一乃章 綾帝村へようこそ
「ここが…綾帝村…」
日本の関東の山間部。その中でも、あまりに田舎な村。それが綾帝村だ。自然豊かな町……と引っ越す前では聞いていたけれど、思ったよりも流行りの店は多い。それも営業時間は短いが。
「音良ー。引っ越しを手伝ってー」
母の声がする。音良と言われた女の子は、はーいと軽く返事をして、大型トラックへと進路を変えた。
結美音良。可愛らしい顔をした女の子は、母たちの手伝いを始める。
生活に必要な洗濯機、冷蔵庫などを室内に収める頃には、音良は暇になっていた。
「…おかあさーん!走ってくるね!」
「あ、ちょっと…!迷子になったら、交番に行くのよー」
「うん!」
音良は体力が異常とまで言われている。その体力は、趣味の走り込みで鍛えられたものだ。
音良は綾帝村へと引っ越す前、ほとんど毎日習い事をしていた。サッカー、絵画、ピアノその他諸々やっていた。
だが…違う。1番キツかったのは……。
商店街のように立ち並ぶ店を走り抜けて、しばらく走った時だった。
《はッ!》
《ヤぁあ!》
「……?」
音良は、突然の掛け声に足を止める。近くの木造建物から、地響きのような爆音が響く。それは暴れる鼓動と重なり合う。
「…この音…?和太鼓」
その音に、音良の脳裏が刺激された。
(…へぇ)
そこの近くの公園のブランコで、時間を潰すこと十数分。帰ろうとした時だった。
「…あら」
「あっ、」
先ほどの木造建物から、美少女が出てきた。どちらかといえば、イケメン系の女の子だった。
「…こんにちは」
音良はついクセで、頭を下げて挨拶した。
「…こんにちは。あなた、何年生?」
するとイケメン系の女子が訊ねる。
「…えっ?小学…3年生だよ」
音良がそう答えると、その女の子は驚く素振りを見せた。
「私と一緒だ。でも、私はあなたを知らない」
大人っぽい見た目に反して、小学3年生なのは驚いた。
「…きみ、名前は?」
音良が少女の名を訊ねる。
「私?私は青柳皐月。そう言うあなたは?」
「…私は結美音良。今日、ここに引っ越してきたの」
「へぇ…。そうなんだ」
皐月の驚いたような顔に、音良は手を振る。
「また…会えたら!」
「うん。あ、そうだ」
すると皐月は、走ろうとする彼女にこう残す。
「ねぇ、和太鼓、始めなーい?」
その声はいやに甘美な響きがあった。
次回…2月28日 【土】 公開予定




