その13 陽、出撃す!
P6指令室。柳沢が敵サンドシップの進路を急ぎ計算をしている。
「妙だな・・・速度を落としたか?」
その声に弘士が柳沢を覗きに来る。
「進路はまだ分からないか?」
「はい・・・この分では、南下かこっちかはまだ・・・」と柳沢。
「通り過ぎてくれればいいが・・・ルナ?黒豹は?」
「新隊長は既にスタンバイしてますよん!」
「なら・・・行ってもらうか・・・?」と弘士。
北ゲート前。エスプリの車内でイライラしている陽の姿があった。
「遅いな・・・まだかよ?」
するとフロントガラスに山口の姿が映し出される。
『焦っても仕方ないです。じっくり腰を据えて・・・』
「う・る・さ・い!」
『へいへい・・・で?・・・ロクさんからの話ってなんだったんですか?』
「あっ!肝心な事聞いてないや・・・あのエロチビのせいで・・・」
『ダブルさん?聞いてたら怒りますよ・・・』
すると山口の映像が切れ、ルナに変わった。
『こちら指令室。黒豹聞こえますか?』
「待ってたわ!偵察ね?」
『はい!敵の足が遅くなりました。三方からの偵察をお願いします。』
「了解!北ゲート開けて頂戴!山口副隊?聞こえたわね?3番機はアキラでお願い。その他はここで待機よ。」
『了解!』
『了解。北ゲート開けます!』
すると陽の車に、音声だけの無線が入る。
『正面は、陽だな。左右は山口とアキラ・・・』
「ん・・・?誰・・・?ロクさん?」
無線の声はロクだった。陽は車の周りを見渡す。すると北ゲートの塀の上からロクとダブルとバズーが覗き込んでいた。
『左右なら奴等もすぐ逃げれる・・・それと・・・』
「あの・・・隊長は私です!!作戦は私が立てます!!」
『ああ、ごめんごめん!』
「・・・って、どうして3人がそこに?ヒデが逃げてるって聞きましたよ?」
『その捜索だ・・・』
「警戒レベルが上がります。そろそろ皆さんスタンバイして下さいね・・・敵は先日のサンドシップ・・・ロクさんが挑発するから・・・」
『へいへい・・・』
北ゲートが開き、陽らは車のギアを入れ始めた。
「さあ、みんな行きますよ!」
塀の上から陽の隊に敬礼するロクたち。
その頃、ヒデは空洞の底に辿り着いていた。底の部分は牙のような建物が空洞の壁部分に最も近づき、人が一人歩けるほどの幅になっていた。照明はわずか上部にあるだけで、かなり薄暗くなっている。ヒデは手探りながらその狭い部分をゆっくり歩き始めていた。
「なんだこの建物は・・・?なにか発光する機械そのもの・・・?入れる所もなさそうだ・・・しかし上に行くほど湾曲している。一体何に使うんだ?」
ヒデは薄暗い空洞の天井部分を見上げ、建物の周囲を回り始めた。
同じ頃、早坂は階段を昇り空洞の天井部分に到達していた。天井部分には手で回すようなハンドル付きのハッチがある。早坂は一度下を覗くと、あまりの高さに唾を飲み込んだ。
「なんて高さと深さだ・・・下は底すら見えない・・・目が眩む・・・」
早坂は片手でハッチのハンドルを回そうとするがびくともせず、恐る恐る両手を使って回そうとするが全く開く様子がない。
「くそっ!やはり非常口じゃないのかよ!開きやしない!ヒデの読み通りか・・・」
北ゲート外で、再び荒野を確認しているロクら3人。そこにルナから無線が入る。
『こちら指令室ルナ。ロクさん聞こえますか?』
「こちらロク。どうした?」
『間もなく警戒レベルを上げます。艦隊司令は1番艦にお戻り下さい。ダブルさんはSC隊を率いて東ブロックへ!バズーさんのアシカムは北ゲートへお願いします。』
「わかった!ヒデはどうするんだ?」
『守備隊が追ってます。大丈夫です、ここからは出れませんよ。』
「ならいいが・・・おいダブル?出撃準備だ!」
「ああ!」
ロクらは急ぎダブルとバズーを率いて、ゲート内に入って行く。
ダクト内の聖と死龍。聖がいきなり咳き込む。すると大量の血を吐いてしまう。慌てて聖の背中をさする死龍。
「大丈夫?」
「う、うん・・・」
「あいつら・・・戻って来ないわね?私も病み上がりなんでさすがにあなたを背負って上に戻れないわよ?どうする?」
「ヒデは戻って来るわ・・・」
「そうだといいけど・・・」
「戻るわよ・・・」
「でもこのままではあんたが・・・」
「気にしないで!」
P6から北へ35キロ地点のポリス道。陽のロータスが北へ向かっていた。陽は進行方向の砂塵が高く空に舞い上がっているのを確認した。
「凄い砂煙だ・・・やはり先日の・・・山口?アキラ?捕らえた?」
『いえ・・・敵もSC隊を出してる様子です。かなりの数です。』
「敵も臨戦態勢?ならP6に行くね?」
『通過する量ではない・・・という事ですか?』
「いいわ・・・後は私が・・・先に帰ってP6に報告して。」
『はあ・・・隊長は?』
「奴を確認するまで近づく。」
『平気ですか?我々も・・・』
「や・ま・ぐ・ち・・・命令が聞けない?」
『いえ・・・では先に戻ります・・・』
無線が切れ、陽は一人怒り始める。
「ったく!男って生き物は・・・女だからって舐めないでよね・・・」
陽は前方の砂塵に向かってアクセルを踏んでいた。