その19 キーンの不安
P6指令室。柳澤がレーダーに影を見つけ弘士に叫んだ。
「敵シップ捕らえました!北およそ10キロ速度15キロ!」
「警戒レベルMAXだ!レヴィア艦隊は左右に展開。山猫、アシカム出撃!」
「了解!」
司令室内が一気に慌しくなった。
バズーのアシカム。
「了解!北ゲート開けてくれ!」
ダブルは慌ててジャガーストームに乗り込む。
「よし!全車出るぞ!遅れるなよ!」
80台近いポリスのSC隊が北ゲートを出て行く。
レヴィア6番艦ブリッチ。キーンの席に松井から無線が入っていた。
『第二艦隊は左翼をお願いします!』と松井。
「了解!ロクが右翼か・・・」
『気をつけて下さい・・・キーンさん・・・』
「敵の戦艦の構造から言えば物足りないがな・・・」
『どう言う事です?』
「敵戦艦の左半分は戦艦・・・どうしてもロクの方が標的になる・・・」
『ロクさんの事です。それも計算済みですよ・・・』
「まあこっちは、不慣れなクルーが多い・・・逆に助かるよ・・・」
『そうですね。ではお願いします!』
「場合によっては砂塵を避けて更に西に移動するつもりだ!そう司令に伝えてくれ!」
『了解です!』
無線が切れるとキーンは白井艦長に指示を飛ばす。
「白井艦長!艦隊を更に西500メートル移動!」
「てっきり砂塵に入ると思われましたが・・・?」
「視界がきかないのにか?不慣れなこっちは中に入れば不利だな・・・せめてロク隊の餌にでもなるのが第二艦隊の使命じゃないか?どうだ白井艦長?」
「確かにそれも作戦ですが・・・こちらには切り札が・・・?」
「それは場合によってだ・・・」
スコーピオブリッチ。ツヨシの周りも慌しくなっていた。
「敵艦隊はポリスを中心に左右に展開し・・・」
「数は10隻!」
「敵SC隊!ポリスを出ています!」
「右5隻はデータにありません!」
様々な情報が入ってくる中、ツヨシは一人立ち尽くしていた。窓から見える風景は砂塵で何も見えず、真上に登った太陽の光さえも砂塵で覆いつくされていた。
「主砲用意!」両角が黙るツヨシに変わって指揮を取っていた。
「こちらのデータでは海竜は4隻のはず・・・6隻多いぞ両角!ポリスめまだまだ笑わしてくれそうだな!?」とツヨシ。
左側が戦艦になるスコーピオの主砲3門が動き始める。
ポリス北ブロック見張り台。敵シップが舞い上げた砂塵が風に乗り、北ブロックに到着しつつあった。徐々に視界が奪われていくP6の街。
その頃、レヴィア第一艦隊は既に砂塵の中にスッポリ隠れていた。レヴィア1番艦ブリッチ。
「風速は10から12メートル!やませの季節風にしては強風ですね!」と国友。
「国友!視界が利かない今、お前と多聞が頼りだぞ!しっかり頼むぞ!」ロクが国友を励ます。
「了解!」
スコーピオブリッチ。ツヨシがブリッチ中央に仁王立ちしている。
「両角!」ツヨシが叫ぶ。
「はっ!」
「先発隊30台を前に押し出せ!」
「了解しました!」
「この砂塵どっちに味方してくれるかな・・・?」
陽が最初に接触したジプシャン軍のSC隊30台近くが砂塵の中、P6目掛けて荒野を爆走する。
ダブルの山猫隊。
『敵SC隊30!北から接近!』とルナの声。
「了解!おいルナ?生きて帰ったらデートだぜ?」と、余裕のダブル。
『きゃー!どうしましょう・・・?考えときます!』
「約束だぞ・・・野郎ども行くぞ!全車ライト点灯!」
迎え撃つダブルのSC隊。
レヴィア1番艦ブリッチ。
「敵SC隊に山猫接近!間もなく接触します!」と国友。
「敵SCはどこに向かってる?」とロク。
「やや第二艦隊寄り!」
「ならこっちは移動だ!三島?艦隊を動かす。各艦に連絡!桜井?少しポリスから離れるぞ!」
「了解!」と桜井。
ロクの第一艦隊はポリスのやや西に艦隊を動かしていた。
スコーピオブリッチ。
「敵左翼の敵艦隊が後退してます!」と兵士。
「味方SC隊、敵SC隊と接触!何台かは右翼の敵艦隊に接触してます!」
「目的地まであと30分!」
「艦を止めろ!残りのSC隊も出す!」とツヨシ。
ツヨシの指示でスコーピオはP6目前で停止した。左右の側壁が開き、SCが飛び出してくる。
「左敵艦隊は我が後方に取り付こうとしているな?砲撃が不慣れな証拠だ!全SC隊を出せ!すぐここを出発する!」
P6指令室。
「敵シップ停止!SCを出しています!」と柳沢。
「なぜだ・・・この砂塵の中・・・なぜSCで不利な戦いをする?」
弘士はある不安を感じていた。
「砂塵の中の味方に当てるなよ!」
レヴィア第二艦隊。レヴィア6番艦ブリッチ。まだこの辺りは砂塵の影響がない。キーンは杖を使いながら自分の席を立ち上がった。
「寄って来るSCは機銃で対応しろ!」とキーン。
「艦隊司令!敵SC隊の第二次部隊がこちらに接近!」と白井。
「なぜポリスに向かわない・・・今度の敵は慎重過ぎる・・・タケシとは違うタイプと言う事か・・・?」
キーンは敵の慎重過ぎる行動が気になっていた。
「通信兵!1番艦へ直通無線繋げ!」
キーンはロクに無線を繋ぐ。
「ロクか?」
『どうした?援軍要請か?』とロクの声。
「なぜ敵は街に行かない?」
『まずはこっちの船じゃないか?そっちはデーターにない。こっちはデータがある。まだ手探りなんだよ、向こうは・・・違うか?』
「そうだな・・・」
『タケシが倒れて、敵も慎重になってる。そう考えよう・・・俺らもこういう時は同じ行動を取るだろ?こっちも慎重に行く・・・』
「うん・・・わかった!」
『敵戦艦は丘の西側を通ってくるだろう。俺らは丘の東側に待機する。』
「わかった・・・俺たちが囮になる。後は任すぞ!」
『止めはそっちの一発なんちゃら砲ってので頼むぜ!』茶化すロク。
「ふふふ・・・了解!」
レヴィア1番艦ブリッチ。無線を切るロク。桜井はロクが誰から無線を取ったか気になった。
「誰からです?ホットライン・・・?」
「キーンだよ!初めての艦隊戦になる・・・無理もないさ・・・さて、そろそろ互いの射程距離になるが・・・各艦砲撃用意!目標敵シップ!多聞頼んだぜ!?」
『了解!』
ダブルの山猫隊は敵SCと接触する。しかし敵のSC隊はなぜか攻撃を仕掛けてこない。ダブルは車中からイライラし始める。
「どういう事だ!?奴等逃げてばかりだ!」
敵SC隊は山猫隊を無視すると、キーン率いるレヴィア第二艦隊の周りを走り出した。
「全車!レヴィア艦隊を援護する!続け!」
敵SC隊に再度接触を試みるダブルの山猫隊。
スコーピオブリッチ。ツヨシは味方のSC隊の活躍を確認すると席を立った。
「よし!丘を登るぞ!P6を見下ろしてやれ!」
スコーピオはP6が見下ろせる“あの”丘に進路を取った。
「さて御対面といくか・・・?」ツヨシは不敵に笑っていた。