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四天王  作者: 原善
第六章 真・四天王降臨
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その8 雲の上の存在

 ロクがポリス専用食堂で、昼食を取っている。そこへ、顔を横に向けながらロクの席の前に腰掛けるダブルがいた。 ダブルは腰掛けたても、ロクに右の横顔を向けたままだった。

「よっ、よお・・・ロク・・・」

 ダブルの不自然な様子に、ロクは笑いを堪えながら答えた。


「陽かい?」とロク。

「な、なぜわかった!?」ダブルは頬を隠した。

「どうせ、あいつにビンタでも貰ったんだろ?」

「さ、さすがだな・・・」

「陽に何言ったかは知らんが、俺の事は少しはほっといてくれ!」


 その言葉にようやくロクの正面を向くダブル。左の頬には陽のものであろう手形が、真っ赤になって浮き上がっていた。

「いや、なにね・・・ロクもいつまでもなつみの事、引き摺ってたように思ってさ・・・陽は陽でお前の事、好きみたいだし・・・」

「引き摺っちゃ悪いか?」剥きになるロク。

「悪いなんて言ってねぇよ。ただ長引くじゃねぇか?お前の悪い癖だ。キキの事もそうだろ?」

「そうだ!キキの事は、お前が言うな!」少し切れ美味ロク。

「だから・・・俺もそれが嫌なんだよ・・・キキも成仏出来ねぇよ。キキは俺の女だ!」

「ふう・・・キキが死んでから言うな!そんなセリフ、生きてるうちにキキに言ってやれよ!」


 ロクは珍しく大声を張った。

「そう噛み付くなよ・・・お前みたいな頑固者を好きになるなんて、なつみしか居ないと思ってたんだから・・・ある意味奇跡だ。ああ見えて陽は陽でかわいいとこあるじゃねぇか?知ってるか?あいつの胸?」

「胸?」

「お前が貧乳好きって言った日から、あの巨乳を隠そうと必死に胸になんか巻いてるそうだぞ!」ダブルは手振り素振りで巨乳の格好を示した。

「それは、ご苦労なこったな・・・」食事に夢中のロク。

「お前にそんな女心が分かるか?」とダブル。

「わからん!いやわかりたくないな・・・」


 すると突然二人の間に、乱暴にコップ水を置く者がいた。二人はその方向に顔を上げた。そこに立っていたのは、怒った顔をした直美がいた。

「あれ?これはこれはお嬢様・・・今日は如何しましたか?」とダブル。

「二人で昼間から巨乳の話?・・・楽しそうね?」直美の目が吊り上がっている。

「い、いや・・・こいつにですね・・・女心って物を教えていたんですよ・・・はい・・・」


「ごちそうさま・・・」

 ロクは食事を終え、席を立った。

「お、おい?ちゃんと考えて置けよ?」とダブル。

「俺らは恋愛禁止だろ?」背中で答えるロク。

「そうだけどさ・・・」

「先に指令室に上がる・・・」

 ロクはそういい残すと、一人食堂を後にする。その二人の様子を見つめていた直美が、ダブルに問う。


「喧嘩でもしたの?」二人の様子を心配する直美。

「いや・・・それならいいんだけどさ・・・ああっ!?」

 ダブルは直美の顔を見て、急に大声を出した。


「な、なによ・・・いきなり・・・」

「そう言えば、直美さまはロクの嫁候補では・・・?あいつと付き合ってみない?」

 そう言った瞬間、直美はダブルの左頬をビンタする。

「い、痛てぇ・・・」

「何よ、いきなり失礼ね!」

 そう言うと、直美もその場から立ち去って行った。

「なんで俺ばっか・・・」



 P6指令室。ロクが一礼をして入ってくる。

「入ります!」

 見慣れた顔もあれば、見慣れない者もいる。司令はその最上段にいた。ロクは雛壇を上がると敬礼をする。


「第一艦隊司令、ロク。只今P7より戻りました!」

 司令は不機嫌そうに座席でパソコンをいじっているが、ロクに目を合わせない。

「到着してからここに来るまで、随分と寄り道をしてないか?」


 弘士は、相変わらず目を合わせて来ない。ロクは司令が怒っていると察知した。

「すいません。昼食を取っていたもので・・・」

「お前にやって貰いたい事がある・・・」

「はあ・・・なんでしょう?」

「あと1時間程で、ヒデの銃殺刑を執行する。その刑を執行して欲しい。」

「お、俺・・・ですか?」

 ロクは驚き、自分で自分を指していた。


「本当はダブルの役だったが・・・彼がロクがいいんじゃないかと言うんでな・・・」

「しかし・・・」

「報告では銃を敵兵に向けれるようになったとある・・・ダブルはヒデに二度撃たれているお前が適任かと言うんだ・・・どうだ?」

「はあ・・・」

 ロクは戸惑っていた。撃たれていたとて、ヒデは元“仲間”だったからだ。彼の死に立ち会いたくはなかった。


「私には本日任務があり・・・恨みはありますが、銃を持たない者を銃で撃てません・・・」

「そうか・・・兵らの話によると、ロクは覚醒したなんて話も持ち上がっていたが・・・何にも変わってないようだな?よかろう、この件はダブルに任せよう!」

「はあ・・・」

 弘士はこの日始めて、ロクの顔を見上げた。すると今度は弘士の司令席に慌てて掛け上がってくる者がいた。それは息を切らした陽の姿だった。良く見ると陽の両手には将棋の盤と駒を持ち血相を変えて雛壇に上がって来たのだ。


「ど、どうした陽!?」陽を見上げる弘士とロク。

「私とこれで勝負して下さい!!」ロクの前に将棋の駒と盤を突きだす陽。

「あらら・・・勝負って・・・将棋で俺に挑むのかい?」


「ああ、こいつにね。お前と将棋で勝ったら四天王の座を考えると約束してしまってね・・・」弘士が気まずいようにロクに言い訳する。

「ふーん・・・将棋でね・・・?俺にね・・・?時間がないんだな・・・今夜でどうか?」

「今、ここで勝負して下さい!司令の前で!」殺気立った陽の表情。

「いいんですか?司令?」

「許可する・・・」苦笑いの弘士。

「ふーん・・・お前?俺に将棋で挑むって・・・どのくらいやってんだ?」

「実戦は初めてです!でもこの十日で資料室にある将棋の書物は全部読み漁りました!駒の動き方だけではなく、古来の戦法まで・・・」

「それだけじゃあ、俺には勝てないと思うが・・・」ロクは陽の言葉を立ち切ると横目で弘士の顔を見る。弘士が陽に試練を出したのだと自分なりに悟った。するとロクは箱の中の駒を盤の上に出し、渋々と駒を並べ始めた。すると突然、ロクの駒を並べる手が止まった。


「そうだな・・・ならハンデをやろう・・・」ロクは途中まで並べた自分の布陣の駒を盤の外へと外し始めた。残ったのは王将の駒が一個だけになった。その様子を見た陽がロクを睨み付ける。


「な、なんの真似ですか!?私が勝てないとでも言うのですか!?」

「勝てば四天王の座だろ?俺とまともに戦って勝てると思うなよ!このくらいがお前とは丁度いい・・・」ロクは落とした駒の中から歩だけを三枚選び、手の中で踊らせていた。


「こ、この勝負の条件は・・・?ってか勝負になるんですか?」戸惑う陽。

「駒落ちの俺がもちろん先手。持ち駒はこの歩が三枚のみ。こちらは二歩も三歩も出来る。そちらは通常ルール・・・どうだ?」

「ルールは分かりました。こちらが負けたら・・・?」

「俺の命令を一つ聞いて貰う・・・どうかな?」

「いいでしょう!この布陣で私が負けるはずがありません!しかも歩がたった3枚だなんて・・・何が出来るのですか?」

「ただの歩じゃないぞ!俺にとってはこの三枚はキーン、ダブル、バズーってとこだな・・・言わば四天王・・・」ロクは更に手の平の三枚の歩を高く舞い上がらせ、陽に向かってニヤりと微笑んだ。


「おい!ロクと陽が四天王の座を賭けて戦うらしいぞ!!」

「司令室で将棋で戦うってよ!」

「四天王と四天王候補の戦いか!?それは見逃せないな!?」

いつの間にか司令室には非番のクルーまでが、その噂を聞き付けてたくさんのポリス兵が集まっていた。二人の盤の周りに集まるたくさんの兵たち。ロクは意気揚々としていたが、陽はその空気に飲まれようしていた。


「いいのかな?始めて?」再び高く三枚の歩を舞い上がらせるロク。

「ど、どうぞ・・・いつでも・・・」

「さぁーて・・・行きますか?」

そう言うとロクは、持ち駒の歩の一枚を陽の陣営の角の前にあった歩の前に垂らした。周りからは声が漏れ、波紋となって司令室内に響く。


「こ、これは・・・」盤の一点を見つめ、静止する陽にロクが語る。

「俺の先鋒のこの歩はバズーってとこかな?」ロクは笑って見せた。

「ど、どうって事ないですよ・・・所詮は歩です・・・」

陽は恐る恐る、ロクの垂らした歩を自らの歩で取ってみせた。


「あーあー・・・」溜め息にも似た観客たちの声が、司令室に再び響き渡った。その声に陽も驚き周りを伺う。ニヤニヤした周りの観客たち。陽がその様子に何かを悟った時、ロクの二枚目の歩が再び陽の陣営に打ち込まれる。そのロクの歩は陽の歩が動いた場所、すなわち角の頭に張られたのだ。

「あっ・・・」声にならない陽の嘆き声。

「これはダブルってとこかな・・・?」

「か、角が・・・」

陽の角は一度も動く事なく、ロクの放った歩に詰められていた。

「奇襲はお手のもんでね・・・」

「ま、まだです!たかが大駒の一つ・・・」苦し紛れに陽が他の手を探そうとしている。

「まだするか?今のお前では、俺に角一つ渡したら勝機はないぞ・・・」

「そ、そうですね・・・今回は参りました・・・」


「おっ~!たった三手かよ!!」

「陽もまだまだだな!」

「おいおい、休憩潰して損したな!呆気ない!呆気ない!」

陽の呆気ない敗戦に呆れた観客たちが、徐々に司令室から帰り始めた。放心状態の陽にロクが声を掛ける。


「そうだな・・・今回お前は俺の戦略に負けたのではないぞ。自分の油断に負けたのだ!」

「油断・・・?」

「王将と歩が三枚・・・普通なら負ける要素はない・・・そこがお前の油断だ!マニュアルとか古来とかにこだわるんじゃない!たった今の戦場を見るんだ!」

「勉強に・・・なります・・・それで命令ですが・・・?」悔しそうな陽。

「そうだな・・・?考えておくよ!」ロクはそう言うとその場を立ち去った。


「まだまだうちの四天王には早いようだな?」弘士が失意の陽に声を掛ける。

「司令は知っていて、わざと私に・・・?」

「ああ、お前が強くなっても、あいつは更に強くなっている・・・そういう奴だよ・・・ロクって男は・・・」

「今回は冷静な判断が出来なかっただけで・・・」言い訳の陽。

「お前はロクたちの背中を追いかけているようだが、あの四人にはそうなかなか追い付けんぞ!」

「四天王か・・・まだまだ上の存在なのか・・・?」陽は弘士の前で唇を噛み締めた。



 ヒデの居る独房。ヒデはベットで横たわり、天井を見つめていた。そこに高田女医が兵を連れて入ってくる。

「調子はどう?」

 高田の言葉にベットから起き上がるヒデ。

「まだポリスは囚人の血が必要か?」

「え?ええ・・・」


 ヒデは高田の何かの様子に気がついた。高田はヒデの腕から血を抜き始めた。

「先生よう!俺はいつになったら死刑なんだ?」

「さ、さあね・・・」

「それまで献血も悪くないけどよ・・・」

 そう言うとヒデは自分の腕に刺さっていた注射器を奪い取ると、高田の首元に突き立てた。

「あんたも嘘が下手だな・・・」


「バ、バカな真似はよしなさい!ヒデ!」

 独房のドア付近に警戒していた兵2名も機関銃を構える。

「ミュウは血液感染すると聞く・・・ちょっとでも刺さったら、先生はミュウを感染する・・・」

「くっ・・・」

 ヒデはそう言うと高田を人質に取っていた。

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