表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷い船  作者: きんもぐら
4/7

そこにはたくさんいました

※こちらのお話は残酷描写がございます。


 

 あれからどうなった?

 凄い衝撃があった。そりゃあ船と船がぶつかったんだからガコンと音がなる。いやもう音がどうだったか凄すぎてわからなかった。とにかくぶつかった。

 大きく左右に揺れて、体が壁に打ち付けたり床を転がったりしたが、咄嗟に頭を抱えて体を丸めたから大事に至らなかった。

 波で大きく船が揺れている。ぐわんぐわんと、揺すられる。

 外で低い唸り声がした。それは偶蹄類のような、いや海だから鯨か。鯨みたいな生き物の声がした。

 

 揺れが落ち着いたころに起き上がり外を見る。

 この船の灯りは消えてしまったが、ぶつかった先の遊覧船の灯りでここいらの輪郭が見えた。

 じいさんを掴んでいたであろうあの大きな手はどこにも見当たらない。

 もしかしてぶつかった拍子に怯んだのか。

 ならば今のうちではないか?この船はもう動かない。ここにいても手の餌食になるだけだ。

 俺は、操舵室から外に出て辺りを見渡す。屋形船は遊覧船に刺さっていた。船首に行ってあっちの船の内部に入れそうだ。

 なりふり構っていられない。何故ならあちらの船はゆっくりと進んでいる。屋形船は置いて行かれる。

 室内を突っ切っていくか、横の細い道を行くか悩んだ。だが、少しでも身を隠せるならと、俺はあのじいさんがいたであろう室内へ入るため、扉を開ける。中に入る前に外で大きく息を吸い、止める。きっと嫌な匂いがする。

 

 室内は先ほどより良く見えた。

 激突した衝撃でローテーブルはひっくり返っており、皿やらグラスが床に散らばっていた。

 しまった、素足だ。なるべく気を付けて走る。余所見をしないように走る。だって、この部屋のどこかに、じいさんが。

 外に出るドアは一目でわかった。よかった、と安心していれば船が左右に大きく揺れた。もしかして、手がまた来たのか?もう身を隠す場所なんてない。俺は焦った。もうケガとか関係ない。勢いよく走って部屋を突っ切った。

 途中、何かに躓いて転ぶ。

 いや、足首を掴まれたんだ。

 何に?


 「たす、けろ」


 下半身は瓦礫に埋もれて見えなかった。いや、もしかしたら瓦礫に埋もれてなんかなかったかも知れない。俺の視覚にはじいさんの上半身だけしか映っていない。悲惨な状態でまだ生きていたのか。胃から何かがこみ上げそうだ。

 それ以上に怖かった。

 じいさんもだし、外の手に見つかるのが。

 足を離して欲しくて振るがどこにそんな力があるのか離れない。俺は段々焦ってくる。俺は、じいさんの顔を何度も何度も蹴った。非人道的な行為だが、生存本能が優先された。何回目かの蹴りでじいさんの手が緩む。その瞬間に足をひっこ抜き、走った。


 バン。

 自分がさっきまでいた場所に大きな手が、まるで蚊を潰すかのような動作で入ってきた。


 振り返ることはせず、俺はそのまま外へ出た。

 船首まで走り、失速せずその勢いのまま跳んだ。

 あっちに着地できる足場があるかなんて確認しなかった。

 とにかく、この船から逃げたかった。

 その一心で。


 あの手は、何かを掴んで海へと戻っていった。

 見なくても分かった。

 背後は静かになった。 

 

 着地出来る足場も確認せずに跳んだが、幸いにもそこは海の中ではなく、硬い床の上だった。

 受け身をとって転がったのだが、結構な高さから落ちた。体が痛い。あまりの痛さにしばらく蹲っていれば、何かが俺の足に触れた。先ほどじいさんに足を掴まれた恐怖を思い出し、がばりと起き上がる。足に触れた何かに目を凝らして見ればそこには人がいた。じいさんとは別の人だ。その人はまじまじと俺を見て、そして足を見た。

 

「あんたどっから入ってきたんだ」

 

 ぎくりとした。そういえば船をぶつけて空いた穴から入り込んだのだ。不法侵入というやつか。だが、俺にも理由があったため、しどろもどろになりながらも先程の出来事を説明した。彼は意外にもちゃんと聞いてくれた。リアクションは薄いが、真剣に最後まで聞いてくれた。



「ほー、そんでお前さんはあの船からこっちに乗り込んできたと。その足で。よく走れたもんだ」

「なりふり構ってらんなかったんです」


 この人は爺さんと違って会話が成り立った。良かった。それだけで肩の力が抜けた。すると今まで気にならなかった足の痛みが俺を襲う。足裏が特に痛い。熱を持っているようだ。


「こいつはさぞ痛いだろうに。ちょっと待ってろ。救急箱かなんかあったはずだ」


 そういえば、ここは船のどこの部分なんだろう。

 辺りを見ていれば、視界の端で何かが忙しなく走り回っていた。足音も立てずに動いていたから気づけなかった。

 それらは、人間の姿なんだけどもサイズ感がおかしかった。いわゆる小人、というものだろうか。それらは作務衣のようなものを着ており、頭にタオルを巻いていた。小さくても体つきは見るからにごつい。散らばっている瓦礫を片付けているのだろうか。俺が乗ってきた屋形船の中も探索している様子だ。こんなにたくさんいてバタバタしているのに、何の音も聞こえない。瓦礫が崩れる音は聴こえる。でも小人が発する音が聴き取れない。耳をダメにしてしまったのか、耳穴をほじるが、がさがさと音が聴こえる。耳は問題ないようだ。おかしな現象に首をかしげていると先程の人が救急箱を持って戻ってきた。そして俺の目線の先を見ると、へぇと声を漏らした。


「見えるのかい?とんだ災難だな、兄さん」


 救急箱を持ってきた人は胡坐をかいて座り、俺の足を持ち上げてピンセットを持つと、俺の足の裏から何かを引っこ抜いていった。痛いのなんのって、飛び上がりそうなくらい痛かった。足を引きたいのに、この人の力が強すぎてびくともしない。痛くて反射的に足が動いても彼は微動だにしない。彼は手当をしながら話しかけてくれた。


「あいつらは小鬼でな、この船の修理だったり異常を排除すんのが役割なんだ」

「こ、おに?」

 「そうそう。兄さん、どっからどう見ても人間だろ。本来なら見えないもんなんだが、死んで見えるようになっちまったんかね。うるさくて敵わんでしょ?」

 「あ、いや」

「うるさいの、慣れてるかね?」

「なんでか、足音も声も聴こえないんです。だからいるのに気づかなかった」


 そう言うと、相手は目を見開いて俺を見た。

 前髪で目元が見えなかった彼の顔がちょっと見えた。妙に綺麗だった。こちらを見ながらもピンセットで器用に異物を抜いていく。


「先に声をかけてよかった」

「どうして」

「さっきも言ったろう。小鬼は船の修理もするし、異常を排除するって」


 抜いたグラスの欠片が床にコロンと転がった。転がったそれも、小鬼が拾って片付けてくれた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ