その22 風使い
地下鉄トンネル内。キーンたちが準備を進める中、風我らP4の手勢が慌てた様子で彼らに合流する。
「ロク!悪い知らせだ!地上部隊から連絡。反対口のトンネルから敵兵が来る!」と風我。
「どうする?ロク?」とキーン。
「人数は?」
「10名程とバイクだ・・・始末するか?トンネル内では銃撃は不利だぜ?」風我は5人を見つめた。
「敵シップ到着までもう時間がない・・・やばいな?」焦るダブル。
「時間前に気づかれたら作戦はパーだ!」とバズー。
「バイクか?分が悪いな・・・」とキーン。
「反対側は、俺らが先頭に立つ・・・いいな?」無言のロクに対して風雅が意を決したように呟く。
「風我・・・」
ロクは風我の目を見つめた。
「ここは俺らの居場所だ。しかも今日帰るお前らに、無茶はさせられない!」
「駄目だ。危険過ぎる!敵が来る前にこいつを爆破しよう!最悪、敵の足を止めるだけでいいんだ!」
「ロク!後はこっちでやる!お前らはもう逃げるんだ!反対側に敵を招いたら逃げれないぞ!敵の足を止めても所詮時間の問題だ。多少のダメージを負わせたい・・・」
「しかし・・・」
「お前の言葉じゃないが・・・なんとかする!」
「・・・わかった!爆破班は続行だ・・・急げ!」
ロクは風我の言葉に、この作戦への決意を感じ取っていた。
同トンネル内。風我のP4隊数名はトンネルの中央分離体の柱に身を隠し敵を待ち伏せしていた。
「いいか?火器は使うな!トンネルが崩れたら逃げ道が無くなるって事だぞ!」風我が部下に指示を飛ばす。
そこに遠くからバイクの爆音が聞こえてくる。風我は頭に付けたインカムを口前にした。
「地上班?敵シップ位置は?」
『あと350メートルで塔の横です!』
「あと2分ってとこか?・・・キーン!ブースター始動!」
『了解!』無線のキーン。
キーンが地下鉄の予備電源のスイッチをオンにした。
すると風我隊の後方100メートルにあった、ブースターが音を立て起動し始める。その音は低音から高音へと変化していく。
「よし・・・行くぞ・・・」
風我はそう呟くと、中央分離帯より機関銃を迫出しバイク音が聞こえる方へ銃を乱射した。他の兵士も風我に続く。2、3台のバイクが倒れライダーたちはトンネル内に投げ出された。
スコーピオ艦橋。通信兵の一人がツヨシと両角参謀に叫んだ。
「トンネル内で銃撃!敵がいます!」
ツヨシは急に立ち上がり、他の兵らに指示を飛ばす。
「なに!直ちに艦を直ちに止めろ!急げ!」
「やはり居ましたな・・・」と両角。
「こうでないと面白くない・・・ビル内の兵を全て地下に送れ!地下のネズミたちを追い込め!」
ツヨシの命令でスコーピオは塔の前で停止した。
風我隊はトンネル内で、激しい銃撃戦となっていた。しかしジプシャン軍は後続の兵の導入で勢いを増す。8人いた風我隊も既に4人を失っていた。そんな中、風我のインカムに無線が入った。
『こちら地上隊!敵の船が予定ポイント前で停止しました!』
「くそっ・・・感ずかれたか!?こうなったら・・・ロク!?聞こえるか?」
『どうした!?』と無線のロク。
「敵シップは塔の前で停止した・・・こうなったらここでブースターを爆破する!」
『バカな・・・そんな事をしたら・・・』
「覚悟の上だ・・・みんな退避したな?」
『よせ!風我!』
「行くも地獄・・・戻るも地獄なら・・・俺は行く方を選ぶ・・・」
『風我ぁー!』
風我は100メートル先のエアーブースターに拳銃で狙いを定める。しかしその時、風我の横に敵の手榴弾が投げ込まれた。手榴弾はトンネル内で爆発を起こし、残ったP4の兵士たちの息の根を止めてしまった。
ロクはトンネル内を走りながらインカムに向かって叫んだ。
「おい!風我!?風我!?・・・くそっ!」
ロクは立ち止まると、もと来た道を戻ろうとする。陽やバズーに引き戻されてしまう。 バイクに乗っていたキーンもロクたちに合流した。
「ロク行くな!俺が戻って爆破する!」とキーン。
「キーン!」
「お前らは下がってろ!」
ジプシャンの兵らが恐る恐る風我隊に近寄る。風我を始め誰一人動かない。それを確認すると一人の兵が無線を持ちしゃべり始めた。
「トンネル内の敵は殲滅しました。」
『了解。続けてその先を検索しろ!』
「了解!しかし何の音だ?この音・・・」
スコーピオ艦橋。
「ツヨシ様!トンネル内の敵兵殲滅した模様です!」
「よし、船を出せ。」とツヨシ。
再び動き出すスコーピオ。
トンネル内。横たわっていた風我が再び目を開け始めた。風我の目にはエアーブースターに近づくジプシャン兵の後ろ姿が映っていた。風我はインカムを手にし、静かに語り始めた。
「ロ、ロク・・・き、聞こえるか・・・?」
『生きてたか?風我!?』
「ば、爆破するぞ・・・」
『何!?ま、待て!・・・キーン下がれ!』
『り、了解!』とキーン。
「ロク・・・か、風になれよ・・・」
『か、かぜ・・・?』
すると風我は最後の力を振絞って、拳銃をエアーブースターに向けた。
「あ、当たれ・・・」
風我の放った銃弾が、エアーブースターに命中する。トンネル内は今まで聞いた事がないほどの高音と衝撃波が轟く。
ロク側のトンネルにも凄まじい空気の流動と爆音が響いていた。身を伏せる5人。
スコーピオ艦橋。ツヨシは艦橋内で微かな微震と爆音を感じ取った。
「何だ!?この音は!?」
すると、進行方向左にあった死の塔と呼ばれるビルがゆっくりと傾いて来た。
「ぜ、全速だ!船に当たるぞ!」ブリッジの誰かが叫んだ。
「バ、バカな・・・」ツヨシは唖然となる。
ビルは艦橋の2倍程の高さだったが、船の左側、戦艦部分の艦橋部分に激突すると、船の艦橋部分の半分はへし折れてしまった。ビルは傾くものの、約15度の角度程傾いただけで停止してしまった。ビル倒壊までには至らなかったのだ。
タケシのいるP4方面指令室。タケシが中央の指令室に座り、8名程の兵士が動きまわっていた。そこに無線が入る。
「スコーピオにビルが激突!航行を停止しました!」と嶋。
「何だと!」
「死の塔です。戦艦部分の艦橋に激突との事。艦橋は上部が折れたとの事です。負傷者多数!」
「あそこには100名以上の兵を警戒させていたはず・・・それでツヨシは?」
「はい・・・空母部分の艦橋にいたらしく無事との事です。」
「さすがに悪運強いな・・・しかしまだP4は抵抗するのか・・・?こちらからは死神の部隊を送ると伝えろ!」
「ははっ!」
「ふん・・・まだP4にそんな力が残っていたとはな?やるじゃねぇか!?」
ロクら5人はある瓦礫のビルの屋上から、この船の様子を見ていた。街は夕方になり長い影を帯びてる。
「倒れなかったな・・・」とバズー。
「まあ、あれだけやれば上出来でしょ?そうだなロク?」とキーン。
「ああ・・・」ロクは得意そうに鼻の下を指で擦って見せた。
「クソッー!倒れれば船は真っ二つだったのによ・・・」悔しいそうなダブル。
「さあ、皆さま。帰りますよ?」陽は一人リュックを背負いだす。
「あばよキキ・・・」ダブルは軽く敬礼する。
「風になれ・・・か?」ロクは最後までその風景を見ていた。
P4が陥落したのは俺たちがP6に帰って3ヶ月程経ってからだった。最後はドームの天井を自ら爆破し、多数のジプシャン兵を地下に引きずり込んだという。
玉木司令の消息は不明だった。事実上のP4の玉砕と言えよう。現在P4はジプシャンの南方方面の主力基地として使われている。
あの死の塔も傾いたままで、今も倒壊してないそうだ。
俺はいつか玉木司令がひょっこりP6にやって来ると信じていた・・・
「ロクゥゥ・・・」
顔面血だらけの玉木が瓦礫の中から這いつくばって来る。玉木は血だらけでロクの足首を掴んだ。