その17 ミュウの最期
P6指令室。柳澤が異変に気づいた。
「敵シップ!進路を変更!海側に寄りつつあります!」
「海側?」
弘士は立ち上がり、柳澤にスクリーンの投影を命じた。
「少し前の映像です・・・まだレーダー範囲外なので何とも・・・」
確かに映像の砂塵は向かって右側に移行していた。
「我妻!黒豹を当てろ!」司令が叫ぶ。
「了解!」
「ジプシャンめ・・・やませの風を利用する気か・・・?」弘士は唇を噛み締めた。
スコーピオブリッチ。机に簡易な地図が置かれ、その周りにツヨシや両角、そして数名の兵が取り囲んでいた。両角が長い棒を持ち説明を始める。
「P6の北2キロに標高50メートル程の小高い丘があります。ここに艦を固定し、街に砲撃を仕掛けます。」
「その丘・・・この艦で上がれるのか?」とツヨシ。
「この艦の排出量で、この程度の丘なら問題ないかと・・・」
「大筒の射程距離は?」
「十分です!平地なら無理な地下への攻撃も、ここなら可能と思われます!」
「うん・・・なら中央道を南下・・・我が艦はこの丘から攻撃を開始せよ!」
レヴィア1番艦ブリッチ。ロクとルナが映像無線で話をしている。
『て、敵シップ・・・し、し、進路を変え・・・』
「落ち着けルナ・・・それで?」
『は、はい・・・だ、第一艦隊は北へ移動・・・迎撃体勢を取って欲しいとの事!』
「了解した・・・なら第二艦隊は敵の横腹って事だな?」
『と・・・思います・・・』
「街の避難は?」
『既に完了してますが?』
「街の守備隊全員にゴーグルを着装させろ!」
『と、言いますと・・・?』
「敵の船の輩出量からすると風を利用して風上に立ち、砂塵を舞い上がらせこの街の視界を奪う。恐らくP6は巨大な砂塵に包まれるはず!?」
『な、なるほど・・・り、了解です・・・司令に伝えます。』
無線が切れると、ロクは席から立ち上がった。
「さあて・・・行きますか・・・?桜井!頼む!」
面を食らう桜井。
「ロクさん・・・どちらへ・・・?」
「まだ敵到着まで時間あるだろ?偵察偵察・・・」
ロクはそう言うとブリッチの階段を下りていった。そんなロクを呆れ顔で見ている桜井たち。
「あの人にやっぱ船は合わないのかな・・・?」
その頃、レヴィア6番艦から8番艦がP6の南海岸付近に上陸し始めていた。1番艦から5番艦とは形も大きさもブリッチの構造も違く、潜水艦を逆さにしたその黒いボディは砂塵を舞い上がらせ、一路P6へと荒野を走り出していた
6番艦ブリッチのキーンは北側に見える巨大な砂塵を見て驚いていた。
「先日の敵シップよりも大きいな?」
すると艦長の白井がキーンに報告に来る。
「P4常中の戦艦と聞いています・・・右が空母、左が戦艦・・・全長は300メートルあるとも・・・」
「奇妙な形だな!?P4で遭遇した船か!?」
「ご存じですか?」と白井。
「因縁という奴だな・・・向こうも偵察は出してるはず!?これはここを通り過ぎるだけでは終わらないな・・・」
P6地下6階ポリス専用医務室。死龍がストレッチャーに乗せられ運ばれてくる。死龍は薄目を開け、体全身が痙攣を起こしている。
「静かに運んで!」
高田の合図でスタッフが死龍を手術台に移し変えた。
「全身麻酔を用意!!」
すると死龍が起き上がり、高田の白衣を掴んだ。
「せ、先生!正直に言って・・・あ、あとどのくらいまで持つの・・・?行かないといけないの・・・み、みんなが待っているのよ・・・」
「こ、この体でどこに行こうって言うの!?戦闘は無理よ!」
「せ、戦場よ!戦場に決まってるじゃない!」
「な、なぜ?」
「エレべーターで兵たちのイヤホンから流れていた・・・て、敵が来てるんでしょ?行かせて!」
高田は死龍の聴力に驚いていた。
『いや・・・ミュウだからか・・・?』
「死龍!落ち着け!」
死龍の手を振り切ろうとする高田。他のスタッフも死龍を必死に取り押さえようとする。
「分かるの・・・体が崩れていく感じが・・・もう最後なんでしょ?教えて・・・先生・・・?」
高田は死龍の死期迫る表情に覚えがあった。
高田はミュウで死ぬ者をたくさん見てきた・・・
吐血で始まり全身痙攣、そして死・・・ミュウとしての末期症状だった。ここまで来ると、ポリスにある薬品では痛みを堪えるのも不可能だった。
ある者は目が痛いと自分の眼球をエグり取り・・・
またある者は手の先の痛いと自分の指を食い千切り・・・
高田はその一人一人の答えてやれなかった若い頃の自分を思い出していた。
だから全身麻酔・・・それしか彼らの痛みを救う術はなかった。
しかし・・・
死龍は私の白衣を離そうとはしない・・・
末期なのは一目瞭然で、相当痛みを堪えているはずだ。なのに・・・
彼女は戦場で死にたがっている。
死龍の気持ちに答えられない自分が辛かった。
死龍は自分の顔を掻き毟ると、遂には自らマスクを剥ぎ取った。
「死龍・・・」
初めて見る手術後の死龍。手榴時代は何度か顔を見ていたものの、撃たれたと聞いた後の顔を見るのは初めてだった。
眼球がないのか、左目部分は陥没しており、目の辺りから左耳部分までたくさんの手術跡が見える。耳はかろうじて耳たぶ部分が付いている程度だった。
死龍は唸りながら高田を見つめていた。
「先生・・・・・・早く・・・・・・時間が・・・・・・」
高田はそんな死龍を見つめながら涙を流していた。
『伊達に女で初の四天王になった奴ではない・・・死龍は心底戦士なんだ・・・』
死龍の手榴時代から応援していた自分が居た。
年下だったがなぜか尊敬していた時もあった。
手榴が手柄を立てるとなぜか自分が褒められる気がしていた。
女性ながら戦場に立っている手榴が羨ましかった。
高田は決断した。
「鎮静剤を!」
高田を見つめるスタッフ。助手らしい女性が更に下のスタッフに声を掛ける。
「鎮静剤・・・50を!」
すると高田は追報した。
「いや120よ・・・」
全ての医療スタッフが高田を見つめ、手が止まった。
「しかし・・・その量は・・・?」スタッフが躊躇う。
「責任は・・・私が取る・・・」
その量は既に普通成人女性の量を遥かに超えていた。
「は、はい・・・」
スタッフの一人が注射針の量を増やし死龍の腕に注射針を差し込んだ。死龍の苦痛の表情が和らぐ。
「先生・・・ありがとう・・・」
死龍は涙を流しながら高田に感謝した。
「落ち着いたら・・・行きなさい・・・」死龍の目を見れない高田。
「はい・・・」
『こんな事しか出来ない・・・』
高田は悔やみ、一人手術室から去って行った。その目には涙で濡れていた。
すると死龍は無表情で手術台から起き上がると、不敵な笑みを浮かべて出口に向かって歩き出していた。