その19 帰還命令
P4の指令室。雛壇の上で玉木とロクが話している。
「キキは残念だった・・・」玉木がロクを慰める。
「いえ・・・それでダブルの処分ですが・・・?」
「前も言ったが君らはP6の預かりだ。私に権限はないよ。」
「それでは・・・?」
「聞かなかった事にする・・・それだけよ!」
「ありがとうございます・・・では今後の作戦ですが・・・」
「待って。会わせたい人がいるの。会議室へみんなを集めて!」
「はあ・・・??」ロクは戸惑いながら玉木について行く。
P4の会議室。ロク、バズー、キーン、ダブルが座って待っている中、玉木、風我とロク班にいた陽が入ってくる。
「陽?」ロクは驚いた。
「おお、陽じゃねぇか“よう”!?」バズーが声を掛けた。
「あら?4人ともご無事ですね。バズーさん?今の笑えませんから・・・」鼻を高くしてバズーを見つめる陽。
「バ、バカ・・・シャレじゃねぇよ!」
「一人か?陽?」とロク
陽に詰め寄る4人。そこに玉木が口を挟んだ。
「さっきここに着いたのよ。」
「さすが次期四天王候補ですね?この包囲網を単独で来るとは・・・」と風我。
「単独だからですよ・・・それで他のメンバーは?」
「死んだ・・・」とバズー。
「キキさんや?他のメンツは!?」
「・・・」首を振るロク。
「そうですか・・・一番残って欲しくない4人が残りましたね。また出世しそこねました。」
「お前な・・・」バズーがその言葉に怒り出す。
「それで?何の用だ?ここに来た理由だ?」ロクが問う。
「はい・・・親父さんからです。残存部隊に帰還命令が出てます。」
「帰還命令?P4はどうするんだ?」バズーが詰め寄る。
「そう、私に言われても困ります・・・私は命令を伝えに・・・」
突然の帰還命令にロクたちは戸惑った。
「タマさん・・・?」
「そうね・・・そろそろ君らも帰る頃よね?どう?風我?」
「はい・・・私もそう思います。」
「タマさん・・・風我・・・」ロクは二人に助けを求めた。
「間もなく、ここは陥落する。無駄死にはしないでP6に戻りなさい。まだ若いんだから死ぬ事はない・・・」と玉木。
「我々も最後まで戦います!」
「最後までここに残らせて下さい!」バズーとキーンが直訴する。
「居させて下さい!お願いします!」ロクも二人に続く。
「駄目よ!君ら命令を無視する気?明日この子と帰りなさい!足は用意しておく。いいわね?」
「タマさん・・・」
そう言うと、玉木と風我は会議室を出て行った。気の抜けた4人を見つめる陽。
「何かあったんすか?」と陽。
「ほっとけ!」とバズー。
「へいへい・・・」
P4の指令室。司令席に玉木が座っている。何か疲れた様子だ。そこにロクが一人でやって来る。玉木は、ロクの表情にいち早く気がついた。
「ロク・・・無理よ!命令は変わらないわ!」
「しかし・・・」
「ここは、あとは我々が守る。いい?」
「タマさん・・・」
「今、もう800人も居ないけどね・・・あんたじゃないけど何とかする。うふっ!」
玉木はあえてロクの言葉を使って無理に笑って見せた。
「一緒にP6へ行きましょう!?」
「無理な作戦ね。今の現状を見なさい。敵の軍服全員分調達出来る?」
「何か他に手はあるはずです!」
「P4の私の命令も聞けないの!?」
「こことP5、P6の戦力があればまだまだポリスは・・・」
「P4にはP4の意地がある・・・ここのみんなそのつもりなの・・・ここまで応援来てくれただけでも感謝する。ただこれからこの国の未来を作るあなたたちまで、死なせたくはないの。分かってロク・・・」
「タマさん・・・」
「いい?生き抜くの・・・分かったロク・・・?」
ロクは玉木の強い意志を感じ、両手に握り拳を作りまともに玉木の顔を見れなかった。
P4会議室。ロクを除いたP6のメンバーがいた。
「途中までバイクか?」バズーは陽に問う。
「はい。郊外までは徒歩、それからSCです。北の死神の部隊はだいぶ南下しており手薄です!」
「P5やP6の援軍は来ないと踏んでいるな。タケシらしい考えだな・・・」とキーン。
「で・・・?うちの班長の考えは?」
「あいつは納得出来ないんだろな?撤退は・・・」とキーン。
「ああ、あの豚や牛の缶詰が食えないと思うとちょっと残念だがな・・・」とバズー。
「おいおい、そっちですか?」呆れる陽。
「さあ帰る準備だ!ダブル!?」
「ああ・・・」
陽はダブルが気を落としている様子が気になった。
P4の薄暗い個室。ベットが一つだけおいて他に何もない。陽はシャワーでも浴びたのかバスタオル1枚を裸に巻いてくつろいでいる。そこにドアをノックする音がする。
「どうぞ!」
すると、ロクが入って来る。ロクは陽の無防備の姿を見て、少し慌てた。
「何か羽織れよ・・・」
「あれ?気に入りませんか?これでもなつみの貧乳よりいいと思いますが?まだ女として見てくれるのは嬉しいですが?」
陽は、わざとバスタオルを下にヅラすと、ロクの目の前に胸の谷間を強調し挑発した。
「お、おい・・・」
ロクが大したリアクションも取らなかったので、陽は髪を梳かしながら、諦めてベットに腰掛けた。
「班長は男女関係なく隊員を見てくれると聞いてましたが?」
「キキか?」
「はい・・・ここに配属する時、キキさんから鉄則を教わりました・・・昨日ですか?キキさんが亡くなったの?」
「ああ、その事だがあまりダブルを構うなよ?」
「そんな嫌な女じゃありません!でもみんな・・・よく戦った方ですね?」
「四天王の座が欲しいお前の言葉じゃないな・・・」
「まあ、ちょっとガッカリですがね・・・」
「本音か・・・それで向こうは?」
「こっちはいいですね?毎日のようにシャワーが浴びれる。水が豊富で綺麗ですね?濁った水が出る向こうはまだまだ平和なもんですよ・・・こっちから比べたら・・・あっそうそう・・・なつみから伝言が・・・」
「な、何だ?」なつみの名前に過敏に反応するロク。
「お土産・・・忘れないで下さいね・・・って言ってましたかな?」陽はわざとなつみの真似でロクに報告する。
「ああ、いけねぇ・・・すっかり忘れていた・・・」
「彼女も能天気ですね?今ではすっかり指令室の人気者ですよ。まるでこっちの現状なんか知らないのに・・・お土産の催促ですか?何を考えてるんだか・・・?」
「そう言うなよ・・・そう言えば、なつみと同い年だったか?」
「ええ、訓練校時代から、ロクさんに通っているのを何度か見てます。一時スパイ説まであった・・・まあ友人にはしたくないタイプですね・・・」
「馬鹿な事言ってないで、明日のお前の作戦を聞かせろ?」
「一人で入るのは楽でしたが・・・5人での脱出か・・・厳しいですね。いっそ一人づつ行動した方が楽ですわ・・・」
陽はようやく、バスタオルの上から制服を着始めた。一瞬、バスタオルが外れ全裸に近い格好になったため、ロクは目線を逸らした。
「な、なんにせよ、夜に動くしかなさそうだな?」慌てるロク。
「班長のプランは?」
「出来るだけ敵を引き付けたい・・・これがP4の最後の作戦になるだろうからな・・・」
「お得意の中央突破ですか?今度ばかりは無理無理ですよ。しかも5人ですよ・・・素直に脱出だけを考えて下さい。タケシって奴・・・噂通りですからね。二度と同じ手は喰わないでしょうね?」
「北は兵を置いてないって聞いたが?」
「はい・・・まるでP5、P6の援軍はもう来ないと敵は察してますね。」
「昨日のキキとの偵察で、一つ分かった事があるんだ。」
「はあ・・・?」
「帰るなら、ジプシャンに手土産ぐらい置いていかんとな・・・」
「手土産ですか・・・?」
「俺たちがいたという証拠だよ・・・」
ロクは陽に不敵に笑ってみせた。