その9 盲(もう)撃ち
ブイは前のめりに倒れた。ブイが持っていた懐中電灯が落ちると、トンネル内は再び暗闇となった。
「罠だ!」バズーが叫んだ。
「撃ち返せ!」バズーの声でキーンも叫ぶ。
双方は狭いトンネル内で、激しい銃撃戦となった。暗視スコープを外していたバズー班は、ただ闇雲に音がする方に撃ち返すしかなかった。明かりは銃弾が走る明かりしかない。隠れる所のないバズー班は、一人また一人と銃弾に倒れていく。その時、キーンがバズーに向かって叫んだ。
「バズー!やるんだ!」
「ああ・・・後で文句言うなよ!」
バズーは暗闇のキーンの声の方に叫ぶと、身を屈めながら敵陣営に向かってバズーカを発射した。弾は命中、天井まで被害が及んだ。大量の砂埃と爆風が、バズーらを襲う。静かになったトンネル内にバズーたちは立ち上がった。
「何人撃たれた?衛生兵は怪我人の手当てだ!キーン!?敵の生存を確認してくれ!」とバズー。
「わかった!ライト点けろ!」
埃漂うトンネル内に懐中電灯が点けられた。バズー班で倒れていたのはブイを入れて3人。
「衛生兵!こっちだ!キーンはブイを!」バズーが指示を飛ばす。
「まずい!衛生兵も撃たれてる・・・」嘆くキーン。
「くそっ・・・と、とにかくブイを見てやれ!」
キーンは、ブイが倒れている所まで走って近寄ると、ブイを抱き起こした。しかし、ブイは動く気配すらない。
「駄目か・・・」
バズーも近寄ると、キーンはバズーに向かって首を横に振った。
「あいつら・・・ポリスの照明信号を使っていた・・・」
「こんな内部まで、敵に進入されているのか?」
「敵が居るという事は、どこかに出口はあるな?」
「そうだな・・・」
「ブイの装備と無線機を持っていく!誰か無線機を頼む!」
「ああ・・・」
ダブル班。ロクが廃墟の高いビルから周りを警戒している。あたりは日が暮れ、既に暗くなっていた。そこにある兵がやって来る。歳は12、3歳。ダブル班の兵士だった。名はボム。当時4期生、後のP5四天王のボブである。
「言われた通り、後方500地点にも仕掛けました。」
「ご苦労。これで安心して前進出来る!」とロク。
「疾風のロクと呼ばれる人と作戦が組めて光栄です!」と謙虚なボム。
「ふっ、いつの頃やら・・・ほら!」照れるロク。ロクは何かの缶詰をボムにほおり投げた。ボムは腹が空いていたのか、その缶詰の蓋を開けて中身を頬張る。ボムは口に物が入りながらロクに尋ねた。
「ロクさんは、盲撃ちが出来ると聞いてます?」
「ああ、確かに・・・」
「目を瞑って撃つんですよね?今度、自分にも教えてください!」
「無事ポリスに帰れたらな・・・」
「はい!」
「とは言え・・・教えるような技術はない。うーん、なんて言うかな。俺もP5の四天王の死龍に教えてもらったからな・・・」
「P5の女四天王の死龍さんですか?」ボムの目が輝く。
「ああ、怖い女だぞ!おんな女、上官にするもんじゃないな・・・そいつにさ、目で撃つんじゃなくて肌で撃てって言われてさ。」
「うーん・・・嫌な予感が・・・えっ?肌ですか?」
「うん・・・目を開けていると怖くて、手が縮むから、あえて目を瞑るんだって・・・」
「へぇーそんな事出来るんですね?」
「そうだな・・・傍から見たら不思議なんだろうな?」
すると、そこにホーリーが入ってくる。
「班長・・・戻ったぞ!」
「それで?状況は?」
「おい!そこあたいにも缶詰!」ボムに食料を要求するホーリー。
「は、はい・・・」ホーリーの迫力に、ロクから貰った缶詰をそのまま手渡すボム。
「志村口は・・・やばいな・・・」ホーリーが顔をしかめた。
「どうした?」
「敵のバイク隊が入口に集結している。何かあるよ?」
「死神だな?数は?」
「約50、しかし運び出されるのはジプシャン兵の遺体ばかりだ!」
「ジプシャンも上手くいってないという事か・・・恐らく・・・バズーだな?」薄笑みを浮かべるロク。
「私もそう思う。で、どうする?」
「後方から仕掛ける。ダブルには?」
「まだ伝えてない・・・」
「バズーは、苦戦してると思うか?」
「あいつがただでは死なないわよね?」ホーリーは笑ってみせた。
「仕掛けるんですか?ロクさん?」ボムがロクに尋ねる。
「今は、ダブル班・・・ダブルに任すよ。」
「反対したら、一人でも行くくせに・・・」とホーリー。
「そうだな・・・」ひとり苦笑いするロク。
「自分も行かせて下さい。」ロクの前に出るボム。
「駄目よ。君らはここに居て!」とホーリー。
「どうしてですか・・・?」
「ここからは、ダブル班と別行動だな?」とロク。
「どうせ奇襲でしょ?」
「ああ・・・さて、どうしたもんやら・・・?」
志村口入口。そこには既にジプシャン軍のバイク隊の本体が終結しつつあった。大広の姿もある。
「敵の姿は、坑内にはなく!」
「何をしてるのですか?」と大広。
「旧神保町付近に、こちらの兵ばかりがやられ・・・」
「敵の姿がないというのは変です。どこかに抜け道があると思われます。兵を送って下さい。」
「ははっ!」
「敵の2次隊は間違いなくここに来ます。隊を左右に展開しここで待機します。」
バズー班は、更にトンネル内を南に進んでいた。すると突然、無線機が鳴り始める。
「無線だ!」
無線機はライが引き継いでいた。その無線を傍受する。
『・・・4・・・聞こ・・・か?・・・』
「こちらバルーン。こちらバルーン!応答せよ。」
『・・・シックス・・・目指・・・地上に・・・待機・・・よ。』
「了解!シックスだな!?」
『・・・だ・・・』
「了解!」
無線がきれ、バズーらはライに近寄る。
「シックス・・・?なんだ?」とバズー。
「旧六本木6丁目近辺。通称シックス・・・旧防衛庁だ。」
「また、敵の罠じゃないよな?」とキーン。
「第一、今の俺らじゃ地上にも出れないな?」
「風はある。どこからかは吹いてる証拠だ。」とライ。
「今の俺らには、前に進む道しか選択の余地はないな・・・行こう。バズー!」
「そうだが・・・この無線も本当かどうか?」
「考える暇があったら、前に進むぞ。食料はあるが、飲み水は残り少ない。この暑さでだいぶ消費した。まずは地上だ!」
「奴らが入れたんだからな・・・出口もきっと・・・」
廃墟ビルのダブル班。皆が集まっている。
「志村口に敵が?しかもバイク隊?」とダブル。
「死神の本体と思われる。」とホーリー。
「バズーを助けるのか?」
「今の様子から見て、助けは要らんだろ。そうだなホーリー?」とロク。
「そうだな・・・」
「しかし、このまま俺らは地上を行く訳には危険だ・・・」とダブル。
「確かに、危険はある・・・」
「どうするんだよ、ロク?」
「敵は、2次隊の俺らが来るのを待っている。そこでだ・・・」
「ん?」
「敵のど真ん中を、中央突破する!」ニヤリと笑うロク。