その20 罠に落ちた鯨
P6指令室。柳沢が敵シップの異変に気づいた。
「敵シップ!進路変更!お、丘を登る様子です!」
「丘だと!?」弘士が叫んだ。戸惑う司令室内。誰もが敵の行動を読んでいなかったのだ。
レヴィア1番艦ブリッチ。それはロクも同じだった。
「敵シップ丘を登ってます!」と国友。
「丘だと!?」とロクは慌てた。
ロクたちは丘の東南にいる。ほぼ敵シップとP6の直線上だ。このまま敵シップが丘を登ってしまうと、街全体はおろか自分たちの頭まで押さえられてしまう。まして標高50メートル弱。こちらの下から攻撃は敵主砲などに通用しなくなってしまう・・・
しかし航行によっては荒野の段差により、航行不能に追い込まれる危機がある。それは大きな船の致命的な弱点でもあった。
「その危険を知っててなぜ?」ロクはこの敵の作戦に何かあると感じていた。
ロクはすぐ頭の中で作戦を練り直していた。
「ロクさん!このままでは頭を押さえられてしまいます!」
桜井も叫ぶ。どうやら同じ考えのようだが、結論は互いに出てない様子。ロクは必死に考えた。
「国友!後どのくらいで奴は着くんだ?」とロク。
「約15分です!」
「敵のエアーブースターくらいは止めてみせる!このまま我隊も丘を目指す!桜井!艦隊全速前進!」
「了解!」と桜井。
スコーピオブリッチ。ツヨシはあるメカニックに後ろから唐突に声を掛けた。
「撃てるのかい!?」
「は、はい・・・充電は十分かと!前も説明しましたが、艦首だけは正面を向けてください。角度は調節出来ます!発射時は強烈な閃光になります。各員及びSC隊はサングラス着用をお願いします。」
「甲板に迫り出すのは、最後だ!撃つ直前に出す!砲撃でもされたら事だ!」とツヨシ。
「ははっ!」
「うん・・・面白くなってきたな・・・モ・ロ・ズ・ミ!ここは任せるぞ!」と部屋を出ようとするツヨシ。
「ツヨシ様?どちらへ?」
「戦艦側の艦橋に行く!せっかくだP6とやらを高見の見物といく!」
「しかし、敵左舷の艦隊と砲撃戦となりましょう・・・危のうございます!」
「前も言ったな、俺は“現場”で“現物”を“現実”に捉えると・・・」
「はあ・・・しかし・・・」
「ここは任す・・・」言葉少なくブリッチを出て行くツヨシ。
ポリス北ゲート見張り台。敵シップ接近につき砂塵の量は増え、1キロ先も見えない状態になっている。
「くそっ!これじゃ何も見えねぇと同じだ!!」
見張り台の兵の一人が叫んだ。P6は更に深い砂塵に飲み込まれていく。真上にあった太陽さえも見えないくらいに砂塵が舞い上がる。
その頃、ダブル率いる山猫隊は敵の第一次SC隊を全滅に追い込んでいた。
「どう思うキーン?」
ダブルはキーンに無線を飛ばしていた。
『どうって?どうなの?こっちが知りたいな・・・?』と無線のキーン。
「いくらなんでも武器も持たず敵に突っ込んで来ますかって?」
『無謀だな・・・』
「タケシと比べたら失礼なんだろうけど・・・弱くねぇか?」
『さあな・・・なんだ?お前が強いって言って欲しいのかい?』
「おいおい、キーンさんよ!指令室のルナに聞こえちまうじゃないか・・・おいおい・・・」
自分の隊を無傷で敵を殲滅したダブルは有頂天だった。
『しかしだな・・・敵SCの何台かはえらく爆発してなかったか?』とキーン。
「確かに・・・それは驚いた・・・おっ!敵二次隊到着!ちょっと行って来ますよ!」
ダブルは視界に入った敵SC隊に再びハンドルを切った。
『気をつけろよ!ダブル!』
「あいよ!!」
レヴィア1番艦ブリッチ。外の砂塵はさっきよりも濃くなっている。
「山猫隊、敵の第二次部隊と接触!」と国友。
「桜井?どう思う?」とロク。
「何がですか?」
「敵のSC隊だ・・・やけにあっさりしてないか?」
「どこぞやのお方が“雷獣”なんて呼ばれだして、P6も恐れられた・・・って証拠じゃないですか?」
桜井は少し嫌味気味にロクに返答する。
「だといいが・・・」
ロクは敵の行動に不信を抱いていた。そんな不信感を桜井にでもぶつけるしかなかったのだ。
レヴィア6番艦ブリッチ。
「間もなく敵シップ、丘の上に到着します。」とレーダー員。
「よし!迎え撃つぞ!第二艦隊、横一文字隊形で丘へ全速前進!」
「了解!」と白井艦長。
第二艦隊の5隻は前方の山猫隊と敵SC隊の戦闘を横目に丘へ進もうとしていた時だった。
キーンの乗る6番艦の艦首部分が巨大な黒煙とともに爆発してしまう。ブリッチはあまりの衝撃で立っていたキーンは倒れてしまった。
「何だ?この爆発は!?」
それはキーンの乗る6番艦だけではなかった。艦隊の先頭だった8番艦、そして最左翼にいた10番艦も同じ爆発が起きる。
「本艦の右艦首爆発!」
「エアーブースター緊急停止!」
「右舷魚雷発射口大破!」
「我艦だけではありません。8番、10番も被弾しました。」
「攻撃されたのか!?」焦るキーン。
すると続いて左隣にいた7番艦も爆発にあう。
「7番艦被弾!」
「艦隊を停止させろ!」
キーンが第二艦隊の停止を命じた。
P6指令室。第二艦隊が被弾した映像が中央スクリーンによって映し出された。5隻中4隻のレヴィアが艦首部分から黒煙を発している。
「キーンさん・・・」
心配そうな松井。弘士も曽根も心配そうにスクリーンを見つめる。
「柳沢!?何が爆発した!?」
「爆発したのは・・・て、敵が残して行ったSCの残骸です!」
「な、何だと!?」
レヴィア6番艦ブリッチは様々な情報が入り混じり混乱していた。
「わかるように説明しろ!」とキーン。
「ですから爆発物は敵が残して行ったSCの残骸が・・・」とあるクルー。
「だから!なぜ無人のSCの残骸がなぜ爆発したんだ?タイマーでも仕掛けてのか!?」
「タイミング的には不可能かと・・・」
「遠隔操作・・・」と白井が助言を入れた。
「遠隔操作・・・ま、まさか敵はそれまでも計算して爆薬入りのSCを乗り捨てていたのか?」キーンは蒼くなっていた。
よく見ると第二艦隊の進路方向に20台近いSCが乗り捨ててある。
「と、とにかく航行は出来るんだな?」とキーン。
「はいエアーブースターの1機が緊急停止しただけです。走れます!」と白井。
「すぐ後退して迂回する。敵はもうすぐ来るんだぞ!白井!?」
「了解です!艦を一時後退させます!」
5隻の艦は、前進が不可能なのを知ると艦隊全部を後退させた。レヴィアのブースターでこの辺りも砂塵が舞う。
しかし再び悲劇は起きる。
後退していたレヴィア後方から爆発が起きた。驚くキーンや白井。
「ば、爆発・・・今度は何だ!?」とキーン。
「地雷です!地雷が後方に撒かれています!」
「じ、地雷だと・・・」焦るキーン。
キーン率いるレヴィア第二艦隊は、敵到着目前に完全に進退が窮まってしまった・・・
スコーピオン戦艦側ブリッチ。
「敵艦隊完全に制止しました!」兵が叫ぶ。
「罠に掛かった鯨が5頭・・・」ツヨシが不敵に笑う。