その23 なつみの墓
ロクはベットから飛び起きた。ロク自身嫌な汗をかいているのに気づき、手で額の汗を拭う。
「また同じ夢か・・・」
ロクはひとり独房の天井を仰いだ。
現在。P6独房。
ロクはまた悪夢を見ていた。この独房に入ってから毎晩のように昔の仲間たちの夢を見ていたのだ。
すると、独房のドアがノックもされず突然開いた、そこには高田女医が立っていた。
「元気?ロク?」笑顔の高田。
「ええ・・・まあ・・・」
「また汗かいてる。また悪い夢見たんだ?」
「ええ・・・」汗を拭うロク。
「あなたを地下6の方へ移動するわよ・・・」
「えっ!?」
高田はそう言うと、ロクの毛布や、飲み薬、点滴の用具を部屋の外にいたスタッフと運び出している。ロクは訳も分からず部屋に立ちすくんだ。
「一般って・・・どうしてですか?」
「死龍が目覚めたの・・・ロクに責任はない。逃亡は私一人の責任って言ったらしいわ。まあ誰も信じなかった様子だけどね・・・」
「死龍が・・・?」ロクは驚く反面喜んでいた。
「彼女に感謝しなさいよ!一般って言っても、もうあなたは完治に近いから、ちょくちょく通院はしてちょうだい。いい?」
「あっ・・・は、はい・・・」
「みんな外にいるわよ。」
「えっ?」
ロクは片足を引き摺りながら、恐る恐る独房を出ると、ダブルとバズーが待っていた。
「よう!少し痩せたか?」最初に口を開いたのはバズーだった。
「一時は銃殺じゃないかって噂も出てたんだぜ・・・死に損なったな?」とダブル。
「よせよ・・・ん?キーンは?」ロクはキーンが居ないのに気づく。
「あいつなら、親父さんとP7だ・・・」
「もう復帰してんのか!?」怒りにも似たロクの声。
「偽足がどうのこうのって、言ってたけどな。今朝P7へ向かったぜ。船の勉強をするって言ってたな。」
「そうか・・・あいつ・・・もう・・・」
「司令が取り合えずここを出たら、指令室に上がれってよ!」とバズー。
「おいおい、バズーも気が効かねぇな・・・ロクはまず行くところがあるだろ?なあロク?」とダブル。
「ああ・・・そうだな・・・」笑顔からふと寂しい表情になったロク。
P6の南ブロックの塀の側、ジプシーたちの共同墓地がある。すぐ側には高い風力発電機用の風車が音を立て回転していた。ロクはある墓の前にいた。日は西に傾いていた。
「ジプシーの墓にしてはよく出来てるじゃないか・・・ポリスしては奮発したな?」
墓はどこぞやのコンクリートの一部で、表面には“Natumi Kuwata”の文字が刻まれていた。
「遅くなったな・・・ごめん・・・」
ロクは墓に手を合わせていると、後ろから同じオペの我妻がやって来る。
「我妻・・・?」
「ロクさんが退院されたと聞いて・・・ここかと思い・・・」なにか思い詰めた我妻のセリフだった。
「ああ、まずここに来ないとな・・・なんか急用か?」
「い、いえ・・・私も勤務があって、ここ来るの初めてなんです。」
「そうか・・・バズーたちも立ち会ってないって言ってたな・・・」
「密葬だったようです。立ち会ったのも、司令と親父さんら数人だったらしく・・・」
「そうか・・・それも変な話だな?シンたちは軍葬で盛大にして送ったんだろ?なぜ桑田だけが・・・」
「どこぞやの参謀のジプシー差別・・・ってとこですかね?」
「ふっ・・・だろうな?」ロクは苦笑いする。
「ロ、ロクさん!?」我妻が突然、重い口を開いた。
「ん?」
「あの・・・桑田の件で、お話したい事があります!」
「・・・?」
ロクがよく来る南ブロックの塀の上。我妻とロクが階段で上がろうとしている。ロクは杖を付きながら必死に階段を上がっている。
「ああ・・・腹を撃たれてから、なぜか右足に来てしまってな・・・階段キツいな・・・」
「大丈夫ですか?」
「そうか・・・お前だったか・・・?」
「はい・・・桑田はロクさんの事が好きなのは分かっていたんですが・・・すいません・・・」
「おいおい、謝んなよ。俺らプロジェクトソルジャーは恋愛禁止だろ?いいんだよ俺の事は気にしなくても・・・」
「ロクさんは?桑田の事を・・・?」
「死んでから分かった・・・俺はなつみの事を、好きだったと思う・・・」
「ロクさん・・・」
二人は海を見ながら暫く黙ってしまった。
「あんまり近くにいて気づいてやれなかったんだよな・・・あいつの気持ち・・・」
「ロクさん・・・俺は・・・」
「俺が早く戦場で死んじまってたら、なつみも死なずに済んだと・・・今頃普通のジプシーの娘として幸せになれたんじゃないかって・・・お前みたいになつみを分かってやれる男が出来て・・・結婚して子供を産んで・・・俺が指令室なんかに勤務させたから・・・だから最近、その事を後悔ばかりしている。」
「そんな事ないと思います。あいつは、ロクさん側にいたから幸せだったと思います。死んでいいなんて言わないで下さい!」
「うれしいね・・・そんな事考えすらしなかったよ・・・」
「いつも隣にいたんです・・・ロクさんの無線を受けるあいつの笑顔が俺の救いでしたから・・・」
「お前・・・」
そう言うと我妻はロクの前で泣き出してしまった。ロクも涙を堪え、空を見上げる。
ロクはSCの整備室に来ていた。高橋と見慣れない若い女性のメカニックが二人でロクのカストリーを整備している。すると高橋はロクに気づき、作業途中でロクに近寄って来た。ロクも杖を付きながら高橋に近寄る。
「よお!くたばりぞこない!」
「はあ・・・」
「なんだ元気ねぇな!留守の間、ちゃんとお前のジャガーちゃんは整備してたぞ!」
「ありがとうございます!」
「お、お前に感謝されると、さ、寒気がする・・・ああ、紹介しよう。新しいメカニックのスミだ!」
「スミです。先日P7から配置になりました。SCは専門外で、主に砲座が担当で・・・」
「よろしく。」
「それと、お前とチビのオペも変わったぞ。もうそのチビがメロメロらしいがな。」
「聞いてますよ。ん・・・ガトリングバルカン変えましたか?」
ロクは自分のジャガーのバルカン部分が変わっているのに気づいた。
「はい!これ説明書です。」
すると角は、1枚のフロッピーディスクをロクに手渡した。
「なんだこれ?」
「読んでおいて下さい。」
するとロクは不機嫌になり角を睨んだ。
「俺のメカニックなら覚えておいてくれ。俺は機械音痴だ!」
「え!?」
角がびっくりして高橋の顔を見直す。すると高橋は無言で頷いていた。
「コンピューターも使えないし、それと俺は漢字は読めない!説明書は全部フリガナを入れていてくれ!」
「し、四天王と聞いて、浮かれていた私が馬鹿でした・・・」顔が引き吊るスミ。
「おいおい・・・それ、どう言う意味かな・・・?」
「なら・・・口頭で・・・今度のバルカンには自動追尾装置が取り付けています。」
「なんだそれ?」
「簡単なレーダーと思ってください。これが味方と敵を判別して、自動ロックオンを示してくれます。」
「便利だね・・・俺は何をするんだ?ボタン押すだけか?」
「元々、このバルカン・・・助手の仕事なんですから!運転しながら撃ちまくってるのロクさんとダブルさんくらいですよ!」
「そりゃどうも・・・」
「この装置のおかげでバッテリーは更に消耗しますんで、宜しくです。」
「ふーん・・・これがねぇ~」ロクはバルカンを撫でてみる。
なにか納得してないロクに高橋が追い討ちを掛けた。
「大丈夫だ!スミ!こいついつもテストなしでもやっちゃうタイプだから!」
「それは助かります・・・ついでにテスト走行もお願いしますね・・・」
そう言うと角は、隣の整備室に消えていった。
「船専門だったらしい。ここの勤務は不服の様子だ・・・最近の若いのは扱いにくいよ・・・」
「なるほど・・・時代って奴ですかね?」
黒豹隊の整備室。山口をはじめ、アキラの顔も見れる。各々自分の車を整備していた時だった。ロクが杖を付きながら入って来る。
「ロクさん!い、いや・・・隊長!」
「みんな元気そうだな?」
「なんか遠くへでも行ってたセリフっすねぇ・・・」とアキラ。
「遠くか・・・そうだな?・・・シンを見送ってくれたそうだな?ありがとう。式にも出れず・・・」ロクは深々頭を下げた。
「いえ、いいんです・・・それより、黒豹復帰でいいんですか?新しい隊長ってのが来ましてね・・・これがどうも・・・」
「新しい隊長?あらら、とうとう俺の居場所が無くなったか?」
「年下で生意気で、しかも女っすよ!」
「女?」驚くロク。
「聞いてなんですか?何でも昔、ロク班で隊長を救ったんだなんて偉そうに言ってましたがね・・・そんなの嘘ですよね?」
「誰が偉そうですって!?」突然後ろの扉が開いた。