二乃章 転入生 結美音良
ここは綾星小学校。そこは村に二つある小学校のうちの一校だった。
「…はぁーっ!セーフ!」
「…ホントギリギリなんだから…」
青柳皐月が呆れる中、ひとりの男の子が教室へと滑り込む。
「あはははーっ。ミックンの言ってた所を、徹夜で練習してたんだぁー!偉いだろ?」
そう誇らしげに少年は言う。
「本当に?」
しかし皐月は、又も呆れて信じる気配がない。
その時だった。
「はい、今日から転入生が来ますよ」
担任がひとりの女の子を連れてきた。
「…今ったら5月の中旬だぞ」
「そうだね」
しかし入ってきた女の子を見て、皐月の目は大きく見開かれた。
「…えっ?音良?」
そこにいた転入生。
「…結美音良です。よろしくお願いします」
結美音良。彼女だったからだ。実は一昨日、皐月と音良は会っていた。
一方の音良も驚く。皐月を見て、大きく目を見開いてしまった。
「…じゃあ、前の空いてる席で」
「わ、分かりました」
音良は会釈するようにして、頭を下げると席へと着いた。しかしソワソワして落ち着かない。
(…綺麗な小学校だなぁ)
それにしても…と思う。
小学校が思ったよりも綺麗だった。前情報では汚い学校だ、とかなりの悪評を聞いていた。
(…そういえば、ここの前の村長が亡くなってから、村の政策が変わったって…お母さんが言ってたっけ)
取り敢えず、音良は気持ちを落ち着かせて、授業を受けることにした。
「…ねぇねぇー、音良ちゃんって可愛いね」
「どこから来たの?」
そう訊ねる友達に、音良はひとつひとつ丁寧に答える。
やがて数人の生徒が離れると、あの青柳皐月が話しかけて来た。彼女はずっと話しかけるのを待っていたようだ。
「音良、おはよう」
「皐月…ちゃん、おはよう」
「皐月…でいいよ」
「うん」
音良と皐月は早速、打ち解け合っていた。
「結ちゃん、初めまして〜」
「結…ちゃん?初めまして」
音良は男子の前でも、笑顔を絶やさない。なぜなら、男子とのコミュニケーションにも慣れているからだ。
「こら、織星。音良が嫌がるよ」
「えぇーっ、それは困るのだが…」
気さくな男の子の織星夜詩。彼のテンションに、ハッキリ言って音良はついて行けない。
「ちょっと…うるさい子だなぁ」
「でしょー」
「…はははっ!そりゃあ、綾帝村和太鼓クラブ代表だから!」
「和太鼓…クラブ?」
音良が訝しげな顔をした。
「…何言ってるの!実力は下の下のくせに!」
「やかましい!俺が本気を出せば、宇宙一うまくなれるんだよ」
「あはははは……」
(個性豊かだなぁ)
音良は、個性豊かな彼に、苦笑を禁じ得られなかった。
「そういえば、結ちゃんはどこのクラブに入るの?」
すると夜詩が、音良へと問いを投げかける。
「…決まってないよ」
音良は入るクラブすら分からない。どこへ入れば良いのか、それすらも。
「…なら、和太鼓クラブ行かない?」
すると夜詩がこう提案してきた。
「えっ…?」
音良は思わず驚いた。
「すごく面白いから!」
「えっ…?あっ…?」
「んもー。音良、ごめんね」
「えっ?」
(私が連れてかれるのを…止めてはくれないんだ)
結局、音良はこの日の放課後、綾帝村和太鼓クラブへと連行されることになった。




