その1 三現主義
P6地下独房施設。
「仲間を裏切ったのはヒデ、あなたでしょ!?」と聖。
「なっ・・・」ヒデは聖が泣いているのに驚いた。
聖は泣きながら、更にヒデに訴え続ける。。
「こうなったのも自業自得よ・・・」
「てめぇこそ仲間を・・・」ヒデは牢屋から凄んでみせる。
「わ、私の事なら心配ないわ・・・だって新しい彼も見つけたし・・・」
聖は作り笑いをしながら、チラッとダブルの顔を見つめた。
「お、俺・・・?」驚くダブル。
「ふん、へぇーこんなチビが好みだったとはね・・・?」皮肉を言うヒデ。
「チビは余計だよ!」とダブル。
「生きるため・・・あんたも同じ事を言ってたわね?私もそうよ!」
「自分だけ生きればいいのか!?」
「だけど、少しでもあんたに気を許した自分がバカだったわ・・・」
「聖・・・」
「これでチームリキも解散ね・・・じゃあね!」
聖は一人、独房から歩き始めた。
「ひじりっ!」
ヒデは独房の中から、精一杯の声で聖を呼び止める。背中を向けたまま止まる聖。
「好きだったんだぜ・・・聖の事が・・・」
「・・・」ヒデの言葉に黙る聖。
聖は突然、独房のドアまで走り出すと、格子窓の隙間に顔を寄せヒデにキスをする。
「おいおい・・・どっちなんだよ!?」
二人の不意な行動に唖然となったダブルは、慌てて二人を引き離そうとする。
「野暮ね!最後くらいキスさせなさいよ!」
聖はキスを一度中断すると、ダブルに向かってこう言った。
「ああ・・・」
聖の迫力に、ただ圧倒されるダブル。するとキス中のヒデの目が一瞬見開いた。次の瞬間、聖はヒデから離れた。
「もういいわ・・・もう後悔しない・・・じゃあねヒデ!」
そういい終えると、聖は一人独房を後にした。ダブルがそれを追いかける。
ヒデは二人が消えるのを確認すると、すぐ独房の奥に引っ込み、口元に手をあてる。するとヒデは自分の口の中から針金が折れ曲がった束を取り出す。
「なんだ、あの女・・・今時、針金で鍵が開くわけねぇだろ・・・」
すると、独房の隅へと針金を投げ捨てた。
夜が明け、東の空から太陽が昇り始める。ロクは塀の上にいた。
「ふわぁー!よく寝た・・・さぁーて・・・行きますか?」
ロクはそう言うと、塀の階段を急いで降りて行く。
P6指令室。早朝なのか人もまばらだ。
「司令っ!これを!」
柳沢はスクリーンの一部の異変に気づく。
「どうした?」
司令をはじめ数名が立ち上がった。
「南ブロック高台の映像です。今、正面に投影します!」
すると荒野の映像が中央スクリーンに映り始める。かなり遠くの映像で、画面中央付近に砂嵐のようなものが映し出されていた。
「砂嵐か・・・??」
「気象レーダーには何も・・・先日の敵シップよりも巨大な事は確かです。」
「距離は分かるか?」と弘士。
「まだレーダー範囲外!」
「進路は?」
「このままですと、ポリス道を北です。こちらは進路を外れてますね。このルートですと・・・敵古川基地方面と思われます。」
「我妻。黒豹を出せ!」
「了解!」
「今日から、黒豹は陽隊長だったな・・・?ん!?」
「はぁ・・・しかし・・・いえ、そうではなくて・・・いやいや・・・ですから・・・」
弘士は我妻の無線を聞いて何か揉めてるのを感じた。
「どうした?我妻!?」と弘士。
「はあ・・・ロクさんがついでなんで、この件で偵察に出ると言ってますが・・・?」
「ロクが?・・・何のついでだよ?これからP7だろ!?まあ奴の事だ。既にゲート前に居るんだろ?暫くは海の上だ。出ろと伝えろ!」
「了解・・・こちら指令室・・・北ゲート開けます!」
「奴の事だ!偵察だけで済むかな・・・?」笑いながら鼻を掻く弘士。
「さぁーて・・・行きますか?」
ロクのジャガーは北ゲートから飛び出していく。そのジャガーの遥か先には、巨大な砂煙が高々と空に向かって伸びているのが見える。
「それにしてもでかいな・・・」するとフロントガラスに陽の姿が映し出される。
『ちょっと!ずるいです!今日から偵察隊は私が・・・』
「ごめんね~!別に仕事を追われたからじゃないのよん~!」
『もう!昔から、都合が悪くなると可愛く喋るんだから・・・私も行きますからね!』
「こいつに追いつけるかい?」ロクはハンドルを軽く叩く。
『私をナメないで下さい・・・』
「お、怒んなよ・・・でもお前の車の塗装・・・ちょっと迷惑・・・」
2台の斑のSCは、P6を後にした。
ジプシャン軍サンドシップ、スコーピオ。早朝の荒野を北へと移動している。空母側の甲板にはたくさんのソーラーパネルが敷かれているが、その一部にテニスコートが作られている。そのコート内にはツヨシと若い兵が、ラリーを続けている。息を切らしたツヨシが相手側に強くボールを打ち込むが、ボールは走行中のシップの外に飛び出してしまう。
「悪い、悪い・・・」
すると、艦橋がある側から両角が慌てて走ってくる。
「ツヨシ様、P6区域です。一度艦橋にお戻り下さい。敵偵察車も出てるそうです!」
「バカな・・・あのボケP6が襲ってくるはずがないだろ?」
すると、突然音を立て甲板付近を銃弾が走った。身を伏せる二人。すると艦橋上の見張りの兵が二人に叫ぶ。
「敵襲!敵襲だぁー!」
「チィッ!!」
ツヨシは舌打ちをしながら艦橋へ向かった。
空母側の艦橋内は慌てていた。ツヨシは何もなかったように指令席へ腰掛ける。
「数は!?」とツヨシが叫ぶ。
「SCが2台!偵察タイプ・・・2台とも斑模様!雷獣です!」兵が叫ぶ。
「雷獣だと?」両角の顔色が変わった。
「なんだ雷獣って?」
「2台とは言いましたが、実際近寄っているのは1台のみ!高速タイプです!」
「機銃!?何してんだ!?撃ち落とせよ!」
「はっ!何分、あ、足が速く・・・」
「右舷機銃何してる?相手はたった1台だろ?」
『敵の足、思った程早く・・・うわっ・・・』爆音と共に切れるスピーカー音。
『右の機銃兵負傷者多数!交代要員をまわして下さい!』
『54機銃被弾!消火急げ!!』
「何してんだ・・・ボンクラどもが・・・?たった1台のSCに何振り回されてるんだ?で・・・雷獣とは何だ、両角?」呆れるツヨシ。
「はあ・・・北の兵たちを脅かしているSCだそうで、一説によると覚醒したミュウの子とも、神の子とも言われており・・・」
「ポリス事だ。ミュウを手懐け、人間兵器にしてこちらに送ってくる事も十分に考えられるな・・・?」
「あのミュウ狩りをしていたポリスがですか?お言葉ですがそのような事をポリスが・・・」
「なんなら俺がこの目で確かめてやる・・・船を止めろ!」
「ツヨシ様?何をなさるのですか?」と両角。
「俺は昔から“三現主義”でな・・・」
「はぁ・・・?」
「現場で、現物を、現実に捕らえる・・・見てくるぞ!神の子と呼ばれる雷獣とやらを・・・」ツヨシは不敵に笑う。