表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

人の恋は蜜の味

恋の劇薬~弔いのレクイエム~

作者: ヒロオカ トモエ
掲載日:2026/06/28

これは乙女ゲーム『人の恋は蜜の味』に登場する主人公、ユア・スタールの物語です。

 赤ん坊が泣いている。

 お腹が空いたのか、眠いのか、生まれたばかりの彼女自身にも分からない。

 ただ泣いていた。


「うるさい……。」


 赤ん坊の母が呟く。

 母親は壁にもたれたまま座り込んでいた。

 髪は乱れ、目の下には濃い隈。


「どうして泣くの……?」


 震える声は、怒りなのか、悲しみなのか。


「お願いだから……少しだけ……。」


 赤ん坊は泣き続ける。

 

「もう嫌ー!!」


 母親が叫んだ。

 花瓶が床に叩きつけられる。

 パリン!ガラスが砕ける。

 赤ん坊はびくりと身体を震わせた。


「私だって頑張ってるのに!」


 母親は泣いていた。


「ちゃんとしようとしてるのに!」


 泣き叫びながら、自分の頭を掻きむしる。


「どうして出来ないの!?」


 その声は誰に向けられたものだったのだろう。


 自分に見向きもしない夫か?ただ泣き続ける娘か?それとも誰にも助けを求められない自分自身か?


 次の瞬間、母親は崩れるように床へ座り込んだ。


「ごめんなさい……。」


 今度は小さな声だった。


「ごめんなさい……ユア……。」


 震える手で赤ん坊を抱き上げる。


「お母さんなのに……。」


 涙が落ちる。


「どうしても可愛いって思えないの……。」


 もちろん、その言葉を覚えているはずがない。 けれど、泣いていた母の顔だけは、なぜか夢のように記憶に残っていた。


「大好きよ……。」


「大好き。」

「大好き。」

「大好き。」


 まるで呪文のように、自分に言い聞かせる。





 ユアの誕生日――。


 ずっと溢れそうだった母親の心の器が、ついに崩壊した……。


 屋敷の者達が落ち着くよう声をかける。

 今まで無関心だった夫と見て見ぬふりをしてきた舅、そして幼いユアもいた。


「こんな家に来たくなかった!みんな大嫌いだ!」


 子供の癇癪のような言葉が次々に出てくる。

 ユアと目が合う。


「ユア、あなたが殺したいくらい憎い……。」


 正気を失った目に少し光が戻る。


「ユア、あなたを愛したかった……。」


 母親は目を閉じる。


「ユア、お願いだから幸せになって……。」


 母親はそう言って窓から身を投げた。

 ドスンと鈍い音が響く。


「キャーーーーー!」


 誰かが悲鳴をあげた。





 今でも覚えている。

 お母様は最後に『幸せになって』と言った。


 だから、私は考え続けた。


 お母様は、なんで幸せになれなかったのだろう?


 私は知っている。

 幸せになってという言葉だけでは足りない。

 欲しいものは手に入れなければ意味がないのだ。





 久しぶりにお母様の夢を見た。

 膝枕をしてもらいながら髪を撫でられる。


「ねえ、ユア……」


「あなたは誰と幸せになりたかったの?」


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


 『恋の劇薬』シリーズ、これにて完結です。


 欲しいものを手に入れた人。

 手に入れられなかった人。

 手に入れた代償を支払った人。

 そして、その全てを見届けた少女。


 ユアは悪女だったのでしょうか?

 それとも、誰よりも正直だったのでしょうか?


 その答えは、読んでくださったユア(あなた)に委ねたいと思います。


 この短編で【恋蜜こいみつ】の世界を知った上で。ぜひ、本編にも遊びに来ていただけると嬉しいです。

 よろしければ感想や評価、ブックマークで応援していただけると励みになります。


 ここまで『恋の劇薬』をお読みいただき、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ