その12 四天王の首
そこに座っていた女は、20代前半で透けたマントに露出が多い服や、数多くの装飾品を纏っている。まるで二人を誘惑するように、女はイスの肘掛に右手を置き、体を斜めにし自分の指をコメカミに当て、露出した足を組み、その大きな瞳で二人を見つめた。たまに揺れるローソクの炎が彼女を妖艶に魅せていた。
更に土井の後ろには、一人の目つきの悪い軍服を着た男が参謀のように控え、二人を睨んでいた。
「リキの姿がないな!?奴はどうしたのだ!?」
突然、女総帥が大声を上げる。二人はその大声に驚く。
「き、昨日のP6との戦闘で死亡しました・・・」丸田が重い口を開く。
「ふっ・・・柔な奴よの・・・」寛子は笑ってみせる。
「なにっ・・・?」
ヒデは聞こえるか聞こえないくらいの声を、思わず漏らしてしまった。ヒデを横目で静止する丸田。だが幸いにも総帥の耳にはヒデの声は聞こえなかったようだ。
「私の前では、四天王の首を取るなどとノウノウとぬかしておったのにな。・・・それで?その方ら、四天王の首はどうしたのだ?それが入隊の条件だったはずだが・・・?」
「はい・・・それが・・・」
何も言えない丸田に代わってヒデが口を開く。
「正直に申しますと、失敗に終わりました!」
「ほう・・・四天王の首一つ取れずにここに舞い戻って来たと言うのか?」
「申し訳ございません・・・」
「ならば、入隊の話はなしだ。とっとと立ち去るがよい!」寛子が席を立とうとする。
「出来ません!もうポリスには戻れません。女、子供もいます。なんとか、ここの軍に置いてはくれませんか?」
「正直に話し、装甲車を返しに来たのは褒めてやろう。最近では仲間の遺体の首を切り取り、これが四天王の首ですとわざわざここに来る族が多い中、お前らの行動は関心するが・・・」
そのセリフを聞いた丸田は、少し蒼くなった。
「しかし、仲間の仇すら取れないお前らに、ここの居場所はない。即刻立ち去るのだ!」
「もう一度、チャンスを頂けないでしょうか?」ヒデが食い下がる。
すると、後ろに控えていた男が、土井の前に立ちふさがり、二人に叫んだ。
「貴様ら!帰れと言っているのがわからんのか?」
「どうしてもというなら、せめてリキの仇でも取って来たらどうだ?話はそれ以降だ。」
二人を置き去りにし、土井らが席を立ちその部屋から出ようとした時だった。土井らが入って来た同じ通路から、3人の軍服姿の男性が入って来た。中央に迷彩帽を被った小柄な不精髭の男。その右には、何か荷物を持った背の高い痩せ型の男、左には、同じく荷物を持った体格がいい男の3人だった。すると、中央の帽子の男が土井に向かって話しかけた。
「よっ!」
驚いた総帥が声を上げる。
「タケシ!?いつ戻った?前線は?」
「今さっきだ。前線は死神に任せてある!」
「あいつにまともな指揮が勤まるはずがないだろ?」
そうこう二人が揉めていたのを見ていたヒデと丸田であったが、丸田は何かに気づいて横にいたヒデに小声で囁いた。
「こいつ・・・あのストラトスのタケシだ・・・」
「ストラトス?ストラトスのタケシか・・・!?」驚くヒデ。
「・・・補給を頼んでも、銃弾一つ届かない!俺たちは銃弾がなければただのSC隊だ。面倒だから取りに来ただけだ!」タケシはめんどくさそうに寛子に説明をする。
「勝手に前線を離れおって・・・」
「新しい船も出来上がるそうじゃねぇか?それと新しい武器ってのも気になる・・・」
「そんな事で、わざわざここまで戻るお前か?・・・そうか?本当は、大場の事だろ?」
図星なのかタケシの顔が一瞬引きつった。
「・・・で?どうなんだ?大場は!?」
「追手は出した。まだ見つかってはいない、足の遅いトラックで逃げてる。捕まるのは時間の問題だ。」
「どう命令したのかは知らんが、大場だけはどうにもならんのか?」
「脱走兵は銃殺!その掟は変わらない。」
すると、後ろの参謀が再び口を挟む。
「大場は我々を裏切ったんですよ、タケシさま!」
「残念だが、時機に大場の首はここに届く。」
「その家族も・・・だったよな?」
「お前としては珍しくしおらしいな?もう、忘れたらどうだ?」
「忘れたさ・・・綺麗さっぱりにな・・・」
「どうだか・・・?」疑いの目でタケシを見る寛子。
「そうそう姉貴に土産だ!姉貴の新しいコレクションに加えてくれ。おい!」
そういうと、タケシは後ろにいた二人に声を掛けた。すると二人は、背中に担いだ荷物を土井と犬飼の前に投げ捨てた。
「な、なんだ・・・?こいつら・・・!?」驚くヒデと丸田。
それは足や手を後ろに縛られた2体の遺体だった。断末魔の顔。開いたままの目。首には紐のようなものに繋がれ、特に首の部分の皮は剥がれており出血の痕がある。また着ていたと思われる服はボロボロで、体中には無数の傷痕があった。
「第五ポリスの二人の四天王だ・・・」
「こ、これが・・・」
「し、四天王だと・・・?」
ヒデたちは言葉を失った。