その16 救助信号
P6指令室。ルナの所に陽から無線が入る。
「こちら指令室ルナ。黒豹ヘッドどうぞ。」
ルナの機転で陽の映像は中央スクリーンに映し出された。
『こちら黒豹。敵は多数のSC隊を出撃させており・・・』
すると弘士が陽に答える。
「ならこっちだな?」
『恐らく・・・』
「で・・・?なんでお前は部下を先に帰して単独行動なんだ?」
『ちょっと前隊長みたいに挑発してやろうかと・・・うひっ!』
陽は余裕で司令に答えて見せた。指でVサインまで出す始末。
「あのな・・・ん?ロクが敵艦を挑発でもしたのか?・・・そんな報告は聞いてないぞ!?」
『あれ?報告してなかったんですか?先日、敵兵にタケシの首を取りに来いって・・・?』
陽はさすがにロクは報告はしていない事を知っていて、弘士に話を振った。
「ロクらしいな・・・P5へ向かわす敵シップをタケシの首で釣ったか・・・?」
陽は弘士が激怒するのを期待してたが、ロクの作戦を持ち上げる結果になったのが不満だった。
『ただ・・・気になることが・・・』
「どうした?」
『先日遭遇した際から比べると、何か敵艦の雰囲気が変わった気がします・・・』
「そうか・・・そのまま敵を監視!いいな!?」
『了解!』
スコーピオブリッチ。ツヨシが進行方向むかって左側の風景を見つめている。
「風が強くなった・・・北側?いや海側か?」
ツヨシの所に両角が近寄り、一緒に窓から外を見つめる。
「やませという風です。この季節、この辺りに吹く風と聞きます。」
「やませ・・・?よく吹くのか?」
「はい・・・強いものであれば砂嵐程度のものが・・・」
ツヨシは咄嗟に航海士に命令を下した。
「ポリス道を外れ、海側に進路を取るぞ!この風を利用する!」
レヴィア1番艦。ロクはブリッチの屋根に一人立っていた。敵シップが来る方向を見つめるのではなく、ロクも海からの風を感じていた。
「やませの風・・・?もうそんな季節か・・・?そんなに強い風でもないが・・・敵もこの風を利用してくる・・・」
ロクはブリッチの屋根から頭だけを開口部に突っ込み、ブリッチ内の桜井に指示を飛ばす。
「桜井!俺たちだけ北側にコースを変更する。」
突然のロクの声に、桜井はロクの居場所を捜した。ようやく逆さになったロクの顔を天井に見つける。
「あの・・・うちら“艦隊”なんですけどね・・・」
ロクの唐突の作戦に慣れてきたが、たまにロクの命令に不審を感じている・・・そんな言葉の意味を含んで桜井は答えた。
「なら他の艦にもそう伝えろ・・・取りあえずは北に艦首を向けておけ・・・」
ロクはそう言うと顔を引っ込めていた。
「はいはい・・・三島・・・頼む・・・」
「はあ・・・」
桜井は溜め息をひとつつくと舵を取り船を移動させていた。
「あなたの言葉には真実が見えないの・・・」
死龍の咄嗟の言葉に高田は反論すら出来なかった。
「どうしたの死龍?なにが嘘だって言うの?」
「分かるわ・・・分かるの・・・」
そう言うと死龍は突然吐血して跪いてしまう。慌てて高田が死龍に寄り添った。
「大丈夫?・・・急いで!医療室に運ぶわよ!」
高田は他の二人の兵に死龍を運ぶように指示した。両脇を抱えられ運ばれる死龍。その姿を高田は後ろから見つめていた。
「死龍・・・やはりあなたは・・・」
早坂が先程、死龍が確保された大掛かりな機関室にいた。彼は内線電話を発見すると、すぐその下の配線部分を引き千切ってはなにやら再び配線をし始めていた。
スコーピオブリッチ。ある通信兵か、ツヨシの元に黒のボードを持ってやってくる。
「ツヨシ様・・・ある短波無線をキャッチ。P6からと思われますが・・・」
「ほう・・・短波信号か?こちらが侵入させたスパイか?」
「いえ・・・救助信号です。途中で電源が切れた為、詳細不明ですが・・・最後に隊員コードまで入っており・・・認証したところタケシ隊二番隊長早坂と判明・・・」
「早坂?あの老兵早坂か?生きていたか?」両角が会話に入って来る。
「奴が生きていたか?先日の戦いでタケシと消息が分からなくなっていたはずだ・・・?するとなにかい?あのお兄様も生きているのかい?」
ふざけた口調でツヨシは兵を困らせた。
「北のゲート深くにいるとの事。それ以上は・・・」
「そう思う・・・両角?」
ツヨシは横にいた両角に薄目で合図を送った。
「はあ・・・敵の罠ですな・・・間違いないでしょう・・・」
「お言葉ですが・・・こちらの認識コードまで知っておりました。そのような事は・・・本人で間違いないかと・・・」
「しかし、救助といってもねぇ・・・なあ・・・両角?」
再びツヨシは薄目で両角に合図を送る。
「聞こえなかったのか?これは敵の罠だ!もし本当であっても味方一人・・・作戦に変更はない!」
両角は通信兵の意見を跳ね返していた。渋々自分の席に戻る兵士。するとツヨシは両角に耳打ちする。
「あの馬鹿が生きていたら事だな?も・ろ・ず・み・・・?」
「はあ・・・兵には口封じをさせておきます・・・」
「そうだよ・・・そうこないと・・・俺は兄殺しの汚名を被る・・・なあ両角?」
ツヨシは不敵に笑っている。
巨大空洞脇のダクトに座り込むヒデと聖。ヒデは聖の肩を抱きしめていた。するとそこに早坂がダクトの奥から戻ってくる。
「いたか?」とヒデが問う。
「いない・・・あの女・・・逃げやがったぞ!」
「この先はどうなっている?」
「何かの機関室に辿り着く・・・かなり大掛かりな機関室だ。あの女の足跡はあるドアで切れている。後はどの部屋も行き止まりだ。扉は何重にもロックされている・・・八方塞がりだ・・・」
「あんた頭の毛・・・」
ヒデが早坂の髪の毛を見ると、ヒデほどではないが白髪が増えている。
「なんだ俺もじじいの仲間入りか?」
「くっ・・・どうしてしまったのかな・・・?」
「ああ、救助は呼んでおいたぜ!」
落胆するヒデに向かって早坂が叫んだ。
「救援だと?」
「これでもメカニック出でな・・・敵の内線を利用して簡易短波無線を作り、救助信号を出した。」
「それで!?」
「さあな・・・こっちは受信が出来ないからな・・・届いて浜田基地まで・・・いまあるかどうか・・・まあ運がよければ味方に届く・・・出力もあるかどうか分からんしな・・・?」
「そうか・・・」
「ただヒデの勘は当たっていた・・・奴等がここに来ない理由・・・機関室の至る所にこれより先立ち入り禁止の看板。何重にも作られているだろう出入り口、ダクトの作り、また防護服着装順の看板・・・俺たちはポリスですら入ってはいけない所に入ってしまったようだぞ・・・」
すると聖が再び吐血をする。聖の背中を擦るヒデ。早坂は聖に難色な顔を見せていた。
「どうするんだ?そいつを連れていたら逃げるにも逃げれないぜ・・・」
「ならこの先は別行動だ・・・」
「正気か?」
「俺はこいつをどうしても連れ出す!」
「そうか・・・とは言え・・・出れる術がないんじゃなぁ・・・」
ジプシャン軍浜田基地。
半壊した基地横にはヒデと丸田が乗り回していた装甲車と数台のジープタイプのSCが止められていた。すると基地内から男数名が出てくる。丸田と羽生たちだ。
「なんでだ?ジプシャンはここを放棄したのか?」と丸田。
「食い物もSCもない・・・毛布くらい残して置けよ!!」
「ただ暫くはここにいるか?女子供はここに置く。雨風も凌げる。それとここならP6まで20分とかからねぇ!」
よく見ると装甲車の後部からは、子供や老人、女たちが外の様子を伺っていた。
「くそ!タケシが死んだら用済みかよ。ジプシャンの奴等、食いもんぐらい分けろよなぁ!?」
羽生が無造作に転がっていたヘルメットを遠くに蹴り上げていた。
「なあ?羽生?」
「なんだ?」
「ヒデは生きてるかな?」
「さあな・・・死んでいたらどうするんだ?」
「わからねぇ・・・」
二人はP6方面の海岸線を静かに見つめていた。