その24 新隊長・陽
その声の方にロクは驚き振り向いた。そこには長い黒髪の少女が腕を組み不機嫌そうに立ちすくんでいた。ロクはすぐ誰か分かった。
「陽か・・・?」
陽は12歳の頃の風貌はなく、自慢の茶髪も髪型も変えていた。体系も大人の女性になっていたのだ。
「隊長なら隊長らしく、部下に拳銃の訓練ぐらいさせて下さい。正直、偵察隊だからって隊の訓練を怠っていたんじゃないですか?」
ロクは、突然の陽の言葉に面を食らった。
「P7に居たと聞いてたが・・・気配を消して後ろに回り込む・・・風我の技だな?いつの間に・・・」
「はい・・・海兵を育てる役でです。親父さんが来て晴れてこっちです。まさか悪名高い黒豹とは・・・風我さんの技?最後の無線でなんか気づきましたよ・・・」
「なんだ?この黒豹が嫌みたいだな?」ロクは頭を掻く。
「てっきり、レヴィアの配置かと喜んでいたんですが・・・」
「お前が、ここの新隊長なら教えてくれ?俺はどこの配置だ?」
「噂じゃP5とか・・・?死龍さんがこっちにいるなら向こうはあの“馬鹿”ボムだけでしょ?ロクさんが向こうだと、こっちの四天王の席が一つ空きますね・・・?という事は俺もとうとう・・・うんうん・・・」
陽はニヤニヤしながらロクの顔を見つめる。
「相変わらずだな・・・?」
「そうですか?自分では随分大人になったと思ってますけど・・・ああ、あの夜、私を抱かなかったの後悔してたら遅いですよ?ちなみにまだ処女ですけど・・・うふっ!」
陽のその言葉に他の黒豹隊の隊員らは驚いた。
「ど、どういう事ですか?隊長?」驚く山口。
「確かに陽はいい女になったな?残念ながら俺は貧乳好きでな・・・」
「なんだよ!なつみが亡くなって少しは悲しんでると思ったら・・・さすがポリス最強の四天王っすねぇー?励まして損した・・・」
陽は腕を組んで少し怒ったフリをした。
「励ましたつもりか!?」
「しかし、P4以来の難敵、あのタケシの首を取るなんて、どう褒めましょうか?P7では噂になってますよ。ロクは覚醒したんじゃないかって?」
「おいおい・・・人をミュウみたいに言うな!」
「まあ、私の正式配置は明後日からですから・・・それまでこのボンクラどもを再教育してくださいよ!」
「お前なぁー。来て早々ボンクラ扱いか!?」山口が二人の話に割り込む。
「副隊長・・・私は年下じゃないわ!同い年ね?それと女だからってナメないでよね!明後日からはみっちりしごくわよ!」
「わかったわかった!明後日までにはなんとかする!」
「ロクさんのなんとかするは、当てにしてません・・・キキさんとホーリーさんから教えて頂きました!ほんと・・・頼みますよ!」
そう言うと陽は、再び格納庫を出て行った。
「先が思いやられます・・・」顔をしかめる山口。
「そう言うな・・・次期四天王だ・・・となれば・・・やりますか?」ロクは山口の肩をポンと叩いた。
P6地下6階ポリス専用医務室。聖のベット横にはダブルの姿があった。聖の顔は包帯がだいぶ取れ、傷口数箇所に処置がされているだけであった。しかし聖の顔色が前よりも悪いように見える。
「ヒデが・・・?」細い声でロクに問う死龍。
「ああ、一週間以内に執行される・・・」
「いるんだ・・・あいつもここに?」
「このすぐ上の階にいる。」
「会えないかな・・・?」
「どうかな・・・?会ってどうするんだ?」
「一言いってやりたいだけ・・・」
「面会って事で上に聞いてみるよ。」
「お願い・・・」
「ああ・・・」
P6指令室。弘士と曽根が雛壇上で打ち合わせをしている。そこに片足を引き摺ったロクが入ってくる。
「失礼します!」
ロクの声に何人かが立ち上がりロクを向かえた。何人かは見慣れない顔もいる。
「ロクさん!」柳沢が声を掛けた。
すると司令や曽根参謀もロクに気づき、雛壇を降りてきた。
「くたばらなかったか?」
「昔から悪運だけは強いですから・・・」
「用件だけ言うぞ・・・」
弘士は少し怒った口調で、ロクに話しかけた。直立するロク。
「ロクをレヴィア第一艦隊司令に命ずる!」
「はっ!・・・あの・・・P5の話は・・・?」
ロクは恐る恐る司令の顔を見上げた。
「なんだ?P5がいいか?」
「死龍に感謝しろよ・・・」
曽根はなお不服そうだったが、司令の手前少し我慢している様子だった。
「キーンとどう違うんですか?」
「ああ、あいつは第二艦隊・・・お前は1番から5番だ。リハビリも途中で、もう奴はP7で勉強しているぞ!」
「そうですか・・・」
「正式な辞令は明後日からだ・・・それまでに陽に黒豹を引き継ぐんだ・・・いいな?」
「はあ・・・」何か不服そうなロクの返事。
P6南ブロック、ジプシー墓地。外は月明かりもなく、たまに通り過ぎる警戒用のライトが墓場近くを照らす程度だった。ロクは桑田の墓の前にしゃがんでいた。
「なつみ・・・俺がお前の夢を引き継ぐ・・・」
するとロクは立ち上がり、歩き始めた。
ロクがジャガーに乗っている。シャフトは上に上がり、ロクはその間、バルカンの調整をしている。
「うーん・・・なんかフロントガラスに文字がたくさん出るようになったな・・・」
ロクが機器類に難色していると、フロントガラスに見慣れない若い女性が映る。
「こちら、指令室!黒豹聞こえますか?」
「はいはい。おっ!?新顔だな?」
「は、はい・・・よ、宜しくお願い致します。皆からはルナと呼ばれてます・・・ルナッチでいいですよ!」
「ルナッチねぇ・・・情報は迅速に・・・黒豹には情報第一。いい?ルナッチ?・・・って言っても俺のここのポジションも明日までだが・・・」
「はあ・・・努力します・・・それで、偵察はどちらに?」
「試運転も兼ねる・・・まあ夜だし・・・遠出はしないよ。」
「了解です!」
シャフトが止まり扉が開く。
「さぁーて・・・行きますか?」
街は既に夜になっていた。ジャガーは夜の街を走り出す。すると山口やアキラのSCがロクのジャガーに合流する。ロクはバックミラーでライトの数を確認する。腑に落ちない様子で、無線を飛ばした。フロントガラスには山口の姿が映し出される。
『どうしましたか?隊長?』
「いや・・・1台多くないか?」ロクはバックミラーで車のライトの数を数えていた。
『え?・・・そうですね?おい!?誰の車だ??』
すると山口に変わって映し出されたのは陽の姿だった。
『私だけ留守番ですか?ズルくねぇ?』
「お、お前SCあったの?」
『ただのSCじゃないですよ・・・ここの倉庫に眠っていた掘り出しもんですよ!親睦会?お別れ会?私も混ぜて下さい?』
すると再び山口が、慌てた様子で無線に割り込んでくる。
『た、隊長!?最後尾見てください!』
「何だ!?暗くて見えねぇぞ!」
隊は北ブロックゲート前に到着すると、先頭のロクが車から降りてくる。そして逆光強い最後尾の車に目を懲らした。目が慣れロクの目に入って来たのは、車種こそ違えどジャガーと同じ斑カラーの見慣れない車だった。運転手は陽。いつの間にか山口も車から降りていた。
「ロ、ロクカラー・・・?」驚く山口。
「おいおい・・・」
呆れる黒豹隊の男子たちを尻目に、陽も車から降りてきた。
「ロータス・エスプリ・・・噂じゃ、海も潜れるタイプもあるとか・・・技師長の秘蔵のコレクションだったらしいです!」
「なんかのスパイ映画に出てた奴じゃないですか・・・??」
「海?ないない・・・」と手を横に振るロク。
「外面はエスプリですが、エンジン等は私なりにカスタマイズしました!」
「なんでこの色なんだ・・・?」とロク。
ボンネットのライト部分も赤というジャガーと同じカラーを見てロクは少し呆れていた。
「2台で走ったら、目立ちません?恋人同士みたいで!?」
「おいおい、あのな・・・」
ロクは悪意のない陽の顔を見て、笑いながら再びジャガーに乗り込んだ。
「ルナッチ?黒豹出るぞ!北ゲートオープン!」
『了解!』とルナ
暗闇の荒野を偵察隊の10台が併走して走っている。ロクのジャガーと陽のエスプリだけが、暗い荒野に赤く光っている。そこにロクのジャガーに無線が入る。
『どんだけ走るんですか?テスト運転の限度を超えてますよ?』
「まだいいだろー?」
『この辺・・・報告では敵の地雷網のはず・・・やばくないですか?』
「このちょっと先に、ジプシャンの基地があったよな?そこまでだよ・・・」
『お、女川基地ですか?確かに戦力的には小さい所ですが・・・こっちは大した武器なんか積んでないですよ!』
「なら、全員帰れ!俺一人で行くぞ!」
『相変わらずの、単独行動・・・ったく、男って生き物は・・・?』陽が無線に割り込むと一人嘆く。
すると突然、ジャガーのフロントガラスに“警報”を意味する文字が示される。