その1 隊長ロク
20XX年・・・
どの国がどこへ何発の核ミサイルを発射したのかは、ここの記録には残っていない・・・
ただ、運命の日・・・地球の99%が滅んだ。
大地も、空も、動物も、植物も・・・
残ったのは、僅かな人類と昆虫、そして海だけだった。
時は流れた・・・
植物を失った地球は、山が削れ荒野から砂漠となり、砂という砂に埋もれていく。
地球と海は砂漠の惑星と化していったのだ。
また南極の氷が溶け、海抜の低い所は海に沈み始めていく。
人類はかろうじて生き延びていた。
あの日、わずかに生き残った人類でさえ、環境の激変で今では数えるほどになっている。
日本には3万人程度の人々が暮らしているものと推定されてた時代だ。
残った者たちは、互いに助け合わなければならないはずなのに、未だ法一つ作れないまま地上抗争の日々が続いている。
四天王
~The Greatest Four~
エレベーターシャフトが上がっていく。音も立てず、静かに上がるそのシャフトは壁がないのか、周りの情景が下に移動していくように見える。シャフトには車が一台乗せられていた。車高が低く、流れるような車体。黄色と黒の斜めに走る縞模様。目のような赤いライト。時折下へ流れていくライトに、その派手な車体が浮かび上がっては、また暗闇に隠れていく。
運転席には大きなのハットに口元を覆うスカーフ、長い毛皮のポンチョ着た17、8歳の一人の少年の姿があった。彼が車のキーを回すとエンジン音がシャフト内に響き渡った。獣の叫びの様なエンジン音が車内にも響いた。更にアクセルを踏み続け、爆音を轟かしエンジン音をチェックしてる様子だ。
「よく仕上げてあるな・・・?ふふふ、さすがだ・・・」
そう一人呟くと、他の機器も次々と作動させていく。
「問題はこいつだな・・・?」
少年の目が細まり、機器の一つのスイッチに手をあてたまま動かなくなった。突然、フロントガラスに一人の少年の姿が投影された。年は15、6歳。口こそ隠していないが、車内の少年と同じハットとポンチョを羽織っている。
『いい音ですね。ロクさん!隣のシャフトまでビンビンに響いてますよ!流石は歴代の・・・』
ロクはモニターの少年を睨みつけた。
「山口・・・俺を外でロクと呼ぶなよ!」
ロクは映像の山口を叱ってみせた。
『す、すいません。た、隊長・・・し、しかし本当にジプシーでしょうか?ここ2年間は、外でジプシーは誰も保護されてませんし、発見すらなかったです。今時荒野で生きて行くなんて、無謀と思いますがね?』
「昨日の報告では、上は敵の脱走兵と見ているようだ・・・」
『だ、脱走兵ですか?また厄介な・・・うちの偵察隊の4台だけで本当に大丈夫でしょうか?武装隊の護衛がいるのではないでしょうか?昨日の奴等もまだ近くにいるようですし、そいつらの罠ではないでしょうか?』
「不安か・・・?」
突然、ロクの目が優しくなった。それが逆に山口を恐がらせた。
『せ、せめて護衛くらいは付けて欲しいもんです・・・』これ以上、文句が言えないと悟った山口。
「だから俺らが行くんだよ・・・敵から逃げるのだけは得意だろ?山口副隊長~?」
『はあ・・・』
少し臆病になった山口を、ロクは不敵な笑みでカメラに答えた。
やがてエレベーターシャフトは止まり、前方の扉が上へと重い金属音をたて開き始めた。ドアの隙間から砂埃がシャフト内に舞い込む。ロクは左手でギアを入れると、山口の映像が映るフロントガラスに向かって叫んでいた。
「さぁーて・・・行きますか!?」
ロクはアクセルを踏み込んだ。
イラストはカゲオさんです。