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四天王  作者: 原善
第五章 カラー・フィールド
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その12 ポリス裁判

 現在のP6。地下3階の取調室。左手から点滴の管を通し、両手には手錠を掛けられたロクが机の前に座らされていた。取調べ室のロクの後方2隅には機関銃を構えた若い兵士が2名配置されていた。ロクは天井にある、カメラを意識したまに小言をぼやいていた。

「司令?今日は誰が担当ですか?」


 弘士の姿はないのに、ロクはカメラに向かって呟いていた。その都度、後ろの若い兵たちは銃を構え直す。

「何にもしねぇよ。見ない顔だな?ポリスか?」


 ロクは一人の兵に話しかけたが、兵は何も答えない。逆に兵は一歩怯んだ。

「あらら・・・そんなに怖いかね?俺?」

 するとドアが開き、入って来たのは久弥だった。

「今日は、親父さんですか?」

「午後P7に戻る。暫くはP7でな、ロクに会っておこうと思い。」

「ここにいると、夜か昼かも分からないです・・・で、死龍は?」

「意識は戻った。ただ重症ではある。吐血も多くなっている。」

「治らないなら、解き放してはどうです?」

「出来ん・・・」

「死龍は何を調べていたんです?」

「ミュウだ・・・」

「ミュウ?ミュウの何を?」

「そこまでは分からない。取調べ中だったしな。」

「死ぬんだな?・・・死龍は?」

「ああ・・・」

「くっ・・・」


 ロクは目の前の机を叩いた。

「プロジェクトソルジャーのトップで四天王まで昇った戦士だぞ・・・なぜベットで死なす?」

「死龍は、もう戦えん・・・」

「分かってる・・・しかし死に際ぐらい与えてやれよ。なぜそれがポリスには分からないんだ?」

「ロク・・・」

「キーンはどうした?」

「既にリハビリを始めている・・・」

「そうか・・・」


 その会話を最後に、二人は暫く黙り込んだ。

「ヒデだが・・・」久弥が重い口を開く。

「捕まったらしいな?」

「今、ポリス裁判で反逆罪で、銃殺と決まったよ。」

「そうか・・・いつだ?」

「30日後だ・・・」



 曽根参謀が、ヒデの独房の前で立っている。手には黒いボードを持ち、独房のわずかな小窓から中のヒデを見つめている。

「元プロジェクトソルジャーのヒデ、本名秀則。ポリス反逆罪で銃殺と処する。」


 ヒデは曽根を見ることもなく、床に座っていた。やがて曽根の姿は見えなくなる。

「いらなくなったら、殺すのか!?ジプシャンと同じだな!?」



 再び3年前。どこぞやの長い廊下をロクと女性が歩いている。ロクはポリスの新しい見慣れない戦闘服に戻っていて、女性は久弥や弘士と同じ黒い軍服だった。年齢は50歳前後。


「敵の軍服を着てたんで、撃つとこだったと報告があったが?」

「すまない・・・それでイブは?」とロク。

「容態は危ない。内出血が酷くてな・・・ジプシャンは女子供でも容赦はしないようだな?」

「助けて欲しい。頼む・・・」

「全力を尽くすよ。それと、何人かの“遺体”を確認して欲しい。」

「遺体?」

「顔がなく。ドッグ・タグもない者ばかりでな・・・」

「わ、わかった・・・」



 二人が入ったのは、ある遺体安置所。ロクはその遺体の数に驚き、声にならなかった。

「これ・・・全部か?」

 そこに並べられた遺体の数は30体近く。ストレッチャーに乗せられた遺体にすべて首がない。しかもP6の戦闘服ばかりだった。

「全員制服はP6のものだろ?」

「な、なぜこんな事を・・・?」ロクは絶句した。

「トンネル内が20名近く。後は場所こそ違うが、地上で発見された。武器も装備、食料すら取られてない。全員、首とタグだけだ。」

「ぜ、全員P6のプロジェクトソルジャーだ・・・」

「確認もしないでなぜ分かる?」

「仲間を見間違えるはずがない・・・」

「そうか・・・」


 するとその遺体安置所に男が入ってくる。ロクに銃を突きつけた男だ。

「司令!?彼女の容態が・・・」

「司令って?あんたP4の・・・?」

「玉木よ。司令って呼ばれるの嫌いなんで、タマさんでいいわ。」

「はぁ・・・」

「こっちよ。」

 3人は急いで、その場から出て行く。



 ある病室。イブがベットの上で苦しんでいる。そこにロクと玉木が入ってくる。

「どうか?」と玉木。

 医者のような男がイブの横に立っているが、顔を横に振る。

「助けてください!先生!」

 ロクの声が聞こえたのか、イブはゆっくりと目を開けた。


「ロク・・・私の銃はあなたが・・・」

 イブは必死の力でロクに手を差し伸べる。ロクもイブの手を両手で受け止める。

「もう、しゃべるなイブ!」

「最後に、仲間に会えて良かった・・・一人で死ぬと思っていたから・・・」

「イブ・・・」

「一人で死ぬの嫌だった・・・墓も建てられないのよ・・・」

「もう・・・喋るな・・・」


 イブの言葉が、ドンドン小さくなっていくのがロクは感じ取っていた。

「私の、自慢の長い黒髪・・・切ったの・・・許さないから・・・」

 イブは、笑顔でロクに話すと、持っていたロクの手を離してしまう。

「イブ!!イブ!!」

 医者がイブの元に近寄り、瞳孔を見ると側にいた玉木に首を横に振った。


「ロク・・・」玉木はロクの肩に手を掛けた。

 ロクは、イブの側で跪いたままイブの側を離れなかった。泣きたかったのだろうが、玉木と医者の前では涙を堪えていた。



 ロクと玉木は長い廊下を歩いていた。

「せっかく敵基地より救ったのに、残念ね。」

「彼女は10年の付き合いでしたから・・・」

「まあ、看取られて死ぬなんて彼女も幸せだったんじゃないかな?ここでは瓦礫の名もない墓ばかりよ・・・」

「まだ、近くに仲間がいます。助けに行きたいのですが?」

「なら、夜にしてちょうだい。敵にここの入口を教えるようなもんよ。」


 すると、右手の廊下の壁がガラス窓になり、円状の広い施設が見えてきた。

「こ、これは?」

「P4の中心にあたるわ。」


 ロクのいた所は、その広い施設から数えてビル6階部分。その廊下は500メートル先の反対側にも緩いカーブで繋がっている。見えてきた円状の敷地は直径500メートルの屋根のある、丸い空間だった。その敷地にはコンテナや、SCがたくさん並べられ、たくさんのポリス兵が動いていた。天井は遥か高く、たくさんの照明でその施設は照らされていた。中央には電波塔なのか、屋根まで高い鉄塔が建てられている。

「P4も丸いんだな・・・?」

「あら?どこもこういう作りでしょ?そうかP6は上に街があるのよね?」

「はい・・・他のポリス入るの初めてで。」

「P6は魚がうまいと聞くが?」

「はい。海が近いですし・・・え?ここは何を食べてるんですか?」

「他のポリスの補給品が多いわね。まあ最近では缶詰ばかりだけど・・・久弥じいは元気なの?」

「はい。もう現役は退くらしいです。孫の参謀が、新司令に就任されると思います。」

「あの、坊やがね?そのお父さんには、よく世話になったけど・・・」


「ご存知ですか?」

「多賀城の自衛隊基地では一緒だったの。いい男だったわ。あんな事件に巻き込まれるなんて・・・」

「事件?」

「う、ううん。何でもないわ。忘れて・・・来なさい。ここの指令室を案内するわ。」

「は、はい・・・」



 P4の指令室。雛壇の作りはP6によく似ている。兵は20名程が詰めていた。そこに玉木とロクが入ってくる。前列の兵士らは敬礼で迎えた。二人は雛壇を上がり、一番上まで上がった。そこには、ロクに拳銃を突きつけた男が一人モニター監視をしていた。歳は20歳くらいでロクよりも体格が小さかった。その男は、玉木が上がって来るのを見ると、立ち上がって敬礼をする。玉木とロクも敬礼で返す。


「紹介まだだったわね?うちの唯一の四天王の風我ふうがよ。」

「風我です。その節は・・・」

「P6のロクです。」

「噂は聞いてます。ポリス最速の男“疾風のロク”と・・・」

「私も聞いてますよ。P4の幽霊・・・と。」ロクは照れながら答えた。

「自分は気に入ってないんですがね・・・そのニックネーム・・・」

「いえ・・・人に後ろを取られたのは初めてなんで、正直ゾッとしましたよ。味方で良かったと・・・」

「彼女が必死で止めてなければ撃つとこでしたけどね?作戦とはいえ、敵の制服を着るのは危ないですよ。」

「ああでもしなければ、敵のキャンプには入れませんでした・・・」

「タケシめ・・・意外と近くに張っているな・・・」と玉木。

「タケシって?ストラトスのタケシですか?」

「そうです。あの場所から、どのくらいの所か分かりますか?敵の場所を知りたい。」

「1キロくらい南に走ったかな・・・?」


「奴の事だ。もう別の場所に移動してるよ。」と玉木。

「そうですね。その辺は一流でしょうね?」

「なら、あいつ?タケシだったのかな・・・?」

「会ったのか?奴に?」

「指令室みたいなとこに、一人でいたんで何とも・・・」

「まあ、なんにせよ。さすがその若さで四天王になった人ですね。ねえタマさん?」

「そうだな?タケシらがここに攻めに来て、あんたは初めての援軍だからな。」笑顔の玉木。


「そ、そうなんですか?」

「タケシって野郎も、敵ながらなかなかだと思うわよ。」と玉木。

「あの首切りは一体何を意味するんですか?」

「さあね?ジプシャンも変わったわよ。昔は正々堂々と正面から来る戦いだったんだけどね?トップが代わったと聞くけどね?」と玉木。

「まあ、同じ“風”が付く者同士。宜しく頼みますよ!」と風雅。

「はあ・・・そう言えば、他の3名さんは?」

「うん・・・先日の艦砲射撃の際に、亡くなってな・・・」

「そうでしたか・・・」

「SCもサンドシップも走れない街です・・・ここを攻略するジプシャンには、まだまだ負けれませんよ!ねっ?タマさん!」

「はい・・・頑張りましょう!」


 その時、指令室のサイレンが鳴り響いた。

「何だ?」玉木が叫んだ。

「北24ブロックで爆破確認!」

「近くじゃないか?ロクの仲間じゃないか?」

「恐らく・・・」顔をしかめるロク。

「戦況は?」

「爆破の所を中心に、敵の歩兵部隊に囲まれてます。」

「敵バイク部隊も確認!」

「厳しいねぇー。死神もかい?」と玉木。



 P4北24ブロック。バズー班とダブル班が合流をしていたが、ジプシャン軍のバイク隊に四方を囲まれていた。瓦礫のビルから両方向に向かって機銃を撃ちまくるダブルとバズー。

「おい!ダブル!なんで死神連れて来るんじゃあ!?」バズーが叫ぶ。

「知るか!バズーこそなんでこんな敵のど真ん中にキャンプ張ってるんだ?」応戦中のダブル。

「いや・・・ロクがね・・・その・・・」


 そこにキーンが入って来る。

「何揉めてんだよ!?北も敵だ!完全に囲まれてる!」

「ロクの野郎が、単独行動ばかりしてるからこんな事に・・・」


 そこにホーリーとキキが入って来る。

「はいはい、人のせいにしないのね・・・」とホーリー。

「そうそう!敵の本部に行けと言ったのはバズーでしょ?」とキキ。

「確かにそう言ったけど・・・」


 すぐ側で爆発が起きる。全員一斉に伏せる。そこにバズーのインカムに無線が入る。

『P4にSOSを流してますが、応答ありません!』


「打ち続けろ!P4はなぜ助けに来ないのか・・・?」バズーは焦っていた。

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