その20 草原という名の希望
P4のある施設。白い壁に覆われ、青いライトに照らされた植物の苗のようなものがたくさん土に生っている。そこにロクと風我が入って来る。
「種?野菜のか?」と風我。
「いいや、野菜じゃない・・・なんて言うか、花とか木って言うか・・・」
「ここの農場プラントじゃ野菜くらいしかないな・・・」
「そんなんならP6にもあるんですよ・・・」
「植物好きなのか?」
「好きとかではないけど・・・ここに来たら植物の種があるって聞いたから・・・」
「種?ちょっと待ってろ。」
風我はその施設の端にある、一室に入るとある人物を捜した。
「先生?上田先生?」
すると70を超えたような老人が一人、ひょっこり野菜の間から顔を出す。
「聞こえてるぞ!なんだ!」
老人は不機嫌そうに風我に言い返した。
「ここに野菜以外の種ってありましたっけ?」
「風我か?種だと?何に使う・・・?」
すると老人は、部屋の端にいたロクを睨み付ける。
「ど、どうも・・・」
ロクは咄嗟に老人に挨拶をした。
「どうでもいいが、こいつらに照明をあてる事も出来ないのか?最近すぐ電気が止まる!」老人は野菜プラントの件で風我を叱り始める。
「すいません、敵の爆撃が多く、ソーラーパネルばかり狙われてしまいます。」
「壊してないぞ。奴等はパネルを剥がしては、味方のSCや船に取り付けてるのじゃろ?」
「ま、まあそうなんですが・・・」
「電気がなければ、水も汲みあがらない。土も掘れないじゃないか?P4も時間の問題じゃの?」
「はあ・・・」
「種はどうするんじゃ?」と老人。
すると、風我はロクに助けを求めた。ロクも風我の無言の態度を察して慌てて答えを探そうとする。
「いえ・・・あのう・・・P6の者なんですが・・・荒野を草原に出来ないかと思って・・・はい・・・」
「・・・草原じゃと・・・あんな荒野に植物なんて生えんよ。何を言っているんだ!?」
「いえ・・・下の土を掘り返したら、野菜だって出来るじゃないですか?花や木だって出来ると思うんですが・・・」
「ああ、確かに出来るよ。土を800メートルも掘り起こせたらな。」
「800メートルですか!?」
「そうじゃ!ここの野菜の土800メートルから掘り起こしたもんだ。それ以上は土さえも汚染されている。出来ても食えんぞ!」
「なら、育つんですね。花や木!?」
「確かに育つ・・・しかし800メートル以下の土じゃ。P6の者と言ったな小僧?P6は植物など生えんよ。」
「なぜです?」
「あそこは核が3発落ちたと聞く・・・放射能の汚染もP4近郊より深い所まで来てるはずじゃ・・・」
「核・・・」
「あそこには、旧多賀城の陸上自衛隊駐屯地、苦竹、松島、また塩釜の第二海保基地など戦前では要だった。敵としては厄介な箇所じゃ・・・」
「はあ・・・」
「しかし、なぜあそこの街並みは戦前のままの形をしているのじゃ・・・」
「昔から、街は神が守っていると言われています。」
「そんなもんは迷信じゃ。タマばぁなら何か知っているじゃろ!」
「タマさんが・・・」
「それと、野菜以外の種じゃったな・・・これはどうかな?」
その老兵が取り出したのは、黒い大粒の種だった。
「何の種ですか?」
「さぁな?何かの花かもしれん・・・ここは野菜しか育てないからのう・・・生えないかもしれんぞ・・・それでもいいか?」
「はい。ありがとうございます!」
P4のある廊下で、風我とロクが歩いている。
「変わったじいさんだろ?ここの昔のコック長でな。今じゃああやって野菜と格闘中だ。いつの間にかなぜかみんなに上田先生って呼ばれるくらいの地位に就いちまった・・・」
「ああ、確かに・・・しかし、草花の種がまだあるとは思わなかった・・・」
「それ?どうする気だ?」
「さあな?でも一回は見てみたかったんだ・・・花や緑を・・・」
「そうか・・・大陸にはまだあるらしいぞ花や緑・・・」
「大陸って、西の大陸か!?北の大陸か!?」ロクの目が輝く。
「う、噂ではな・・・誰も見たこともないしな。」
「そうか・・・大陸にはまだあるんだ・・・」
「大型の船でも作んないと大陸には渡れねぇぞ。」
「船か・・・P6のレヴィアじゃ無理かな・・・?」
「某国の原子力潜水艦を逆さにした、ポリス最初の水陸両用艦か・・・」
「ああ、その前に船酔い克服しないと・・・」
「ははは、違いない!」
「・・・怖くないか?風我?」ふと我に返るロク。
「ああ?・・・ああ・・・怖いな・・・追い詰められた魚?そんな気分だ・・・」
「俺たちと来ないか?」
「馬鹿を言うな。仲間は見捨てない!」
「・・・と、言うと思った・・・」
「短い間だったけど一緒に戦えて、嬉しかった。年下から学んだのは初めてだからな・・・」
「こっちこそ。気配を消して後ろにまわる・・・とうとう盗めなかった。」
「簡単だ・・・自分が風になる事だ・・・」
「ほんとか?・・・そう簡単に言うよな・・・」
「ふははは・・・そうか?・・・・・・死ぬなよ?ロク?」
「ああ・・・風我もな?」
P4指令室。玉木と風我に加わってP6の5人もいる。あるパネルに手書きした地図を見ていた。
「この廃墟ビルですが・・・」
ロクはある箇所を指差していた。
「確かに・・・ここを爆破したら、敵シップは進むのが困難・・・しかし・・・」と風我。
「瓦礫なんて、すぐ片付けられちまうぞ・・・」とキーン
「通る前に爆破するんじゃないです!通る瞬間を爆破します。」
「む、無茶だ。敵もそれくらいは読んでいるぞ!しかも核の爆風ですら倒れなかったビルだ。基礎もそれなりだ。時間、爆薬とスタッフ、テクニックがいる。しかもこの辺は既に敵の守備範囲だ。陸戦で行く事も困難だぞ!」
「風我の言う通りだ。今の我々では、ここに辿り着く事も出来ない。」と玉木。
「司令?無理っすよ!うち班長、一度言ったら引きませんから・・・」
「陽・・・」陽を睨むロク。
「へいへい・・・黙ってます、黙ってます・・・」
「ロク?何か手はあるのか?」とバズー。
「P4は以前からモグラ部隊の異名を持つ穴掘りの部隊・・・地下から行きましょう。」
「地下?同じ事だ、奴等地下階まで警戒している!」と玉木。
「地下は地下でもこの旧道路沿いの真下・・・地下50メートル下の地下鉄跡だ・・・」
「地下鉄・・・?」
「はい・・・道路下を爆破してもシップを落とす穴も作れない。ただこの地下鉄の横穴を爆破すればビルの基礎を破壊できます。ビルは自分の重みで傾く!」
「地下50メートルの下の空洞だぞ!一体何キロの爆薬がいると思ってんだ!?」とバズー。
「ロクよ?その作戦じゃ、恐らく数百キロ、いやトンの単位の爆薬がいる。ここが最後の時に自決用の爆薬合わせたって500キロも用意出来ないぞ!しかも明日には敵シップはそこを通過するんだろ?準備不足だ!」ロクの作戦を全面否定する玉木。
「なあ?タマさん?バズー?誰が爆薬で地下を爆破するって言ったかな?」
「なに!」玉木は不敵に笑うロクの顔に驚く。