その18 四天王誕生
「お前がいて、なんでキキを守れなかったんだぁー!?」
ロクは魘されながら悪い夢から覚めた。
現在のP6。ロクの独房。ロクはベットから飛び起きていた。そばにあったコップの水を一口飲むと、額の汗を制服で拭き去る。するとロクの独房のドアを叩く音が聞こえる。
「はっ、はい・・・?」
『魘されていたようだが・・・?』
声の持ち主はキーンだった。ロクは片足を引きずりながら急いでドアに近寄った。ドアの小窓から見えたのは、車椅子に乗ったキーンと、松井の姿があった。
「ロクさんに会うってきかなくて・・・」と松井が笑う。
「どうせ退屈してると思ってな?」
「足、大丈夫なのか?」とロク。
「ああ・・・おい、二人だけで話がしたい。」
「はあ・・・」
キーンは後ろの松井に話しかける。松井がその場を離れていくのを確認すると、ドアの側までキーンは近づいた。
「なんなら、ここ開けてやろうか?」小声のキーン。
「ふふふ、馬鹿言うな。出ようと思えばこんな扉、いつでも出れるぞ・・・」小声で返すロク。
「相変わらず、頑固だな?」
「それで・・・艦隊司令だって?」
「おお?どうしてそれを・・・?ああ高田さんか?」
「さあな?」
「気をつけろ。今度は高田女医がスパイって噂だぞ・・・」
「かもな?」
「わはははっ。知ってたか?」
「ああ・・・」
二人は心から笑っていた。しかしロクはキーンの足を見ることが出来ない。
「まあ、その報告もあってここに来た。」
「指令室でもいいじゃないか?嫌なのか?」
「根っからのソルジャーだぜ。死ぬなら荒野だな・・・」
「そうだな・・・」
「まだ痛むのか?」
「少しな・・・なぜか足に来ちまって・・・歩くのはしんどいな。」
「バズーの話だと、お前は無罪で済むらしいぞ。」
「ほぉー!それはありがたい。銃殺じゃないかと夜も寝れなかったが・・・」
「嘘付け!どうせ親父さんが救ってくれると思っていたろ?」
「ああ、少なくとも今度こそP7へ島流しだろうがね。」
「そりゃいい!船酔いも克服するな。ああ新しいオペが入ってきた。ダブルは既に指令室に入り浸りだ。美人らしいぞ。無事に黒豹復活ならお前の担当だ!」
「果たしてすんなり偵察隊に帰れるか・・・?それで黒豹に戻ってもダブルに怒られそうだな?」
「違いない。“ロクの野郎またおいしい所を・・・”ってか?」
「ハハハ・・・さっきな、キキの夢を見ていた。」
「そうか・・・」
「あの時さ・・・もしキキが・・・」
ロクの言葉に察したキーンがすぐ割って入る。
「キキの死で、みんな強くなった!」
「えっ!?」
「ダブルには悪いが、あの時キキが教えてくれたんだよ。そして今の四天王が居る・・・」
「キキが・・・?」
「悪い時間だ・・・戻るぞ・・・まだリハビリ中でな。また来るよ。」自分で車椅子を動かしていくダブル。
「ああ・・・」
3年前のP4の地上。辺りは夜になっていた。月光もなく、真っ暗な瓦礫の街をロクとキーンとバズーの3人が立っている。風が強く3人のポンチョが風になびいていた。3人の目線の先には、いくつかのコンクリートの破片で作られた墓標があった。その一つにカタカナで“キキ”と書かれている。
「奴は?」バズーはいないダブルを捜した。
「まだ泣いてるんだろ?ほっとけよ・・・」とキーン。
「とうとう、4人だけになったな?ここで何人死んだんだ?」とロク。
ロクもまだ悲しんでいる様子で、キキの墓をまともに見ることが出来ない。そこに遅れてダブルがやってきた。
「おせぇぞ・・・」
「るせぇよ!」ロクと目を合わさないダブル。
「さあ始めるか・・・?」それを察したキーン。
「ああ・・・」
4人は墓の前に跪き、各々黙祷を始める。するとロクが一人声を出し始めた。
「もっと・・・強くなる・・・」
その声に、黙祷途中でダブルは目を開け、隣のロクを見つめる。すると今度はキーンが呟いた。
「俺たちは、もっともっと強くなるからな・・・」
ダブルは次はキーンの方を向く。するとダブルがまた騒ぎ始めた。
「なんだよ・・・?お前ら・・・まるで今の俺たちが弱いみたいじゃねぇか!?」
すると黙祷を終わったバズーが立ち上がり、ダブルに近づく。
「おい!」
「あんだよ?」
バズーはダブルの腹部を右拳で殴った。両足が浮くほどのバズーのパンチは、夜の瓦礫街にダブルを這いつかせた。
「ごほっ・・・ごほっ!何しやがる、この野郎!」
「弱いんだよ。特にお前が!」バズーがダブルの前に仁王立ちする。
「な、なんなんだよ!?どいつもこいつも!」
「キキは妊娠していた・・・お前だろ?」とキーン。
「に、妊娠って・・・本当かロク?」
「ああ・・・」
「遊びにここに来てるんじゃねぞぉ!この野郎っ!」とバズー。
「キキ・・・」
「キキはP6に帰ったら引退するつもりだった・・・」とロク。
「引退って・・・ソルジャーをか?」
「ああ・・・」
するとダブルは、這い蹲りながら大声を出し泣き出した。
「キキ・・・なんでだ!?キキ・・・なんで・・・?」
「拳銃を預かった・・・一つはお前の分だ・・・」
ダブルは泣きながらロクから拳銃を受け取ると、拳銃を抱き締め屈み込み再び泣き始めた。
「プロジェクトソルジャーが人前でな・・・」
バズーが再びダブルを叱ろうとした時、ロクは無言でバズーを止めた。
「泣かせてやれよ・・・」
するとダブルは、泣きながら3人を見上げた。
「お前らは・・・お前らは悲しくないのか・・・?仲間が死んで悲しくないのか?」
「仲間が死んで、悲しくない奴がどこにいるんだ!?」
バズーが、初めて自分の気持ちをダブルにぶつけた。4人とも黙ってしまう。
「絶対、強くなってやる!」とロク。
「強くなれば誰も馬鹿にしない・・・」とキーン。
突然、ロクとキーンが思い出したように口ずさんだ。
「ダブル・・・もっともっと強くなろう・・・死んでいった奴らの為にも・・・」とダブル。
すると、ダブルは立ち上がりキキの墓に正対した。ダブルはいつの間にか泣き止んでいた。
「ああ・・・強くなってやるよ・・・キキの為にもな・・・」
4人はいつまでもキキの墓を見つめていた。