その15 十字砲火
「おい!?ロク?ある意味、囲まれてないか!?」
バズーの声が焦っていた。
「読まれていたか・・・」
「後方は、我々が押さえます!」
すると、ボムは3名の若い兵を引き連れ、さっきまでいたビル方面
に走っていく。
「正面!銃声からして差ほど多くない!」とキーン。
「しかし、こう出口が狭いと・・・」とロク。
爆破で開いた高速の幅は、僅か5メートル程。その狭さの先に、敵がどのくらい居るのかは分からない。
「俺が切り込む!後は任すぞ!ロク!」バズーが立ち上がった。
「おいおい!死にたいのか!?」とロク。
「やばいよ、左右の敵の隊も動いている!このままだと囲まれちまう!」とキキ。
「可能性は前進の方だ。プロジェクトソルジャーが、後退して死んだとあっては、後世の後輩らに笑われちまうぜ・・・」
「バズー・・・」
「ここは、俺とキーンで行く。後は任せたぞロク!」
「そのセリフ・・・無茶すぎるぞ!敵の数も分からんのに・・・」
「その方が、燃えるんだよな・・・行くぞキーン!」
「おおっ!」
その瞬間だった。後方の敵バイク隊辺りから、連続爆破が起きる。バズーやキーンたちも後方を見つめた。
「て、敵が攻撃を受けている!」キキが後方を確認する。
「P4?・・・まさか・・・?」
よく見ると敵バイク隊に混じって、赤いヘルメットに赤いライダースーツを着装し、バイクに跨る5名程のライダーを見つける。ロクはすぐに誰か分かった。
「あいつ・・・」
5台の赤いバイク隊は、ジプシャンのバイク隊の後方を突き、隊列を崩して行く。
「味方か?」とバズー。
「ああ・・・陽だ・・・」
呆れるロクを尻目に、5台のバイク隊は敵を蹴散らすとロクらの近くまでやって来る。すると一人が“右へ回れ”のサインを送った。
「ロク班め・・・いつもいい所を・・・」とダブル。
「バズー行こう!右だ!」
「ああ!」
瓦礫の街を走り出すロクたち。
現在・・・ロクの独房。ロクは点滴を受けながら、ベットに横たわっていた。そこに独房のロックが外れ、高田女医が入って来る。ドアの所には、機関銃を構えた兵が立っていた。
「どう?体調は?」
「それより、ここは退屈です・・・」
「キーンは、車椅子でここに来るって言っているけど、どうする?」
「会えるんですか?」
「ドア越しならね。」
「また現場に復帰するって言ってません?」
「話によると、レヴィアの第2艦隊を任せられるようよ。」
「レヴィア・・・第2艦隊?どういう事です!?」
「詳しくは本人に聞いて。関根のせいでスパイ疑惑は、医療室に向けられてるの。」
「船乗りかい・・・?」溜め息の混じりのロクの声。
ロクの点滴を代え始め、腹部の包帯を外し始める。
「驚異的な回復ね!さすがプロジェクトソルジャーね!」
「早く銃を撃たせてください・・・」
「ふふふ・・・見張りの兵士によると、夜魘されてるようね?」
「ええ・・・昔、死んで行った仲間の夢ばかり見ます。」
「あんたみたいなベテランでも?新人の兵には多いんだけどな・・・安定剤を出しておくわ。」
「あんな薬を飲むと、目が裏返るって聞いてますよ?」
「うふふ・・・まあマレにね・・・」
「ゲッ?本当なんだ?」
「ちゃんと飲むのよ。」
「へいへい・・・」
高田が独房を出て行く。ロクは笑顔だったが、また寂しい顔に戻ってしまった。
再び3年前。P4内の大きな丸い広場。天井は高く、巨大な鉄のドームで出来ている。証明が当たらない、その広場の一角をロクが一人歩き出している。するとそこにキキが走りながら近寄ってきた。
「捜したわ。いつも一人で行動するんだから・・・」
「悪い・・・武器を見ていた。」とロク。
「葬儀・・・いつも途中で居なくなるんだね・・・?」
「すまん・・・昔から苦手で・・・」
「ホーリーもイブも無事に終わったわ・・・まさかイブが生きていたなんてね・・・残念だわ看取れなくて・・・」
「あの長髪切ったの、最後まで恨んでたな・・・」
すると、さらにそこに陽がやって来た。
「班長?タマさんがお呼びです。」
「今、行く。それと陽?」
「何か?」
「ありがとう・・・」
「い、いえ・・・」
ロクの突然の言葉に、戸惑う陽。ロクは一人P4の司令室に向かう。取り残された二人。
「誉められたのかな・・・?」頭を下げられた事に驚く陽。
「でも怒ってるみたいよ・・・あなたたちの命令違反は・・・」とキキ。
「でも結果的には、みんなを救った・・・」
「だから、怒れないのよ・・・彼の優しさよ。」
「指揮者には不向きですね・・・でもロクさんも、命令違反は常習犯とよく聞きますが?」
「彼を、叱れるのは参謀の数名だけよ・・・」
「もっとプライドの高い方だと思ってました・・・」
「そんな事ないわ。仲間の為に命を張る。3期はそんな連中が多いわ。」
「仲間ですか・・・」
「部下を亡くしたの。あんまり彼を責めないでね・・・」
「はぁ・・・」
ロクの去った方向を見つめる陽。
P4の大きな食堂。風我を中心に、P6の兵士たちが食を囲んでいる。ほとんどが缶詰の食材。しかし兵たちの目は輝いている。
「缶詰しかありませんが・・・どうぞ。」
風我の言葉が終わるやいなや、缶詰に喰らいつく兵士たち。
「これが・・・夢にまで見た牛の缶詰か・・・」とバズー。
「おい!こっちには果物もあるぜ!」キーンも興奮気味。
「なんだ!初めての味だな!」とダブル。
皆、夢中になって缶詰を頬張る。中にはスプーンを使わず手で頬張る物もいた。
P4司令室。玉木が司令室に腰掛けている。そこにロクが入ってくる。
「入ります!」
「ロクか・・・さて、これからどうしたもんかねロク?」
「ポリス最大の規模と言っても、ここにはろくな武器がないんですね?」
「ああ・・・ここは、元研究施設だからな。」
「あの武器の量・・・反撃出来ない理由がようやく分かりましたよ。」
「命掛けで来てくれたのは感謝している。悪いことは言わない。早めにP6に戻るがいい。」
玉木は後ろを向きながらロクに呟く。
「タマさん・・・」
「ある程度、ここに就任した時から覚悟は決めていた。ここではジプシャンには勝てない・・・」
「ここを放棄しましょう!P6に行きましょう!まだP5の力だって・・・」
「残念だけど、それは出来ない。3000人はいるの・・・すでにここは、東西南北は囲まれてるわ。入るのも困難だけど、今となっては逃げるのも困難ね・・・」
「しかし・・・」
「あなたたちもここに来るだけで、たくさんの犠牲が出た・・・サンドシップがここの中心地に入ってくるまでは時間が掛かる。所詮、向こうもこうやって白兵戦しか仕掛けて来ないわ。だが船が入ってきたら、そうはいかない。ここは砲撃されて終わりよ。悪い事は言わないわ。早くここから脱出しなさい。」
「タマさん・・・それは・・・」
ロクは玉木の決意を感じ取っていた。そして戦局はポリス不利と傾いていった。