その13 姉弟
丸田とヒデは、タケシの言葉に驚愕した。なにせ目の前にある、2体の遺体はP5の四天王というのだから・・・
「こ、こいつらが、し、四天王かよ・・・?」
「まだガキじゃないか・・・?」
あまりにも傷ついた遺体だったが、よく見ると2体の遺体ともまだ顔は幼く、1体の方はまだ華奢な体つきなのに、ヒデも丸田も驚いた。その時、タケシはヒデらに近寄る。
「で・・・?姉貴、こいつらは誰なんだ?」
「志願兵だ・・・だが断った・・・」
「ふっ・・・なぜだ?」
「入隊に条件を出したんだがな・・・」
「どうせ、姉貴の事だ。無理難題を言ったんだろ?」
「ふふふ・・・P6の四天王の首さ!」妖しく笑う寛子。
「ふはっははっ!そりゃおもしれぇなっ!!」突然笑いだすタケシ。
笑っていたのは、タケシだけではなかった。タケシの後ろに控えていた嶋と石森もタケシと一緒に笑っていた。それを見ていたヒデは、跪いた格好から我慢できず、立ち上がろうとした。しかし、それを察した丸田が沈黙のままヒデを制止した。
「お前ら?俺らがこの2人を倒すのに、何人の部下の犠牲を出したと思う?50名じゃ済まなかったぞ!しかもP6の四天王は、P5より上だ!」
「どういう事だ、タケシ?」
「こいつらを始末する前に、嘘か本当か知らんがこう言ったのさ。P6の四天王は俺では倒せんと。最後に苦し紛れに言った話としてはよく出来てたぜ!」
「なんの話だ?」タケシに問う寛子。
「P6の四天王。こちらが掴んだ情報と交えて言う・・・一人は大男で格闘と爆弾の達人、素手でこいつに敵う奴はポリス広しと言えどいないと言う・・・もう一人は剣と狙撃の達人、バイクに乗ってはライダーたちを切りつけるまさに荒野の狩人・・・もう一人は機関銃とメカニックそしてSC戦闘の達人、機銃を二丁を操る名ドライバーだそうだ・・・」
ヒデの顔が一瞬強張った。
「最後が、ポリス最速の男、拳銃と戦略の達人らしい・・・しかし、この最後の男が厄介らしいぞ・・・」
「厄介だと?」寛子の顔が強張る。
「俺の部下も、北で何人か遭遇している。気づいたら後ろに付かれ、銃を撃つ前には抜きさられている。南に現れたと思うと、北に現れる神出鬼没・・・」
「ほう・・・」
「うちの部下たちは奴をこう呼んでいる・・・奴は“砂漠の雷獣”だと・・・」
「ライジュウ・・・?」
ヒデはあの車と確信していた。
「雷獣とは空想の生き物と言う意味だそうだ。雲と雲を渡り歩く疾風のような獣・・・空まで、飛んでたという報告まであるそうなので、そう呼ぶようになったとか・・・?今じゃ北では、奴の噂は一人歩きしている・・・」
「馬鹿な・・・空を飛ぶだと?」寛子が笑ってみせた。
タケシの言葉にヒデが口を開いた。
「もしかしたら、それは黄色と黒の斑の車では!?」
「そうだ。お前らもこいつに遭遇したか?」
「はい。昨日はそいつに仲間を殺され・・・今日は、35台のSCでそいつを挟み撃ちをしましたが、突破され・・・」
「そいつは話が違うな・・・」とタケシ。
「はぁ・・・?」
「俺が奴が厄介と言ったのは、こういう事だ・・・奴はなぜか殺しはしない・・・」
「ば、馬鹿な!?」驚くヒデ。
「余裕なのか、俺たちを弄んでいるのか定かではないが、奴は銃弾一発撃って来ないのだ!」
総帥が不敵に笑い出した。
「そいつ・・・おもしろいな・・・」
「逆にそれが兵たちを脅かしている。弄ばれたドライバーの中には精神的におかしくなった奴もいる・・・」
ヒデは思い出していた。リキが死んだときの事を・・・黄黒の車と接触したのは見ていた。その後、リキの車はハンドルを取られ、横転し炎上していたのだ。
『確かに・・・奴の攻撃には銃撃はなかった・・・』
「先日も、死神の隊が80台を持って奴を囲んだが、捕らえる事も出来ない・・・そんなP6の四天王だ。お前ら素人では到底無理な話だな・・・」
「奴が・・・四天王か・・・?」ヒデは驚愕した。
「しかし一度くらいは、そんな馬鹿と手合わせしてみたいもんだ。最近の敵は柔な奴ばかりだしな・・・」
その言葉に、女総帥が怒り始める。
「タケシ!P6は最後だ!父の遺言を忘れたか!?」
「分かってるさ・・・奴らに・・・P6に・・・最後までプレッシャーを掛けて滅ぼす・・・」
「なら、まずP5を陥落してからだ。P6はそれからでも遅くないはず・・・」
「分かってるぜ姉貴。しかしだな・・・こうもそいつに暴れられると後ろが気になってな・・・」
その時、ヒデたちが入って来たほうの後方の通路から、一人の兵が慌てて入って来て土井の側に近寄った。
「入ります。偵察からの連絡で・・・・・それが・・・」
「どうした?続けろ?」兵の言葉に何か気づく寛子。
「はい・・・しかし・・・」
兵はちらりとタケシの様子を伺い発言を躊躇する。
「大場の話なら、構わんぞ!」タケシが雰囲気を察する。
「は、はい・・・追手の者は失敗し不明。大場家族は全員P6に保護された様子です!」
「ふん・・・仕方ないな・・・」顔色が変わる寛子。
「なら、俺が連れ戻す!」その話にタケシが割り込んだ。
「街の中には侵入は出来る。しかし、今のポリスの内部の侵入は不可能に近い!ポリス内部に潜入させた者に大場を殺らせるよう手配する!」
タケシはヒデを指差す。
「くっ・・・おい、お前!」
「は、はい!」驚くヒデ。
「P6まで案内しろ!」
「はい!?」
「タケシ!命令を無視するのか!?」剣幕を立てる寛子。
「P6を陥落しなければいいんだろ!?」
「止めるんだ!大場はこちらで手を打つ!」
「奴は俺を育ててくれた師だ。恩人だ。自分自身で決着つけたい。たとえ殺すんであってもな。それが礼儀だろ?」
「バカな・・・」
「姉貴、本気でP6に入れるとは思えないだろ。偵察だよ、偵察・・・偵察するだけだ。」
「勝手にしろ!」
「なら、こいつらは二人は、俺らが貰うぜ。おいついて来い。」
「はい・・・」
タケシは、ヒデと丸田、そして嶋と石森を連れ出し部屋を出て行った。
「大丈夫でしょうか?タケシさまの力ならP6など問題ではないのでしょうか?」タケシらの行動が気にかかる犬飼。
「知るか!?・・・犬飼!奴に連絡を取れ!」
「はぁ!?奴と言いますと?」
「ポリス内部から大場を暗殺する!このまま奴を生かしてはならん!」
「はっ!」
「あの女に・・・連絡を取れ・・・」唇を噛み締める寛子。