その11 妖艶なる女総帥
仲がいいのか悪いのか・・・?
ロクと高橋の端から見た関係である。親子程歳が離れている二人は、いつも喧嘩しているように周りからは見えていたのだ。
数あるエピソードにこんな話がある。ロクは昔から好奇心旺盛の新しいもの好きで、テスト車があれば、まず自分が先に乗らないと気がすまないタイプだった。
そんな折、高橋が製作中のテスト車を、ロクが無断で乗り回した事があった。高橋はもちろん激怒し、反省しないロクに対し、仕返しにロクの当時のSCにたくさんの電飾をこっそり付けたことがあった。しかしロクはこのド派手になったSCで平然と出撃し元に戻す事はなかった。それが、逆に高橋を怒らせる結果に終わった。
また同様な事で、ロクの今のスタイルを決定付けた秘話がある。
それは、今度ばかりと高橋はロクのSCにあえて黄色と黒の縞模様の塗装をこっそりしておいた時があった。戦場では迷彩色が主流の時代に、あえて目立つ塗装をしてやったのだ。さすがに、この報復だけはロクも反省するだろうと思った高橋だったが・・・しかし、この仕返しもロクは「戦場で目立つ!」「敵の目を引き付けられる。」とあっさり受け入れてしまい、いつの間にか自分のカラーにしてしまった。
それ以降、ポリス内ではこの黄色と黒の斜め縞は、ロクカラーと呼ばれ恐れられた。が・・それ以降そのカラーを誰も真似する者はさすがにポリスからは出てこなかった。
「で・・・今度は、赤と白ですか?」
最初は、蒼くなって驚いて見せたロクだが、芝居なのかすぐにこやかにこう返した。
「そんなに、気になるなら自分で見に行けよ!」
「はい。分かりました。ただ司令に呼ばれていますので、後にします。失礼します!」
ロクはそう言うと、自分の車が置いておる車庫に向かわず、指令室の方に続くエレベーターに駆け込んだ。すると高橋は不敵な笑みを浮かべてロクの背中を見つめていた。
「ロク・・・今度こそ吠え面かかせてやるからな・・・」
指令室の自動ドアが開く。ロクが一礼して入ってきた。ドアのすぐ脇には、我妻や柳沢などの顔が見れる。
「入ります!」
ロクは指令室の雛壇の階段を一気に駆け上がると、そこには2人の黒い軍服を着た男がいた。一人は、朝方ロクを見送った老人が立って、もう一人は25から30歳くらいの若い男性が座っていた。ロクは二人の前で直立し敬礼をする。
「黒豹隊、ロク以下3名。只今ジプシー保護より南方より戻りました!」
「ご苦労!・・・で?」
若い男は自分の席に座り、パソコンをいじりながらロクに目を合わす事無く答えた。
「保護は男2名、女2名の家族。それとジプシャンと思われる捕虜1名です。」
「俺の聞きたいのはそこじゃない。ジプシャンの脱走兵か?ジプシーかだ?」
「自分では、脱走兵と言っておりました!」
その言葉に後ろにいた、老人が口を挟んできた。
「ここに来る前に、もうそこまで吐かせたのか!さすがロクだ!な!?弘士!?」
「じいちゃんは、黙っててくれないか・・・それで?男とその家族らは?」
老人はその言葉に、再び沈黙した。
「先程、ダブルに引き渡しました。捕虜はキーンに引き渡してます。」
「で・・・?形式な報告はいい。ロク・・・お前の本音を聞かせてくれ?」
「はい司令・・・我々の保護の同時刻にすでにジプシャンと思われる追手がこの者に近づき、暗殺を謀ろうとしました。」
「それが捕まえた捕虜か?」
「はい・・・ジプシャンの追手の早さは尋常ではありません。どうしても、我々に保護されたくはなかった・・・殺してまでも・・・そう感じましたが・・・」
「ただの脱走兵ではない・・・という事だな?」
「かなり位の高い幹部と思われます。」
「了解した。ダブルに伝えよう。それと暫く、この家族を一般のジプシーと隔離する。護衛も付けろ!24時間だ!トップクラスで扱ってやれ!」
「了解です!」
「吐かせれる物は全て吐かせろ!手段は選ばない!」
「それは俺の担当では・・・」弘士の勢いに負けそうなロク。
「そうだったな?ご苦労だった。下がってよし!・・・あ!そうそう、高橋技師長から試験車についてクレームが来てるが、これはどういう事かな?」
「それは・・・その・・・ねえ?」老人の顔を伺うロク。
慌てて老人が再び口を挟んだ。
「それは、わしの報告が遅れたんだ。そうだな?ロク?」
「は、はい・・・」
助け船を出す久弥。ロクはうまく話を合わせる。
「相変わらず、じいちゃんはロクにだけは甘いな・・・」
「ロクはお前同様、この久弥の孫だからのう!」
「ロク!いい理解者がいて良かったな?」
「は、はぁ・・・ははは・・・」素直に笑えないロク。
「それとどんな出撃の際も、俺には連絡しろ!いいな?」
「ロクはお前の体を気を使って・・・」と久弥。
「それは不要だ!連日の戦闘でみんな疲れている。俺に気遣いはいい。わかったな?連日の戦闘の指揮で疲れただけだ・・・」
「・・・」色白の弘士表情を黙って見つめるロク。
「ロク、勝手にこのポリスを出るなよ?寝ていても構わんぞ!」
「了解しました・・・司令!」
重苦しい状況に早くここを出たかったロクは、二人に素早く敬礼し雛壇を降りていった。すると、ロクが入って来たドアの側に桑田が立っていた。桑田は制服ではなく作業着を着て、顔の所々に油汚れが付いている。
「ロクさん、ご無事で・・・」
「ああ。腹減ったな・・・昼飯がまだでな。」
「カ、カストリーを整備してたんですが、技師長がですね・・・」
「聞いたよ!」
「そうですか・・・では早速・・・」
「取り合えず、食事だ、食事・・・」
ロクは桑田の肩をポンと叩くと、指令室を早々に出て行ってしまった。桑田はロクの行為に顔を少し赤らめ下を向いている。そこへあの老人がやって来る。
「おやおや?桑田さん?規則をお忘れかな?」
「おやじさん!分かってます。分かってます。分かってますよ。分かってますって・・・分かってますから!」
「それならいいんだがな・・・」
桑田はロクが去ったドアを暫く見つめていた。
『こりゃあ、相当重症だな・・・』
久弥は制帽を取ると髪の手をかき始めた。
ヒデと丸田が数名の兵士にボディチェックを受けている。
「こっちに来い!」
ヒデと丸田は、2名の機銃を持つ兵士の案内で、ある一室に連れて来られた。固い岩を採掘したのだろう、周りが岩がむき出しのままになっている。四隅にはろうそくが点けられ、奥には一つの席が用意されていた。
「そこに跪け!」
銃を持った兵に、脅されるように二人はその部屋の中央に跪いた。
丸田は、物珍しく周りを見渡した。
「こんな格好しないと会えない相手かよ?どんだけ偉いんだ~?ここが本当にジプシャンの本部なのか?まるで洞窟だな?」小声でヒデに囁く。
「さあな?俺も初めてだし、前回はリキ一人だったしな。しかし、この中は意外と涼しいな?」
「さあて、総統やらといよいよご対面か・・・」
よく見ると、部屋の左右の端には何かの液に入った男性の生首が5体づつ、円柱のガラスに入れられ飾られていた。
「ヒデ?これ誰の首だよ?それにしても趣味悪いな?夢に出そうじゃないか・・・?」
「ポリスの四天王・・・かな!?」
「ま、まさか・・・?それにしちゃあ皆、柔なガキみたいな顔してやがるじゃないかよ?」
ガラスの中の生首は、全て目を閉じ音もなく、二人を見ているようでもあった。すると部屋の奥の通路から何名かの足音が聞こえてくる。
「頭を下げろ!」
後ろにいた銃を構えた兵の言う通りに、二人は床に手を付き頭を下げた。 誰か部屋に入ってくる気配に、更に深く頭を下げる二人。数名の足音が部屋に響く。
「お前らか?リキの手の者という奴等は?」
「は、はい!」
「構わぬ!面を上げろ!」
ヒデと丸田は頭を上げると、そこには先程の座席に一人の女性が座っていた。
「私が、ジプシャン軍総帥の土井寛子だ。」
『お、女が総帥かよ・・・?』寛子の姿にヒデは驚いていた。