その9 地下研究室
P6指令室。何かの警報が室内に鳴り響く。
「何の警報だ?」弘士が叫ぶ。
「地下6階の独房からです・・・収監中のヒデが人質を取って立て篭もったと・・・」とルナ。
「何だと!?」
「人質は医務班の高田主任です!」
「ダブルを向かわせろ?ロクもいたな?場合によってはヒデの射殺も構わん!逃走を図られんように全エレベーター停止だ!」
「はい!」
「・・・高田め・・・しくじったな・・・」弘士は唇を噛み締めた。
ヒデは高田を羽交い絞めにしながら、独房から出てきた。高田も必死に抵抗する。するとヒデの独房の3つ隣から声が聞こえる。よく見るとタケシ隊の早坂隊長が、鉄格子の窓から叫んでいた。
「手伝うかい?ヒデ?」と早坂。
「ああ・・・」
ポリス兵たちも続々と独房前に集まり始めていた。ヒデは高田の首に掛けてあったIDカードを引き契ると、早坂の独房前まで高田を引き摺った。
「私はいい!構わず撃ちなさい!」
高田は自分のミスで引き起こした現状を打破しようと、兵たちに発砲を命令した。しかし若い兵らは銃を構えるだけで、撃とうとはしなかった。
「何してる!撃ちなさい!」
ヒデは高田のIDを使うと、早坂の独房を開けてしまった。
「甘いんだよ・・・ポリスは・・・奴と同じさ!」
すると、待ちかねたように早坂が独房から出てくる。
「どうする、ヒデ?」
早坂は慌てた様子で、ヒデの影に隠れた。
「逃げるさ・・・銃殺はごめんだ・・・」
「ここからは逃げるなんて無理よ。既にこの階は封鎖されたわ!」と高田。
「なら潜るだけだ・・・聖はどこだ!?」
「なに・・・?」顔をしかめる早坂。
「逃走方向に逃げるバカがどこにいるんだ?」
P6指令室。
「Nブロックは封鎖しろ!奴を地上に出すなよ!」
弘士が指揮を振るう中、ダブルが入ってくる。
「司令!」
「すまん・・・ヒデが脱走を図っている・・・」
「捕まえるんですか!?」
「最悪の場合、このまま刑を執行してくれ・・・」
「分かりました!」
高田とヒデと早坂が緊急用エレベーターで地下に向かっていた。高田はそれでも必死に抵抗する。
「ふん・・・施設中の守備隊は、若い兵ばかりで銃も撃てねぇ・・・今のポリスの現状は酷いもんだな?先生?」
「聖を連れ去る気?」
「ああ、惚れてたんでね・・・」
「なら逢わない方がいいわ・・・」
「ど、どういう事だ!?」
ヒデは高田の言葉に逆上した。
「せめてここに居させて、楽に死なせなさい!」
「バカな・・・10日前には元気だったはずだ。」
「女性がミュウに犯されると、病状は早い・・・特にあの子の場合は異常なくらい・・・連れ出すなんて土台無理よ!」
「そんな脅し、俺には効かないぜ・・・」
「彼女を見れば分かるわ・・・」
「ふん・・・」
地下6階のエレベーターの扉が開くと、バズーと兵士ら5人が待ち構えていた。
「ちぃ!ここもか・・・」
ヒデは高田を盾にすると、早坂とエレベーターから降りてきた。
「観念しろヒデ!どこにも逃げれないぞ!」とバズー。
「あの男・・・石森をやった男か?」
早坂はバズーの顔を見るなり、バズーを睨んだ。
「通せ!この女を殺す!」とヒデ。
ヒデは再度、高田の首元に自分の血液の入った注射器を突き立てると、バズーらを威嚇する。
「くそっ・・・」
「この階だよな?聖はどこだ?」
その時、外の様子の異変に気づき聖が病室から出てくる。
「ひじり・・・」
ヒデが見た聖の姿は、10日前に見た元気な姿から程遠い姿になっていた。髪は全て抜け、顔も青白く、少しやつれている様子だった。
「ヒデ・・・」
聖はヒデの姿を見ると、髪の毛のない頭を必死に隠そうと、頭部を手で覆いながら病室からフラフラと出てきた。
「行くぞ・・・」
「うん・・・」
ヒデは高田を羽交い絞めにしながら、聖に手を伸ばした瞬間だった。銃を構えていた一人の若い兵が、聖に向かって発砲した。
「うっ・・・」
「聖!」
銃弾は聖の右肩を貫通し、聖は後方に倒れてしまった。
「患者を撃つな!何してる!?」
高田の怒号に、兵らは狙いを再びヒデらに向け始める。
「てめぇら!人質を殺すぞ!」
早坂がヒデに変わって聖の傍に近寄り、抱きかかえた。
「大丈夫だ・・・急所は外れている・・・」
「そうか・・・逃げるぞ・・・」
ヒデは高田を連れたまま、ポリス兵が少ない箇所へと少しづつ移動していく。するとヒデの目に一つのエレベーターが目に止まった。
「地下7階以降の特別エレベーター・・・面白い・・・真・四天王とやらを拝んで行くか?」
ヒデは高田を盾にしたまま、特別エレベーターに近寄っていく。
あるエレベーターにロクとダブルが乗り合わせている。ロクは拳銃に弾を込めて、ダブルはインカムで何かを話している。
「銃殺だと!?生け捕りじゃないのか?・・・・・・わかった。おい?そういう事だ・・・」
「おいおい・・・手間省くなよな・・・」ロク。
「現在、地下6でバズーらが追い込んでるらしい。」
「なぜ地下に下がる?・・・・・・目的は聖か・・・?」
「野郎っ・・・俺の花嫁に・・・」
エレべーター内のヒデたち。聖は早坂の肩を借りていた。
「聖!?大丈夫か?」
「ええ、大したことは・・・どこに行く気なの?」
「まあ見てろ!」とヒデ。
「何をする気なの!?」
「真・四天王さ・・・」
「馬鹿を言わないで!ここにそんなものが・・・」高田が叫ぶ。
するとエレベーターが止まり、扉が開いた。そこには薄暗い研究所が彼らを待ちわびていた。