その27 戦争の理由
スコーピオ空母ブリッチ。
「左舷!敵補給艦!突っ込んで来ます!」
「何だと!?」とツヨシ!
ツヨシがブリッチの窓を覗くと、猛スピードで荒野を走る虹の三角の姿がある。
「は、発射を急がせろ!!左舷高角砲てぇー!!」と焦るツヨシ。
するとツヨシは後方のドアの方へ歩きだした。
「両角!?後は任せるぞ!」とツヨシ。
「はぁ・・・どちらへ・・・?」と両角。
ツヨシは無言でブリッチを出て行ってしまう。
死龍の乗る虹はスピードを上げ丘を登り始めたが、敵の高角砲を何発か被弾して火達磨と化していた。死龍の乗るコクピットも機器系統がショートし火花を出し始める。
「まだまだー!!」叫ぶ死龍。
P6指令室。弘士がこの様子をモニターで見ている。
「死龍・・・」
2時間程前。死龍が突然指令室に現れた時だった。
「死龍・・・」と弘士。
「司令・・・」
死龍は既に何かが壊れていたのだろう。弘士は死龍の目を見て直感した。
「もうミュウとして末期のようです・・・このままベットで死ねません・・・」
「その体でどうするつもりだ?戦場に出ると言うのか?」弘士は問う。
「戦場で死にたいんです・・・ミュウで死ぬんじゃない・・・ソルジャーとして死を与えてください・・・」
何かに耐えているのだろう。死龍の言葉に既に力はなかった。
「言って聞かせても無駄なようだな・・・?」
「はい・・・」
死龍は弘士だけを見ている。恐らく駄目だと言えば死龍はここで自害するだろう・・・弘士はそう感じた。
「行け・・・虹の三角は既に整備が終わってるようだ・・・」
「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」
死龍は一礼すると指令室を出て行った。
P6指令室。弘士は中央のスクリーンの虹に向かって敬礼をする。
「死龍・・・」
虹の三角は丘を登り、敵シップ左舷に躍り出ていた。既に砲撃を所々浴び、動くのも奇跡だった。
死龍はコクピットでハンドルを握りながら笑みすら浮かべている。
「みんな?・・・今・・・みんなのとこに行くよ・・・」
すると虹は空母側の左舷に頭から突っ込んでいた。その衝撃で虹のコクピットはめちゃくちゃに破壊される。
スコーピオの艦首はその衝撃で本来の目標である、街中心部分から大きく外れてしまう。
死龍は立ち上がり何かの装置を押そうとしていた。
「これが・・・ポリスの・・・切り札よ・・・」
虹の先頭部分から閃光が発射され、空母右舷のブリッチ下付近に貫いた。次の瞬間、虹とスコーピオは大爆発し巨大な黒煙に包まれる。
レヴィア1番艦ブリッチ。
「死龍!!」
ロクは思わず叫んだ。この日一番の大声だった。ロクはブリッチのタラップを急いで駆け下りると、甲板から下の車庫に伸びるラッタル(急勾配の階段)を駆け下りていた。
ロクはそのままジャガーに乗り込むと、傍に居た兵に車庫の扉を開けるように命ずる。ジャガーはレヴィアが動いているにも関わらず、夕焼けの荒野に走り出していた。コクピットのロクの目には薄っすらと涙が見える。
「馬鹿野郎・・・馬鹿野郎・・・」
ロクは誰もいない車内で呟いている。
ジャガーは丘の上、虹が爆発した箇所にいた。まず目に入ったのは敵空母部分、そして木端微塵になった虹だった。「これはさすがの死龍も・・・」すると次に目に入ったのは、レヴィア6番艦の艦橋部分だった。横に倒れていたが、まだ原型がある艦橋部分にロクは微かな希望を持てた。
「ひょっとしてキーンは生きてるかもしれない・・・」
ロクは車を止め、拳銃を下に構えながら急ぎブリッチの入口を捜した。脇にラッタルが見える。ロクはそこによじ登ると、ブリッチを目指した。
ロクはブリッチに入った。車椅子を見つけたが、キーンの姿はない。
「まさか艦内本体の方か・・・?」
そう思ってブリッチを出ようとした時だった。崩れた天井に下敷きになった足を見つける。
「キーン!?」
ロクは慌てて近寄り、天井を払い除ける。そこには血だらけのキーンがいた。微かに息がある。
「しっかりしろ!キーン!!」
キーンを抱きかかえるロク。するとキーンはロクの声に反応して、目を開けて見せた。
「ロ・・・ロクか・・・?」
ロクは慌ててインカムの無線を口に持っていく。
「桜井!6番艦ブリッチに生存者あり!至急救護班を・・・」
するとキーンはロクの無線を手で制止した。
「どうした?」とロク。
「腹をやられた・・・もう助からない・・・」とキーン。
ロクはキーンの腹部の制服を捲り上げる。腹は縦に15センチ程切れ、大量の血と腸までもが出ているのが分かる。
「くっ・・・」ロクは絶句した。
「なあ・・・?無理だろ・・・?」
キーンはロクに心配掛けまいと気丈に笑ってみせた。
「キーン・・・」ロクの目には涙が溢れ始める。
「ロク・・・どうして俺らは・・・戦わなければならなかったのかな?」とキーン。
「さあな・・・」
「でも・・・これでやっとみんなの所へ・・・」キーンはじっと天井を見つめる。
「馬鹿言うな・・・」
「敵は・・・?」
「ああ・・・死龍がやった・・・」
「無線聞いてた・・・ヤマトは受けたよ・・・それで死龍は?」
「・・・ああ・・・無事だ・・・」
「そうか・・・俺が死んだら・・・死龍に四天王を・・・戻ってきてもらえ・・・」
「馬鹿言うな・・・今、人が来る。助かる!」
「陽でもいいな・・・あいつは昔の死龍に似ている・・・」
「ああ、そうだな・・・」
ロクは堪えられなくなり、涙が流れ始める。
「泣くな・・・ロク・・・人間いつかは死ぬ・・・早いか遅いかだけだ・・・」
「キーン・・・」
「俺のソードライフルはお前に・・・拳銃は・・・松井にやってくれないか・・・?」
「わかった・・・もうしゃべるな・・・」
「お前と戦えた事を・・・誇りに思う・・・」
するとキーンは握っていたロクの手を離し、眠るように目を閉じた。
「キーン・・・キーン!!」
ロクはキーンの遺体を抱き締めながら号泣した。
外の太陽は西に沈み始めていた。 誰もこの戦争の理由は知らなかった。