その12 ポリス裁判
現在のP6。地下3階の取調室。左手から点滴の管を通し、両手には手錠を掛けられたロクが机の前に座らされていた。取調べ室のロクの後方2隅には機関銃を構えた若い兵士が2名配置されていた。ロクは天井にある、カメラを意識したまに小言をぼやいていた。
「司令?今日は誰が担当ですか?」
弘士の姿はないのに、ロクはカメラに向かって呟いていた。その都度、後ろの若い兵たちは銃を構え直す。
「何にもしねぇよ。見ない顔だな?ポリスか?」
ロクは一人の兵に話しかけたが、兵は何も答えない。逆に兵は一歩怯んだ。
「あらら・・・そんなに怖いかね?俺?」
するとドアが開き、入って来たのは久弥だった。
「今日は、親父さんですか?」
「午後P7に戻る。暫くはP7でな、ロクに会っておこうと思い。」
「ここにいると、夜か昼かも分からないです・・・で、死龍は?」
「意識は戻った。ただ重症ではある。吐血も多くなっている。」
「治らないなら、解き放してはどうです?」
「出来ん・・・」
「死龍は何を調べていたんです?」
「ミュウだ・・・」
「ミュウ?ミュウの何を?」
「そこまでは分からない。取調べ中だったしな。」
「死ぬんだな?・・・死龍は?」
「ああ・・・」
「くっ・・・」
ロクは目の前の机を叩いた。
「プロジェクトソルジャーのトップで四天王まで昇った戦士だぞ・・・なぜベットで死なす?」
「死龍は、もう戦えん・・・」
「分かってる・・・しかし死に際ぐらい与えてやれよ。なぜそれがポリスには分からないんだ?」
「ロク・・・」
「キーンはどうした?」
「既にリハビリを始めている・・・」
「そうか・・・」
その会話を最後に、二人は暫く黙り込んだ。
「ヒデだが・・・」久弥が重い口を開く。
「捕まったらしいな?」
「今、ポリス裁判で反逆罪で、銃殺と決まったよ。」
「そうか・・・いつだ?」
「30日後だ・・・」
曽根参謀が、ヒデの独房の前で立っている。手には黒いボードを持ち、独房のわずかな小窓から中のヒデを見つめている。
「元プロジェクトソルジャーのヒデ、本名秀則。ポリス反逆罪で銃殺と処する。」
ヒデは曽根を見ることもなく、床に座っていた。やがて曽根の姿は見えなくなる。
「いらなくなったら、殺すのか!?ジプシャンと同じだな!?」
再び3年前。どこぞやの長い廊下をロクと女性が歩いている。ロクはポリスの新しい見慣れない戦闘服に戻っていて、女性は久弥や弘士と同じ黒い軍服だった。年齢は50歳前後。
「敵の軍服を着てたんで、撃つとこだったと報告があったが?」
「すまない・・・それでイブは?」とロク。
「容態は危ない。内出血が酷くてな・・・ジプシャンは女子供でも容赦はしないようだな?」
「助けて欲しい。頼む・・・」
「全力を尽くすよ。それと、何人かの“遺体”を確認して欲しい。」
「遺体?」
「顔がなく。ドッグ・タグもない者ばかりでな・・・」
「わ、わかった・・・」
二人が入ったのは、ある遺体安置所。ロクはその遺体の数に驚き、声にならなかった。
「これ・・・全部か?」
そこに並べられた遺体の数は30体近く。ストレッチャーに乗せられた遺体にすべて首がない。しかもP6の戦闘服ばかりだった。
「全員制服はP6のものだろ?」
「な、なぜこんな事を・・・?」ロクは絶句した。
「トンネル内が20名近く。後は場所こそ違うが、地上で発見された。武器も装備、食料すら取られてない。全員、首とタグだけだ。」
「ぜ、全員P6のプロジェクトソルジャーだ・・・」
「確認もしないでなぜ分かる?」
「仲間を見間違えるはずがない・・・」
「そうか・・・」
するとその遺体安置所に男が入ってくる。ロクに銃を突きつけた男だ。
「司令!?彼女の容態が・・・」
「司令って?あんたP4の・・・?」
「玉木よ。司令って呼ばれるの嫌いなんで、タマさんでいいわ。」
「はぁ・・・」
「こっちよ。」
3人は急いで、その場から出て行く。
ある病室。イブがベットの上で苦しんでいる。そこにロクと玉木が入ってくる。
「どうか?」と玉木。
医者のような男がイブの横に立っているが、顔を横に振る。
「助けてください!先生!」
ロクの声が聞こえたのか、イブはゆっくりと目を開けた。
「ロク・・・私の銃はあなたが・・・」
イブは必死の力でロクに手を差し伸べる。ロクもイブの手を両手で受け止める。
「もう、しゃべるなイブ!」
「最後に、仲間に会えて良かった・・・一人で死ぬと思っていたから・・・」
「イブ・・・」
「一人で死ぬの嫌だった・・・墓も建てられないのよ・・・」
「もう・・・喋るな・・・」
イブの言葉が、ドンドン小さくなっていくのがロクは感じ取っていた。
「私の、自慢の長い黒髪・・・切ったの・・・許さないから・・・」
イブは、笑顔でロクに話すと、持っていたロクの手を離してしまう。
「イブ!!イブ!!」
医者がイブの元に近寄り、瞳孔を見ると側にいた玉木に首を横に振った。
「ロク・・・」玉木はロクの肩に手を掛けた。
ロクは、イブの側で跪いたままイブの側を離れなかった。泣きたかったのだろうが、玉木と医者の前では涙を堪えていた。
ロクと玉木は長い廊下を歩いていた。
「せっかく敵基地より救ったのに、残念ね。」
「彼女は10年の付き合いでしたから・・・」
「まあ、看取られて死ぬなんて彼女も幸せだったんじゃないかな?ここでは瓦礫の名もない墓ばかりよ・・・」
「まだ、近くに仲間がいます。助けに行きたいのですが?」
「なら、夜にしてちょうだい。敵にここの入口を教えるようなもんよ。」
すると、右手の廊下の壁がガラス窓になり、円状の広い施設が見えてきた。
「こ、これは?」
「P4の中心にあたるわ。」
ロクのいた所は、その広い施設から数えてビル6階部分。その廊下は500メートル先の反対側にも緩いカーブで繋がっている。見えてきた円状の敷地は直径500メートルの屋根のある、丸い空間だった。その敷地にはコンテナや、SCがたくさん並べられ、たくさんのポリス兵が動いていた。天井は遥か高く、たくさんの照明でその施設は照らされていた。中央には電波塔なのか、屋根まで高い鉄塔が建てられている。
「P4も丸いんだな・・・?」
「あら?どこもこういう作りでしょ?そうかP6は上に街があるのよね?」
「はい・・・他のポリス入るの初めてで。」
「P6は魚がうまいと聞くが?」
「はい。海が近いですし・・・え?ここは何を食べてるんですか?」
「他のポリスの補給品が多いわね。まあ最近では缶詰ばかりだけど・・・久弥じいは元気なの?」
「はい。もう現役は退くらしいです。孫の参謀が、新司令に就任されると思います。」
「あの、坊やがね?そのお父さんには、よく世話になったけど・・・」
「ご存知ですか?」
「多賀城の自衛隊基地では一緒だったの。いい男だったわ。あんな事件に巻き込まれるなんて・・・」
「事件?」
「う、ううん。何でもないわ。忘れて・・・来なさい。ここの指令室を案内するわ。」
「は、はい・・・」
P4の指令室。雛壇の作りはP6によく似ている。兵は20名程が詰めていた。そこに玉木とロクが入ってくる。前列の兵士らは敬礼で迎えた。二人は雛壇を上がり、一番上まで上がった。そこには、ロクに拳銃を突きつけた男が一人モニター監視をしていた。歳は20歳くらいでロクよりも体格が小さかった。その男は、玉木が上がって来るのを見ると、立ち上がって敬礼をする。玉木とロクも敬礼で返す。
「紹介まだだったわね?うちの唯一の四天王の風我よ。」
「風我です。その節は・・・」
「P6のロクです。」
「噂は聞いてます。ポリス最速の男“疾風のロク”と・・・」
「私も聞いてますよ。P4の幽霊・・・と。」ロクは照れながら答えた。
「自分は気に入ってないんですがね・・・そのニックネーム・・・」
「いえ・・・人に後ろを取られたのは初めてなんで、正直ゾッとしましたよ。味方で良かったと・・・」
「彼女が必死で止めてなければ撃つとこでしたけどね?作戦とはいえ、敵の制服を着るのは危ないですよ。」
「ああでもしなければ、敵のキャンプには入れませんでした・・・」
「タケシめ・・・意外と近くに張っているな・・・」と玉木。
「タケシって?ストラトスのタケシですか?」
「そうです。あの場所から、どのくらいの所か分かりますか?敵の場所を知りたい。」
「1キロくらい南に走ったかな・・・?」
「奴の事だ。もう別の場所に移動してるよ。」と玉木。
「そうですね。その辺は一流でしょうね?」
「なら、あいつ?タケシだったのかな・・・?」
「会ったのか?奴に?」
「指令室みたいなとこに、一人でいたんで何とも・・・」
「まあ、なんにせよ。さすがその若さで四天王になった人ですね。ねえタマさん?」
「そうだな?タケシらがここに攻めに来て、あんたは初めての援軍だからな。」笑顔の玉木。
「そ、そうなんですか?」
「タケシって野郎も、敵ながらなかなかだと思うわよ。」と玉木。
「あの首切りは一体何を意味するんですか?」
「さあね?ジプシャンも変わったわよ。昔は正々堂々と正面から来る戦いだったんだけどね?トップが代わったと聞くけどね?」と玉木。
「まあ、同じ“風”が付く者同士。宜しく頼みますよ!」と風雅。
「はあ・・・そう言えば、他の3名さんは?」
「うん・・・先日の艦砲射撃の際に、亡くなってな・・・」
「そうでしたか・・・」
「SCもサンドシップも走れない街です・・・ここを攻略するジプシャンには、まだまだ負けれませんよ!ねっ?タマさん!」
「はい・・・頑張りましょう!」
その時、指令室のサイレンが鳴り響いた。
「何だ?」玉木が叫んだ。
「北24ブロックで爆破確認!」
「近くじゃないか?ロクの仲間じゃないか?」
「恐らく・・・」顔をしかめるロク。
「戦況は?」
「爆破の所を中心に、敵の歩兵部隊に囲まれてます。」
「敵バイク部隊も確認!」
「厳しいねぇー。死神もかい?」と玉木。
P4北24ブロック。バズー班とダブル班が合流をしていたが、ジプシャン軍のバイク隊に四方を囲まれていた。瓦礫のビルから両方向に向かって機銃を撃ちまくるダブルとバズー。
「おい!ダブル!なんで死神連れて来るんじゃあ!?」バズーが叫ぶ。
「知るか!バズーこそなんでこんな敵のど真ん中にキャンプ張ってるんだ?」応戦中のダブル。
「いや・・・ロクがね・・・その・・・」
そこにキーンが入って来る。
「何揉めてんだよ!?北も敵だ!完全に囲まれてる!」
「ロクの野郎が、単独行動ばかりしてるからこんな事に・・・」
そこにホーリーとキキが入って来る。
「はいはい、人のせいにしないのね・・・」とホーリー。
「そうそう!敵の本部に行けと言ったのはバズーでしょ?」とキキ。
「確かにそう言ったけど・・・」
すぐ側で爆発が起きる。全員一斉に伏せる。そこにバズーのインカムに無線が入る。
『P4にSOSを流してますが、応答ありません!』
「打ち続けろ!P4はなぜ助けに来ないのか・・・?」バズーは焦っていた。