天狗熊
木々が生い茂る山道。
そこには天狗になった熊〈天狗熊〉が現れると言われていた。
「天狗熊なんているわけないだろ。信じるヤツはアホだ」
山道の先にある山小屋に、ウワサを流した主が住んでいた。
主はモニターに映る山道のライブ映像を繰り返し観ながら笑っている。そこには天狗熊像を見て、叫びながら慌てて逃げる2人組が映し出されている。
主は自分が流したウワサを見に来た人達を、小バカにして楽しんでいた。
「さて、直さないと」
主は作動した天狗熊像をセットし直すため、歩いて山道を下り始めた。
しばらくすると
「ん?」
獣が唸る音がした。
この山で初めて聞く音。山には熊などの大型獣はいない。もちろん天狗熊はフィクションで存在しない。
ふと、背後にナニかを感じた
ゆっくり振り向く
そこにいたのは
天狗の服を着た熊だった
ウワサが現実化したその日から、ウワサの主を見た者はいなかった。