その16 キキの引き際
ロクたちがP4に入り、半年余りが過ぎようとしていた。P4とジプシャンの戦いは泥沼状態に入っていた。ロクの命令で、陽とボムら若い兵らは一度、P6に戻っていた。残ったのは3期のメンバーだったが、既に残もライも戦死していた。P4に残っていたのは、ロク、キーン、バズー、ダブル、キキの5名だけだった。戦いは既に勝敗はついていた。ジプシャンは、P4の上の瓦礫を払いのけ、大型サンドシップを通れる程の道を完成させていたのだ。
あるP4地区廃墟街。ロクとキキが闇の街を、身を低くして走り抜ける。キキは小さなカバンを手にし、ロクは片手に拳銃を持っていた。あるビルの陰に来ると、恐る恐るビルの反対を覗き込むロク。そこにあった物は、戦艦と空母を足した奇妙なサンドシップだった。右半分部分は空母、左半分部分は戦艦。角度は30度くらいの傾斜で交わりエックスの形で繋がっている。軍艦とはいえ、他のサンドシップと同じで、海面に隠れるであろう部分がなく、エアーブースターの仕様になっている。ロクはそのサンドシップを目撃すると、度肝を抜かれていた。
「お、大きい・・・」とロク。
「ジプシャンの新型シップね・・・」とキキ
「よくこれだけの物を調達したな?しかも、こんな瓦礫の箇所まで進入している・・・」
「ロク、早くP4に知らせないと!」
「ああ、行こうキキ!」
「うん・・・」
『敵だ!!』
ロクとキキがその場を立ち去る時だった。前方からライトが当たり、敵兵の声が聞こえてきた。ロクとキキは慌てて、瓦礫の街中を暗闇に向かって走り出す。何発かの銃声が二人の足元をかすめた。体勢を崩しながらも、瓦礫の街を走り抜ける二人。ロクは後方の敵を確認すると、敵が巨大なロケットランチャーを、まさに今発射しようとしていた。
「ヤ、ヤバイ・・・」
発射されたロケット弾は、真っ直ぐ二人の方に飛んで来た。ロクは間一髪で、そのロケット弾を拳銃だけで打ち落とす。しかし、ロクとキキの寸前で爆発したため、二人は爆風に巻き込まれてしまった。ロクはキキをかばいながら横転する。見詰め合う二人。
「平気か?」
「う、うん・・・」
「走るぞ!」
「ええ・・・」
ロクは、キキを抱き起こすと、再び夜の瓦礫の街を走り出した。
敵の銃撃が聞こえなくなった所で、二人は走るのを止めていた。キキは後方を気にして、ロクは前方を警戒していた。キキがふとロクの方を見ると、ロクの左肘辺りから出血しているのを見つける。
「ロク!あんた怪我してるんじゃない!?」とキキ。
「ああ・・・さっきの、爆風で・・・大したことないよ。」
「駄目よ・・・」
キキはカバンから包帯と薬品を取り出すと、ロクの腕の制服を捲くり始めた。
「ちょっと、皮がめくれただけだよ。」
「これのどこがちょっとよ!」
キキは慌てて、傷口を圧迫する。ロクは右手で拳銃を握りながら、辺りを警戒していた。ロクの二の腕に包帯をキツく巻き始めるキキ。ロクとキキの顔が近づき、たまたま目が合う二人。少し照れてみせるロク。
「な、なによ・・・?」キキもロクの行動にやや慌てた。
「べ、別に・・・」
するとキキが突然、口に手を当て嘔吐し始めた。
「おい?キキ?どうした!?」
キキの嘔吐は止まらず、体勢を低くしながら嘔吐し続けた。ロクはキキの背中を擦りながら嫌な予感をしていた。
「キキ・・・お前・・・まさか・・・?」
ようやく顔を上げ、ロクに苦笑いをするキキ。
P4司令室。玉木の前に、ロクだけが直立して立っている。
「敵サンドシップは、旧山の手ラインに迫り・・・」
「あら?敵も毎日毎日精が出るわね・・・」と玉木。
「あと1キロも進めば、ここは射程距離範囲内です。砲撃されます!」
「敵の砲弾じゃ、ここの天井ドームは破壊出来ないわ。」
「しかし・・・」
「下がっていいわ。怪我もしてる様子だし・・・」
玉木は、ロクの左腕の怪我を見つけた。
「は、はい・・・それとタマさん・・・ご相談が・・・」
「ん?何?また無茶な作戦?」
キキが医療室で検査を受けている。それを見守る玉木とロク。キキがその中から出て二人の側にやって来る。玉木はロクに問いかけた。
「そんな事まで見抜いちゃうの?P6のプロジェクトソルジャーたちは、そんな事まで訓練校で習うのかしら?」
「か、勘ですよ・・・」
女性スタッフが1名、玉木の側に来て、黒いボードを手渡した。その中身を見つめる玉木。
「うーん。こんな時、おめでとうって言った方がいいのかしら?三ヶ月よ~」
その言葉に、ロクは渋い顔をし、キキは下を向き黙ってしまった。
「誰なの?父親?あんた!?」
「な、なんで!?」慌てるロク。
「そうよね。あのおチビちゃんよね?」
「・・・」キキは黙ってしまった。
「私はP4の司令であって、あなたらの直属の上官ではない・・・さてどうしたもんかねぇ・・・?」
「すいません・・・」なぜか謝るロク。
「うちの兵士なら、ソルジャーなら禁固なのよ・・・」
「す、すいません・・・」頭を下げるキキ。
キキとロクが、P4内のドーム広場を見渡せる長い廊下の窓際に立っている。二人で広場側を見ていた。
「まったく・・・P6なら禁固もんだぞ。タマさんが女だから、理解してくれたようなもんだ!」
「ごめん・・・黙ってて・・・」うつむくキキ。
「ダブルには、話したのか?」
「まだよ・・・」
「タマさんは、もう戦場に出るなと言うが・・・どうするんだ?」
「昔から思ってたんだけど・・・プロジェクトソルジャーって、辞めれないのかな?」
「今まで生きて辞めた奴、いたっけ?」ロクは目だけ上を向く。
「私・・・女として産んじゃいけないのかな?」
「お、俺に聞くなよ・・・」
「こんな時、ホーリーならなんて言うんだろ・・・?」
「そうだな・・・きっとダブルを張り倒したろうな?」
「こんな相談は、いつもホーリーだった・・・」
「あの時ホーリーに初恋の話をされ・・・正直、面を食らったよ。」
「ずっと、片思いだったのよ?気づかなかった?」
「お前らを、今までそんな風に見た事なかったし・・・」
「あら?そんなに私たち魅力ないかしら?」
「そういう意味じゃない・・・何て言うか・・・仲間としか思ってなかったから・・・」
「ロクに、恋愛の話は無意味ね・・・昔から鈍感なんだから、この人は・・・それにロクにはもう決めた人がいるようだし?」
「お、俺の事はいいだろ!それより、ダブルになんて言うんだ?」
ロクは要らん事を言われ焦った。
「う、うん・・・私から話す・・・この子とこれからの二人の事も・・・だからみんなには暫く黙っててくれないかな?特にバズーには?」
「そうだな・・・奴に知れたら事だ・・・」
すると、館内に警報が鳴り響いた。続いて館内放送が流れる。
『敵がBブロックに侵入!繰り返す!敵がBブロックに侵入!各戦闘員は・・・』
「やばい・・・俺らがさっき帰ってきた入口だ!」
「逃げれたんじゃない!逃がされたんだわ・・・」
ロクとキキは指令室に走り出した。
「敵ながらジプシャンは凄いな。おい!一緒に行く気じゃねぇよな?キキは、今回は大人しくここに居ろ!」
「あら、どうして?まだプロジェクトソルジャーよ!しかも名誉あるロク班のね?」
「まったく・・・うちの班は、どいつもこいつも言った命令は聞かないよなー!」
「だって班長が班長ですもん!」満面の笑顔のキキ。
「後方支援だけだぞ!いいな?」呆れるロク。
ロクはキキを言い聞かすように、やや大きめの声でキキに言う。
「はいはい・・・」
「さーて・・・」
「行きますよ!」ロクのセリフを奪う満面のキキ。