに乗り上げ、空中に舞い上がった。
ヒデのSCは2、3回空で横転すると、闇の荒野に逆さに叩きつけられた。
ロクのジャガーはフロントガラスにひびが入り視界が悪くなった程度だった。ロクはSCをUターンさせると、ヒデのSCの近くに停車した。ロクは拳銃を下に構えながらジャガーから出てくる。ロクは辺りを警戒しながらヒデのサンドウルフに近寄った。
次の瞬間、別方向から銃声が聞こえロクはその銃弾に倒れた。撃たれたのはロクの心臓部分だった。ロクは荒野に倒れたまま微動だにしない。
銃声の暗闇方向から姿を現したのはヒデだった。ヒデは表情が険しく、足を引き摺ってロクに近寄った。
「即死か・・・?だからおめぇは詰めが甘いんだよ・・・」と息の荒いヒデ。
ヒデが安堵し拳銃を下ろした時だった。銃声が響き、ヒデの右肩に銃弾が撃ち込まれる。ヒデは拳銃を離してしまい、後方へと倒れてしまう。ヒデは倒れながらロクの方向を見ると、ロクが倒れながら拳銃を構えていた。
「ば、ばかな・・・心臓を撃ったはず・・・」驚くヒデ。
ロクは立ち上ると、拳銃を構えながらヒデに近寄った。ロクは息一つ乱れてない。ヒデはそんなロクを見上げていた。
「なぜだ・・・弾は当たったはずだ・・・??」とヒデ。
するとロクはポンチョコートの中から白い一丁の銃を取り出した。するとワイルドマーガレットのグリップの所に銃弾が一発突き刺さっている。
「これがなかったら死んでいた・・・」とロク。ロクは改めてヒデに狙いを付ける。
「ふん・・・昔から悪運だけはいいな・・・?殺れ・・・」
ヒデは目を瞑った。
すると次の瞬間、暗闇からライトが見え、ヒデが前に乗っていた装甲車が二人の前に現れた。
「ヒデぇ!」丸田は叫んだ。