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四天王  作者: 原善
第六章 真・四天王降臨
125/209

その7 暗雲

 ロクはあるテーブルに二人分の食器を持ちながら席についた。キーンは車椅子のままテーブルにつく。

「それで・・・?」食事に手を付けることなく身を乗り出すキーン。

「3日後、戦う敵将に作戦をかい・・・?うーん・・・どうしようかな?」ロクはわざと勿体振る。

「そこをなんとか・・・」頭をテーブルに押し付けるキーン。

「ふふふ・・・よかろう!」


 ロクは目の前のテーブルの食器などを一度どけると、スプーンとフォークで海戦図を作り始めた。

「キーンたちは4次の方向から我が艦隊を追いかけてきた・・・」

「ふむふむ・・・」

「この時点で、4番艦に照明信号を送った。」

「信号?なんと!?」

「1番艦の真下に潜航せよと・・・」

「それはわかったさ!なぜ我が艦隊は4番艦のスクリュー音もブースター音も捕らえられなかったんだよ?」

「苦労したさ・・・4番艦を消して、キーンたちの艦隊を一度浮上させなければならなかったんだから・・・」

「動かなかった?エンジンを停止したか?・・・いや、停止してもレーダーは映るな・・?何度考えてもわからん!」

観念した様子のキーンにロクが小声で答える。

「トリックはトロール用の網だよ・・・」

「網だぁ!?」


 ロクは、ある食器をキーンの前に出して説明した。

「ああ、網だ・・・実は漁業用のトロール網を左右からループ状に海底に垂らし、その中に4番艦を吊った状態にした。」

「ま、まさか・・・4番艦を魚雷を撃つ為だけに・・・」

「ああ・・・海中じゃあ、ブースター航行には限度がある。とは言えスクリューでの航行でも感知される。吊ってしまえば、ソナー反応もなく、ブースター音もスクリュー音もなかった・・・こちらが潜航していれば、そちらは距離を置く・・・1隻いないのを必ず浮上して海上から確認すると思っていた。」

「こいつは驚いた・・・下手したらスクリューや艦橋が網に引っ掛かていたな・・・相変わらず奇襲だけはさすがだな・・・」

「次の5対5の模擬の艦隊戦も容赦しないぜ・・・キーン?」

「望む所だ!」

「最新鋭艦とはいえ、クルーが不慣れなところを突く・・・いいな?」

「一理ある!相変わらずその辺は手厳しいな・・・昔から3期生のみんなが、お前が味方で良かったと嘆いていたのをよく思い出すな・・・」

「そんなに俺、怖がられてたか?なんせ、これしか能がなくてな・・・」笑顔で頭を掻くロク。



 ロクとキーンがある狭い部屋で寝ている。ロクはハンモック。キーンはベットで寝ている。ロクは起きていて丸い小窓から夜空を眺めていた。

「まだ起きていたか?」

 キーンがベットからロクの様子を伺った。

「今日は風がないが時化るな?船酔いもきつい・・・」

「明日、定期便はロク班だろ?久々の地上じゃないか?」

「ああ、キーンの足も出来てるらしいし・・・」

「そいつは助かる。車椅子だと、行ける場所が限られる・・・」

「それよりまずリハビリだろ?」

「やってるさ・・・ほら?」

 キーンは松葉杖だけで、ベットから飛び起きて見せた。


「おいおい、無茶するなよ・・・」

「それとジャガーはどうする?」

「持ってくる・・・屋上で走らせてやる・・・」

「そうか・・・明日早いんだろ?寝た寝た!」

 キーンが床につく中、ロクは小窓から夜空を見つめていた。すると二人の部屋のドアをノックする音が聞こえる。

「はい!?」

そこに顔を出したのは、何かの小箱と正方形の板状の物を脇に抱えた久弥だった。

「よお!どうだいロク!一局指さんか?」久弥が人差し指と中指を交差させロクだけに合図を送った。ロクはすぐ久弥が好きな将棋の事だと察した。

「はぁ・・・」重い返事のロク。

「行ってこいよロク!」キーンがロクの重い態度を後押しした。

「なら一局だけですよ・・・」そう言うとロクはハンモックから飛び降りる。

「今日は満月だ・・・屋上で風に当たりながら打たんか?」久弥の口調でロクは久弥が酔っているのに気づいた。



P7の屋上部分。広い敷地に部分のやや海寄り部分に二人は将棋盤を起き対面して胡座をかいて座っている。外は満月で二人は月明かりだけで照らされた将棋盤を互いに睨んだままだった。久弥は時折おちょこで何かを飲み干しては、自ら手酌してまたおちょこを口にしていた。


「戦況はどうかのう・・・?」久弥はロクの顔を見ることなく問う。

「かなり不利かと・・・」ロクも盤を見ながら、将棋の駒を動かしてみる。

「対戦成績だがわしはまだ勝ち越していたかな?」

「もう酔われたのですか?私の126勝46敗ですよ。ここ最近は私の58連勝です。」

「もうそんなに差がついたか?わしがお前にこの将棋を教えたのにな?それにお前はいちいち細かいのう・・・」久弥は照れながら顎の髭を擦り駒を動かす。

「ふふふ、負けず嫌いなだけです・・・」ロクもすぐ応戦して駒を動かす。

「しかも敵を攻めさせて、逆に奇襲をしかける・・・この世界でこのような戦法があったとはな・・・?」

「それしか能がありませんから・・・はい、王手です!」

「うーん・・・厳しいのう・・・それで敵は南から大駒を一枚追加したと聞く?お前ならどう攻めてみせる?ロク?」

「大駒ですか?んっ?ジプシャンの船の事ですか?この勝負の話ではないのですね?」ロクは久弥が将棋の話から戦況の話しにすり替えているのに気づく。


「この戦局、いまのポリスに似てはいないか?大駒のジプシャン、守りのポリス・・・」久弥はようやくロクに目線を合わせた。しかしロクは盤を見たまま駒を颯爽と動かしてみる。

「さあ・・・どうでしょう・・・?私はこの一枚の歩です。行けと言われれば敵の中にでも行く歩兵です。戦略は指令室の仕事かと・・・?歩兵の私に戦局など・・・はい、また王手です!」

「歩の無い将棋は負け将棋と言うが・・・うーん、こりゃ参ったな・・・でもその歩でしかわからん事もある・・・今日も分が悪いのう・・・まるで今のお前は戦いの神。毘沙門天だな?」

「そんなことわざがあるのですか?今夜は特に酔われておいでるからですよ・・・びしゃもんてん?・・・なんなんですか?」

「守護神、四天王の一人でな?多聞天とも言われる。ああお前の船の砲撃主の多聞はここから名乗ってるそうだぞ・・・」

「へぇーあの多聞がね・・・松島を見渡す山の名かと思ってました。私はそのような神など信じませんよ・・・はい、また王手ですよ!」ロクは眉ひとつ変えず駒を動かした。


「戦況は変わらんか・・・?」ロクの一手に頭を掻く久弥。そしてすぐ駒を取る久弥。

「それを変えて見せてこそ勝負の面白さかと・・・これでどうでしょう?王手です。」久弥の王将の前に歩を打ち込むロク。

「これがお前と言う事か?ふふふ・・・こりゃあ時期に詰みだな?参った参った!」一礼して負けを認める久弥。

「これで私の59連勝!忘れないで下さいね?おやじさん?」勝って初めてこの勝負で笑顔になるロク。

「歩の使い方という事か・・・?お前は弘士にない物を持っているな?」

「司令とは最近対局してないのですか?」

「ああ、最近相手もしてくれんよ・・・体調も悪いので無理も言えん・・・ああ、眠いとこすまんのう。無理言ってしまった。明日は久々の陸で早いのだろ?」寂しげな久弥。

「いいえ!いつでも誘って下さい。おやすみなさい!」久弥を残し屋上を立ち去るロク。久弥はおちょこの酒を飲み干すとロクの背中を見つめた。満月は真上に出ていた。



 レヴィア1番艦ブリッチ。

「急速潜航!目標P6!」とロク。

「了解!」桜井が操縦管を引く。

 レヴィアがP7から海底に沈み始める。朝日はちょうど海から昇り始めていた。



 P6会議室。弘士と高田が席について向かい合っている。

「それでどうだ?」

「はい・・・それが・・・」

「今日が約束の日だ・・・これ以上は引き伸ばせない・・・」

「分かっています・・・しかし・・・」

「まだ生きたサンプルはある。最悪は彼らを・・・ヒデは諦めてくれ・・・」

「しかし・・・このようなサンプルは滅多に・・・」

「刑は予定通り、本日正午行う・・・いいな?」

「はあ・・・」



 P6指令室。指令室には弘士に変わって曽根が陣取っていた。

「レヴィア1番艦を海上で確認!」と柳沢。

「ルナ!?無線だ!」と大声の曽根

「はい!こちらP6!海竜ワン応答せよ!」とルナ。


 すると中央スクリーンにはロクの姿が映し出される。 

『こちら海竜ワン!到着は40分後だ!』

「了解!」


「元気そうだな?ロク?」

『曽根参謀も・・・』

 ロクと曽根は互いの顔を見つめあうが、それ以上の言葉はなかった。



 ロクはポリス内の桑田の墓の前にいた。

「ただいま・・・」

 そう呟くと、跪き祈りを捧げるとすぐ立ち上がった。すると側の塀の上を見つめる。

「さぁーて・・・」

ロクはいつもの塀を掛け上がって行く。



 ロクはいつもの塀の上、いつもの場所にいた。太陽は真上、風は穏やかだった。すぐそばの風力発電機の風車も静かにゆっくりと回っている。すると後方の階段を急ぎ駆け上がって来る音が聞こえる。すると息を切らした陽が上がってくる。

「ロ、ロクさん・・・!?」

「おお、来たか陽・・・?それでだが・・・」

「い、いえ・・・あの!不謹慎です!まだ喪に服していなきゃいけないのに・・・ったく男って生き物は何を考えてんだか・・・?」怒った口調だがなぜかロクの顔を見れない陽。

「ん・・・?」

「ただ・・・桑田が亡くなって寂しいのは凄くわかるんです・・・そこは凄く分かるんですが・・・?どうなんですか?こういうの?」

「こういうのって・・・?はあ・・・?」


 陽はロクの顔を見れず、たまに女の子らしい仕草でロクを上目使いで時折見つめていた。

「ただ、互いにプロジェクトソルジャーです・・・このお話は嬉しいのですが・・・」

「受けない・・・という事か?最初の方がよく意味が分からんが・・・?」

「それと・・・言うんなら、直接言って頂いた方が・・・何もあのエロチビを通さなくても・・・これじゃポリス内でも噂になります!」

「エロチビって・・・」

「いや・・・違います!ロクさんがどうしても私って言うなら考えますよ・・・ただそれをあのエロチビ経由で話されても・・・あのエロチビですよ!?あのエロチビ・・・いいえ、ダブルさんはロクさんの友人かもしれませんが・・・?」

「確かに・・・お前を指名したのは俺だが・・・?」

「し、指名とか言わないで下さいよ!なんか命令みたいじゃないですか!こんな個人的な事・・・?」

「個人的?・・・あのなぁ?お前ダブルになんて言われた?」


 ロクはゆっくりと陽に問う。すると陽は我に返り、ロクを見つめた。

「えっ!?ロクさんが私に告白したいからここに行けって・・・ち、違うのですか?」

「うーん・・・それはダブルにしてやられたな・・・?」頭を掻くロク。

「え・・・?あっ・・・!?」

 陽は急に赤くなって、固まり動かなくなった。


「あ、あのっ!!エロチビぃー!!!」

 

 突然陽はそう叫ぶと陽は腰の拳銃を抜き、階段をダッシュで降りていく。それを唖然と見つめるロク。

「ふう・・・やれやれ・・・おーい!殺すなよ!?」



 ジプシャン軍古川基地。ツヨシのスコーピオが基地内のドックから出ている。そのブリッチにツヨシらはいた。

「スコーピオ発進準備に掛かれ!目標!P6だぁー!」

巨大な船が音を立てて始動する。

「待っていろ!雷獣!!」ツヨシの低い声がブリッチに響く。


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