その21 死の塔
「なんだ?ここにはガスでも吹き出るのか?」バズーが皮肉たっぷりでロクに問う。
「ああ・・・1000メートルも掘ればな・・・馬鹿!そんな時間あるかよ!?」一応ボケるロク。
「お前・・・倉庫のアレを使う気じゃ・・・?」と玉木。
「はい・・・貸してくれますか?」
ロクは甘えた顔で、玉木を見つめた。
暗闇の地下道をロク、バズー、キーン、ダブル、陽の5人が早足で移動している。その後ろにはいくつかの懐中電灯の明かりと、数名の兵が大きな荷物を押しているのが分かる。
回想。昨日のP4会議室。
「地下に電源はない。どうやって稼動するんだ?」と風我。
「この先に、旧地下鉄の緊急時の非常用電源装置がある!」とロク。
その荷物は、5人の兵士が大きいトロッコに乗せ線路上を押して移動している。高さ2メートル、幅3メートル程の布に包まれた物は、静かに移動中だった。
回想。昨日のP4会議室。
「30年前の発電機械だ。動くはずがないだろ!?」と玉木。
「先日、キキと行って確認している。バッテリーは残っています。あいつまだ動きますよ。短時間なら・・・」
ロクら先発隊は、天井を見上げると立ち止まった。
「ここだ・・・」とロク。
「さっさっと、上げるわよ!」と先輩たちをせかす陽。
「命令すんな!しかしこのデカ物・・・上がるか・・・?」
回想。昨日のP4会議室。
「もし・・・爆破させたとして・・・どうなる・・・?」
「半径80メートルは・・・骨も残らない・・・」
「正気か・・・?」と玉木。
トロッコが台ごと上に伸び始め、その荷物はトンネル天井近くまで上がった。
「コードお願い!」
荷物と一緒に上がった陽が、上から電流コードの束を投げ捨てた。
回想。昨日のP4会議室。
「剥き出しの機械だ・・・稼働中に銃一発でも食らったら・・・?」心配する風我。
「爆発させるんです!船に積む時のように、周りを鋼鉄の箱に囲ったら意味ないでしょ?」
「危険過ぎる・・・防音壁も使わずそのままだろ?・・・稼動時の音でばれてしまうだろ?」
「その前に、爆破させますよ・・・」
荷物の周りにあった布が取り払われる。 現れたのは剥き出しになった、サンドシップ用のエアーブースターだった。
回想。昨日のP4会議室。
「トンネル内の爆発は想定以上だ。下手したらトンネルごとお前らも潰されるぞ・・・」と玉木。
「覚悟の上です!」とロク。
「例えトンネルが残ったとして、そこを吹き抜ける爆風は計りしれない・・・長距離から操作しなければ・・・」と風我。
「聞いてなかったけど・・・誰が起動ボタン押すの?」天井部分からロープで降りてきた陽。
「リモートで遠隔でするんだよな?リモートで爆破・・・そうだなロク?」と自信満々のダブル。
「あれ?そんな便利な道具・・・うちにあったけ?」とぼけるロク。
「ああっ!?じゃあどうすんだよ?」慌て始めるバズー。
「俺が言い出したんだ。俺が押すさ!」とロク。
「起動はそれでいいですが・・・爆破は・・・?」
陽は心配そうに4人に問う。
「俺が銃で撃つ!」
「す、凄く・・・シンプル・・・」唖然とする陽。
「まあ、何とかするよ!」満面の笑顔で決めるロク。
「出た出た・・・」とダブル。
唖然とするロク以外の4人。
ジプシャン軍大型サンドシップ“スコーピオン”艦橋の司令官席に横柄に座るツヨシがいた。
「後500メートルも進めば、敵の本部真上のドームを砲撃出来る・・・」
その横にいた参謀の両角がツヨシに近寄った。
「しかし、このシップを通れるだけの道を、短時間でここまでよく整備しましたな?」
「そこはさすが兄貴と褒めちぎったわ!」自分の腕をポンポンと叩くツヨシ。
「さすがです。ツヨシ様・・・」一礼する両角。
「姉貴の口約束だと、ここは我が基地となる場所・・・出来れば破壊せず使えるものは使いたい。」
「さて・・・どうしたものか・・・?」
「噂では、ここの指揮は女らしい・・・和平を持ち掛け、逃がしてやりたいな。」
「タケシ様が聞いたら、そのお言葉さぞ驚くでしょうね・・・?」
「用は戦わずして勝てばいいのさ・・・」
トンネル内。
「あと10分で、敵シップがこの真上を通ると地上班から・・・」
「さぁーて・・・行きますか?」
「本当に一人で大丈夫か?」
「走って脱出するんじゃない。バイクだから大丈夫だよ。」
「よく、こんな直線の所を見つけてましたね?」
「キキの提案なんだ・・・エアーブースターもな!」
「そうか・・・ならその仕事俺がする!」
「おいおい」
「いや・・・バイクと狙撃なら俺の仕事だ。ロクのバイクの運転も心配だしな?昔から転んでるのしか見たことないぞ!そうだったなバズー?」
「確かにロクよりキーンだろうな・・・ロク?こいつの爆風は想像以上だ!狙撃もキーンが上だ!」とバズー。
「しかし・・・」
「キキの最後の仕事だ!ここは俺が・・・」諦めないダブル。
「ほんと・・・この4人の友情には敵わんなぁ・・・」4人の会話を聞いて呆れる陽。
「お前は黙ってろ!!」と4人。
「へいへい・・・」
「ここは俺に任せろ。なあロク?」とキーン。
「キーン・・・」
「さて・・・作戦も決まった事ですし、おいらは先に逃げますよ・・・」と陽。
「・・・ったく、ロク班は逃げ足だけは早いな?」とバズー。
「ふふふ、違いない・・・」とキーン。
スコーピオ艦橋。
「間もなく、死の塔の脇を通過!」
艦橋内に緊張感が走る。
「死の塔か・・・」窓際に立っているツヨシ!
「核の爆風も倒れなかった40階の建物・・・老朽化してはいますが、心配要りません。全軍を持ってこのビルの警戒に当たらせています。」両角も窓際に立つ。
「意外と何もなかったな・・・私がP4の将なら、このビルを利用していた・・・倒されていたなら、この船の進軍は相当遅れていたはずだ・・・」
「既にP4にそのような反撃する力はないかと・・・最近はもっぱらゲリラでの戦い・・・」
「追い込まれたネズミ・・・なんやらを噛むと言うし・・・」
「地下の階まで警戒を当たらせてます。心配ないかと・・・」
「この下に、旧地下鉄があったはずだ?」
「50メートルの深さです。数トンの爆薬でも影響はありません。しかも入口はどこもポリスによって封鎖されてます。不可能かと思われます。」
「数名でいい。誰か兵を当たらせろ!」
「ははっ・・・しかし・・・」
「念には念をだ・・・このまま向こうが黙るはずがない・・・」