その11 イヴ
ロクはバイクで走行中、複数の足跡がトンネル内から消えたのに気づく。バイクのスピードを落としよく観察すると、左手に長い階段が伸びているのに気づく。ロクはインカムを頭に付けるとすぐ無線を飛ばした。
「サードホーム!ファーストホーク、オーバー?」
すると、ライの声でインカムに無線が入る。
『こちらファーストホーク!なぜこの無線を?』
「どうやらすぐそばらしいな?」辺りを見回すロク。
『疾風か?なぜ?』とライ。
「助けは要らなかったか?」
すると無線の声が変わる。あまりにもでかい声で、ロクはインカムのイヤホンを一度遠ざけた。
『ロクっ!?お前!なんでここにいるんだぁ!?』
「バ、バズーか?い、今どこだよ?」
『敵が聞いてる!追っているなら目印をしておく。』
「そうだな・・・すぐ行く。」
ロクは、無線を切ると一気にバイクで階段を昇り始めた。
バズー班。瓦礫のビルの一角で見張りを立て、警戒をしていた。日は昇り始め、辺りは明るくなっていた。
「ロクめ・・・キャンプでじっとしてれねぇのか!」とバズー。
「奴だけじゃ済まなそうだぞ。」とライ。
「ああ、ホーリーなしではここに来れないしな?」とキーン。
「あの野郎っ!また、勝手に・・・」
ジプシャン軍P4方面司令室。廃墟の一角にいくつかの機器を持ち込んだ簡単な作りの部屋だった。兵はわずかに6名程で、その奥にはタケシが横柄に座っている。すると、兵の一人がタケシに近寄った。
「タケシ様。敵の無線らしきものを傍受。場所は特定付きませんが、この界隈かと思われます。」
「ほう!ポリスの援軍か?ここまで来れる奴らがいるとわな・・・それともこいつを救出に来たか?」とタケシ。
タケシが振り向いた先には、後ろに手を縛られ、長い自らの髪で天井部分に吊るされている少女がいた。かろうじてつま先だけで立っているが踵が付くと髪が引っ張られる状態だ。ロクらと同じポリスの制服、歳は15歳前後で顔には無数の殴られた痕があり、口からは血を流し意識朦朧としていた。タケシの声を聞いていたのか、少女はやっとの力で目を開くと、タケシの顔を睨み付けた。タケシはその吊るされた少女に近寄って行く。
「仲間思いだな?お前らは?」
「私を・・・助けになんて来るわけないでしょ・・・私はもう死んだ事になってるわ・・・」と少女。
「しかし、今この界隈に来ているのはP4ではない。」
「ふん・・・早く、仲間のように首を切り落としなさいよ・・・」
「首切りは四天王以外興味がないのでな?あと一人を吐かないなら、また別の女を連れて来るだけだぜ?」
「勝手にしな・・・」
「まあ、最後の一人が捕まり次第、お前の前に生首を持ってきてやる。そうすれば、お前はまた泣き崩れるだろうがな?」
「ゲスが・・・」
「ふん・・・よし!この辺りを中心にシラミ潰しで捜せ!もう一人の四天王を連れて来るんだ!・・・女!まあ楽しみに待っていろ!」
そう言うとタケシは、その部屋を出て行った。
バズー班が待機している廃墟ビル。一人の見張りが、バイクの音を確認する。すぐ無線を飛ばす見張り。
「バズーさん!我々が来た後方からバイク音です!1台と思われます!」
『全員、持ち場に戻れ!』とバズーの声。
バズー班の各員は、各々の持ち場に分かれ、そのバイクの音の方向に銃を構える。すると瓦礫の山をアップダウンしながら走る、ジプシャンの兵士が見えて来る。
「敵兵です!バイクに乗っています!・・・ん?」無線を飛ばす若い兵。
『どうした!?』
「胸に“6”の数字!」
『ふふふ・・・撃つなよ!それロクだ!』
「はぁ?」
そのバイクの男は、制服の左胸に6の数字を書き込んでいた。
『いいか?近づいたら空砲を3発鳴らせ!』とバズーの声。
「分かりました。」
見張りの兵は、空に向かって拳銃を3発撃ち込む。するとバイクの男は、その場で停車をしヘルメットを脱いだ。そこにはロクの姿があった。ビルを見上げるロク。
「鳴らさんでもいいのに・・・」
バズー班。ロクを加えたメンバーが、廃墟の一室に集まっていた。
缶詰を空けナイフで直で食事をしている。
「で?キキもホーリーも来るのか?ほら水!」水筒をロクに渡すバズー。
「まあ、そんな感じかな?」
「モスキートが死ぬなんて・・・」とキーン。
「ん?・・・ブイは?」ロクがブイが居ないのに気づく。
「・・・」バズーは無言で首を振った。
「そうか・・・」
「ところでどうして罠だと?」とキーン。
「うん・・・バズー班を追いかけている足跡が一人。ダブル班を追いかける足跡も一人。どっちも泳がされていた。」
「わざとP4へ入れたという事か?」とバズー。
「可能性はな・・・ただ何か引っ掛かる。」
「奴等まだP4の出入口を分かっていない?」とキーン。
「恐らく・・・」
「で?お前はこのままこっちに合流するのか?」回ってきた水筒に口を付けるバズー。
「ああ、後方支援でよければ・・・出来れば引き返えすのが策の一つだが?」
「ここまで来て、P6に帰れるかよ?」
「敵も入れないなら、味方も入れない・・・思った以上だ。バズー?この作戦自体、無謀かもしれないぞ!」
「うーん・・・困った困った・・・」頭を掻くバズー。
「そういや無線が届いたんだ。しかも“シックス”に来いと。」とキーン
「無線?シックスに?それがP4のモノだと?敵の策ではないのか?」
「可能性はなくない。トンネル内でも敵はこちらの照明信号を解読していた・・・それで迂闊に近寄ったブイが撃たれた。」
「行くもいいが・・・博打だな?」
「ああ・・・」
すると、突然無線が入った。
『西側1キロに敵兵確認!』
「ここを気づかれたか?」
『いえ・・・何かを捜索してる様子です。』
「無線は使うな。下で待機だ!」とバズー。
「夜まで待ってくれない様子だな?」とキーン。
「らしいな・・・」ロクは一人親指を噛んだ。
タケシの司令室。タケシがいつになく苛立っている。
「奴等、まだ見つからんのか?」
「はい・・・兵は増員していますが・・・」と嶋。
「死神は役に立たんな。敵の裏をかかれるとは・・・」
すると、髪の毛だけで吊るされたポリスの少女兵が口を開いた。
「あいつだ・・・ロクだ・・・ふふふ・・・」
その声に、気づいたのかタケシは少女に近寄る。
「なんだ?何か言ったか?」
「奴が来る・・・ここは・・・全滅するわよ・・・ふふふ・・・」
「誰が来るって?おいっ!?」
タケシは、再び無防備な少女を殴り始めた。
「ふふふ・・・」
殴られながらも、笑いを止めない少女。
「このアマ・・・」
すると、建物の下の階から爆発音が聞こえる。
「何事だ!?」
部屋にいた、兵士たちが慌しく動きだした。すると部屋の外から男たちの声が聞こえてくる。
「燃えてるぞ!消火しろ!」
「火災か!?」
「どこが燃えてるんだ!?」
その騒ぎを聞いていたタケシは、部下を下の階まで向かわせた。すると兵が向かった通路から、煙がタケシの居た階まで上がってきた。すると顔を布で押さえた兵士が入ってきた。
「火災です!一旦非難を!」
タケシも尋常ではない煙の量に驚き、下の階を階段で降り始めた。
「何が燃えてると言うのだ?この瓦礫の建物で?」
すると、地上階で4名程の兵がバケツなどで火元を消火しているのが見えて来る。タケシは恐る恐る近寄ってみる。
「何だ!?」
兵士は消火が治まった火元に近寄る。タケシもそれを見てその場に駆け寄った。そこには10本くらいの発炎筒の燃えカスが置かれているだけだった。
「は、発炎筒?あいつ・・・」
タケシは降りてきた階段を急ぎ駆け上がると、先程いた煙漂う司令室に戻る。すると、先程まで髪の毛だけで吊るされていたポリスの少女兵が居ないのに気づく。吊るされていたチェーンには、少女の長い髪の毛だけが付着していた。
「おい!捕虜が逃げたぞ!」
タケシはすぐ、消火に当たらせていた下の兵を呼び込んだ。タケシの声に、兵士が慌てて階に上がってくる。
「あの体だ。そう遠くには逃げれない。捜せ!」
兵らはすぐ機関銃を手に取り、再び階段を駆け下りて行く。タケシは一人、チェーンの少女の髪の毛を見てみる。
「ナイフ・・・?誰かに切り落とされたか?」
少女を担いで瓦礫の街を走る、ジプシャン軍の兵士の姿があった。日は沈みかけ空の色は変わろうとしていた。よく見るとそのジプシャンの兵はロクであった。ロクはある建物の影に入ると、その少女を肩からそっと降ろした。
「イブ!イブ!しっかりしろ!」
イブと呼ばれた少女兵は、ロクの声に気づき目を開け始めた。
「やっぱり・・・あんたね・・・?」
ロクは、イブの力ない声に事が重大な事に気づく。
「どこをやられた?見せてみろ?」
ロクは制服の一番血が滲んでいる所を捲り上げた。
「うっ・・・」
ロクはイブの腹部を見ると、イブに聞こえないくらいの声がつい漏れてしまった。
「何日か前・・・拷問で棒で殴られた・・・アバラが折れてどこかに刺さっている・・・」
「早く言えよ!担いで来るんじゃなかった。」
「いいの・・・もう長くない・・・」
「そんな事言うな!なんとかする!」
「出た出た・・・」
「ふっ・・・」
ロクは持っていた応急道具でイヴに手当てをし始める。
「どうしてあの場所を?」
「ああ、偵察中の兵を捕まえて“吐かせた”。ああ!その方法は聞くなよ。」
「あんな奇襲はロクしかいないと思っていたわ。敵兵を一人も倒さないなんて・・・」
「SCを運転するか、奇襲くらいしか能がないんでな。」
「みんなは?」
「今連れて行く。キキが合流してくれればいいが・・・」
「敵は今、あんたを追っている。私はいい。早くここを逃げて・・・」
「馬鹿を言うな!連れてP6まで帰る!」
ロクはイブを抱えようとした時だった。ロクは後ろに気配を感じ、慌てて拳銃を抜くロク。
「動くな!」
しかし既に、ロクの後頭部に銃は突きつけられていた。焦るロク。ロクは諦めてイヴをゆっくり地面に置くとゆっくり両手を挙げた。
「あらら・・・俺とした事が・・・」